帯屋前編 大逆転に顔芸って、『半沢直樹』かよ!
いよいよ舞台は長右衛門が主人を務める帯屋にやってきました。
スーパーウーマンお絹さんがたすき掛けしてクルクル働くかたわらで、姑のおとせが意地こじと嫁いびりをはじめます。
うわー妖怪だ!
初登場のおとせですが、こやつ人間のていをなしていません。
鬼婆というか、ゴブリンと言うか、顔がもう人外。ある種の迫力があります。
長右衛門は研ぎに出していた脇差を武家に納品に行っていますが、帰りが遅い。
「どうせ悪所に上がり込んで女と遊んでいるんだろう、それに引き換え私の儀兵衛は真面目に働いて……」
くどくどくどくど。
余りの悪態のひどさに舅である先代主人繁斎がお絹を連れ出してしまいます。
残されたのは、おとせと儀兵衛の悪役母子。
こいつらがなにを始めるかと思いきや、これ幸いとばかり帳簿を漁って使途不明金のチェックです。
重箱の隅を突っついてでも長右衛門の弱みを握るつもりですが、あっさりと大金百両の行方不明が発覚しました。
長右衛門のことだから芸子遊びにでも使ったんだろうって、悪党母子に言われても私は否定できません。長右衛門ダメ人間だし。
ついでとばかり店の金庫を合鍵で開けて、中の五十両を盗み出して長右衛門に濡れ衣を着せる見上げた悪党ぶりです。
大量の使途不明金に不倫の恋文と社長解任動議は準備万端。
この罠の敷かれた会議室じゃなかった帯屋に長右衛門が帰ってきちゃう訳ですよ。
百両が無い、金庫の中の五十両も無い、隣家の小娘からは「長さま、お伊勢参りのあの夜が忘れられません」なんて完全アウトな手紙が来ている。
帰宅早々に先代主人の繁斎、嫁のお絹の前で次々と明らかになる長右衛門の悪事。
まあでも、盗まれた五十両以外はぜんぶ自業自得の気もするんですが。
顔面蒼白みるみる全身から冷や汗を滴らせる長右衛門。
先代繁斎からも「恩人の娘に手を付けて店の看板に泥を塗り、お絹の実家になんと申し開きをするつもりなんだ」と嘆かれます。
ここでお絹の事を思うあたり、まこと繁斎良いお人です。
しかし繁斎さん、あなたがあのゴブリンみたいなおとせを後妻に取らなければそもそも問題は起きなかったんじゃ。
ともかく今まで大きな声一つ出したことのない優しい養父の初めての叱責に涙を流す長右衛門。泣きたい気持ちは大変分かりますが何の問題解決にもなってません。
ここでお絹に手番が回ってきます。
「確かにその通りなら非道い話ですが、お半ちゃんの恋の相手はうちの人じゃありません」
「じゃあ誰なんだよ」
既にここで会話の主導権がお絹に移っています。口喧嘩強すぎ。
「お半ちゃんのお相手は昔なじみの長吉君ですよ、長さまかぶりでみんな勘違いしちゃったんですね」
おとせや儀兵衛はせせら笑いますし、繁斎や長右衛門まで口をぽかんと開けています。何せあのキモい長吉と美少女のお半がそんな仲になるはずがない。
「お隣同士で都合がいい、いっその事、張本人の長吉を連れてこようぜ」
調子に乗って駆けだす儀兵衛、もうまんまとお絹の策にはまっています。
そして現れた長吉はお絹との打ち合わせ通りに、お半様と石部の宿で深い仲になりましたと、いけしゃあしゃあと言ってのけます。
「そんな馬鹿な」「ハメられた」と思っても後の祭り。儀兵衛自ら長吉を呼んできた手前これ以上追及が出来ません。
ならばと使途不明金の件で長右衛門を攻め立てようとすれば、とうとう繁斎が一喝します。
「この店の今の主人は長右衛門だ。店のすべては長右衛門のもの。百両使おうが千両使おうが誰にもとやかく言わせん」
ありがたい、なんてありがたいお言葉。女性の趣味が悪い以外、繁斎さんに言う事はありません。
攻め手をなくした儀兵衛とおとせは不満顔で立ち去っていきます。
倍返しとは参りませんが理不尽攻めに耐えた後、悪党の策略を逆手にとって反撃するってのは胸がすきますね。
胴乱の幸助さんにしても乱入したくなるわけです。
日本人の心の琴線に触れるシチュエーションではないでしょうか。
……でもこのシーン、長右衛門なにも活躍してないや。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます