第25話 【番外】素直に、

「真由美さん、お花買ってもいい?」

 久しぶりに街へ買い物に出た帰り、近所のお花屋さんの前を通りかかった時に、思いついたように美樹が言った。

「いいよ」

 そう言うと、やった! と物色を始めた。

「そうだ、今、細かいのがないから、これで払って崩してくれる?」と財布を渡した。

「はぁい」と、花屋さんの奥へと向かった。どうやら意中のものが見つかったようだ。

 家へ戻って、早速飾っている。

「いいね、クリスマスっぽい」

「でしょ? あ、そういえば真由美さん」

「ん、なに?」

「まだ、お財布にアレしまってあるの?」

「えっ? あぁ、アレ? まだ有効でしょ?」


 あれは、美樹がまだ闘病中で化学療法をしていた年のクリスマスだった。



ーーー


「はぁぁ、もうやだ」

「どうした、辛い?」

「なんで、こんな日に熱出ちゃうんだろ。昨日まではなんともなかったのに」

「白血球下がってるから、しょうがないよ、美樹のせいじゃないんだし」

「また真由美さん休ませちゃったし、それに今日は」

「はい、採血するよ。ごめんね」

 美樹の言葉を遮って、採血をした。

 これからしばらくは、点滴をすることになる。美樹も分かってるから凹んで否定的な言葉がいろいろ出てくる。

「真由美さんのせいでもないんだから、謝らないでよ」

「そうだね」

 そっと頬に手をやると、また少し熱が上がったようだった。


「検体持って行って、点滴の準備持って帰ってくるから待っててね、その後はずっといるから」

「うん」

 感染が酷くなるようなら入院が必要になる。そうならないよう出来るだけの事をするだけだ。


 帰って来たら、解熱剤が効いているのか美樹はうとうとしていた。

 留置していた針に点滴を繋げる。

「真由美さん?」

「うん、ここに居るから少し寝たら」

「キスして」

「白血球が上がったらね」

「クソ、白血球め」

 もう何度目かの会話だ。

 いつもはここで終わるのだけれど、今日は続いた。

「真由美さん、いつもごめんなさい」

「どうした?」

「今日はクリスマスだから、少しだけ素直な気持ち、聞いてほしくて」

「うん、いいよ」


「真由美さんは私が謝るのを嫌がるけど、でもやっぱり私のせいでって思っちゃうから。せっかくのクリスマスに看病させてごめんなさい。それから、いつもありがとう。真由美さんが採血も点滴もやってくれるから、私は家に居られるし。それに......真由美さんを独り占めできる。真由美さんがいれば、私は......幸せですよ」

「美樹、私も美樹と居られれば幸せだよ」

「真由美さんも、今日は素直ですねぇ。やっぱりクリスマスだからかな」

 クリスマスは素直に感謝の気持ちを言い合える日かもしれない。

「美樹はいつも素直で可愛いよ、時々いじっぱりだけどね」

 ふふっと、二人で笑った。


「そうだ、真由美さん」

「ん?」

「来年のクリスマス、予約していい?」

「いいよ、どこ予約する?」

「真由美さんを」

「は? 私?」

「真由美さんを一日中予約します」

「わかった、いいよ。一筆書いとく?」

「あ、私が書く」


ーーー



 で、出来上がったのが。

『クリスマスイブに真由美さんと一晩中エッチする券』だ。

 熱で浮かされていたはずなのに、パンチが効いている。

 見た時は吹き出したけれど。

 失くさないように、大事に財布の中に入れた。

 後日、美樹がそれを知って

「もし落として誰かに見られたら恥ずかしいからやめて!」って言われたけれど、結局そのままだ。


「もう〜何年前の話? もう時効だよ」

「えぇ〜今年も使おうと思ったのに」

 どうする? って近づいたら

 別にそんなのなくても......という小さなこえが聞こえた。


 クリスマスは素直に気持ちを伝え合う日だ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

告白の、 hibari19 @hibari19

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ