第3話 玄武の忘れがたみ

 その日将軍は、妻の部屋へ前触れも無く現れ、ものすごい剣幕で妻をどなりつけた。そして

「あの子をどこへ隠した。

事と次第によっては、妻のお前であろうと絶対に許さない!」

と、刀に手をやった。


「あの子にだけは随分、執着なさるのですね。

 あなたを振って玄武を選んだヘラが産んだ子供ですよ?

 それもヘラに生き写しの男の子!

 ヘラをまだ愛しているとしか思えないわ」

と妻は笑った。



「そういうお前はなんだ?

 お前を選ばなかった玄武を、死んでも許そうとはしないのだから、

あきれる。あの子には何の罪もないのに」

と将軍はあきれたように言った。


「そうです。玄武さまとて、何の罪もなかった。

あなたに謀反の罪を着せられただけ」


「何を言う、計画を練ったのはお前だ。

私はお前にだまされただけだ。

とにかく早くあの子を返せ!

あの子をどこへやったのだ?」

と妻ににじり寄ると、躊躇なく妻の首に冷たい刀の刃を突きつけた。


 将軍はもちろん妻を本気で殺すつもりはない。

 やがて刀を鞘に収めると、また執拗に尋ねた。

「あの子を何処へやった?

 早く連れ戻してこい!

 私とてそういつまでもお前の振る舞いを、許しておくわけにはいかないのだぞ」

と言った。



しかし妻は、

「無理ですわ。あの子は寺へ預けました。

重罪人の子どもです。隔離しなければ・・・」

と冷たく言い切り、夫である将軍を嘲笑さえした。




 妻は王を何人も排出した名門貴族の出身だったが、将軍は貴族と言っても

末端に名を連ねるだけの平民と大して変わらないような貴族の出身だった。


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