愛を愁える

瀬高 海

第1話 

 何気ない春、何気ない教室、日常に溶け込んでいた。でも、僕にはその人が見えなかった。


 その人は、いつも誰かと一緒にいた。よく笑っていて、ご飯の食べ方がとても綺麗で、礼儀正しい人らしい。クラスの女子達が彼の事をそう話していた。たまにいる、いわゆる良い人だった。そんな彼が僕に見えるようになったのは高校に入学してから一年経った春だった。


 夜中にふと散歩に行きたくなって何も持たずに家を出た。明るい街灯に導かれるように歩いているとコンビニのイートインスペースに彼を見つけた。コーヒーを片手に何かを見つめる彼の視線がこっちを向いて目が合う。このまま帰ると気まずくなる気がしてゆっくりと彼のいるところまで歩く。コンビニの時計の針は10時を指していた。

「こんな時間になにしてるの」

「コーヒー飲んでたんだ」

「見たらわかるよ。今何時だと思ってるの」

「お母さんみたいなこと言わないでよ、君だって俺と一緒にいるくせに」

笑顔でそう言ってコーヒーを一口。

「なんで泣きそうなんだよ」

僕には彼の笑顔が泣き顔に見えて不思議だった。それから彼の形がはっきり見えた。彼は、「もう少し一緒にいてほしい」と僕に言ってそれ以降は何も話さず、僕が独り言のように質問をし、彼は首を振るだけだった。それは感情のないロボットのようで多分僕だけが見えている彼の姿だった。

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