我が聖戦はコンビニにあり

桃色金太郎

第1話

 俺の名は佐々茂。オタクと一般ピーポーの狭間はざまの人間だ。


 その理由はコアな所にそれほどのめり込まないからだ。そこら辺は分別のある大人だと自負している。


 ただ最近はまっているアニメ『ウマッ子艦隊が異世界だなんて、そんなつもりでチーレム無双』のコンビニくじが今日から発売する情報をキャッチした。


 そのアニメに出てくるヒロインの〝くるみマロンちゃん〞がすごく健気で可愛ゆくて、俺のハートを鷲掴みにしている。


 そして今回、彼女のフィギアがクジの1等の景品となると聞きつけ、有休を取って朝からコンビニにきているのだ。


「ふぅ、まったく世話のかかるウマッ子だぜ」


 中に入り俺はわき目もふらずレジへと向かった。

 あいにくと、3人の先客がおり、しばし至福の時を待つ。


 レジにはバカップルが2人とおっさんが1人か。

 こんなに並んでいるのにレジ係は1人しかいない。


 イラッとくる……イカン、神聖なくじ引きの前にイラついていてはマロンちゃんに失礼だ。


「ねーねー、あのクジの人形可愛くない?

 私欲しいなぁ 」


 ピキッ! 人形ではなくフィギアだ、フィギア!


「じゃあ運試しに2つやっちゃうか」


 なんと、ぽっと出のヤツがマロンちゃん拐おうとしている。

 外れろー、ハズレローと呪いの念を送る俺を尻目にキャッキャ、キャッキャとイチャついている。

 爆ぜるを超えてけろリア充め。


 でも、もし当てられたら次の店に行かなくてはいけない。


「外れちゃったー、私欲しかったのにー」


 当たり前だわ、そんなに簡単に当てられちゃコンビニ業界やってられないぞ。


「かわいそうに、アイス買ってやるから選びに行こうぜ」


 アイスで頭と恋愛熱を冷やせ。

 そんな罵声を心の中でカップルに浴びせながら、もう1人のオッサンに注目をする。


 まさかと思うがクジは引かないだろうな。

 手に持っているのはおにぎりとお茶が1個ずつ。

 少ない小遣いでやりくりをしているのが目に見える。その背中の哀愁に涙が出るぜ。

 オッサンはレジを済ますとそのまま出て行った。


 よし、後ろに人も並んでいないし、心置きなくひけるぜ。


「そのクジ、まずは10本下さい」


 今回のこのクジは700円(税込み)で100本入り、1等から5等まであり、目玉はもちろんマロンちゃんの〝南の島de海水浴バージョン〞のフィギアで当然1本しかアタリはない。


 いざ!


 3枚まとめて開けてみると、3等が1本か、うむ、まずまずかな。

 次は……上位陣ナシ。次、2等が1本! よし、波が来ているじゃないか。このままノリで1等よ来い。


「お姉さん、もう10本追加ね」


 まだ、後ろに人はいない。


 100本大人買いをしても良いくらい価値はあるのだ。しかし極力出費を抑えたいのは人のサガ。


 うりゃ……2等が来た、おおーっ、 キてる、キてる。おりゃー、ナシ。トリャー……またか。


「お、お姉さん、追加10本を」


 7000円ずつが消えていき、50本を超えてきた。

 お、おかしい。あれ以降、1等どころか5本もある3等すら出てこない。


 そ、そっか。神様が感動のシチュエーションを用意してくれているんだ。ハハハ、焦ったらダメだ、平常心を保ってひくべし……またダメか。


 ……おい、90本買っても出ないぞ。1等がここまで出ないとは酷い。他は出尽くしているのに。


「はぁはぁ、お姉さん、残り全部ちょうだい」


 お姉さんはちょっと引いているけれど、そんなの構っていられない。

 でも、これでやっとを長かった戦いもようやく終わる。

 6万8600円のマロンちゃんか……くっ、高くない。

 俺の愛は金額では測れないんだ。そこらのヤツとは愛の規模も深さも段チで違うんだ。


 くそ、最後の100本目まで引き伸ばされちまったがやっとご対面だぜ。


【5等】


 はあ~~~~~あ~~~~~?


『ゴラッ、ねーちゃんコレどないなってんのや、いてこますぞ』


 と言いたいが、漏れなく通報されるので、ここは紳士的に聞いてみる。

 レジのお姉さんも不思議がっていて皆目見当がつかないようだ。


 すると後からまた、さっきのバカップルがやってきた。


「お姉さん、アイスと~この交換お願い、1等当たってたよ」


 どういう事だ。コイツら外れたはずじゃあ……あっ! 思い出した。


 2本購入して女が外れてふてくされていたから、てっきり2人とも外れたと思い込んでしまったんだ。


 でも、実際は男の方がまだ開けていなく、そこに1等が隠れていたんだ。


 つまり俺は1等のクジがないにもかかわらず、コンビニの売り上げに貢献するため、せっせと貢いだってことかよ! くっそーーーー!


「やったー、俺のもん~。ラッキー」


「え~、超ズルイ。私にちょうだいよ」


 溶けて流れろ、リア充。


 というかこんなヤツラに構っていられないぞ。他の人に取られる前に別のコンビニへ行かないと。


 車を飛ばすこと15分、ようやく隣町のコンビニたどり着いた。

 よっしゃ、1等はまだ出ていない。店員さんにも確認したから間違いはない。


「ふー、気持ちを落ち着かせて、心を清らかに」


 他に客がいないことを確認し、また10本ずつ買い求める。

 そう、さっきの7万円の出費が痛いので、100本を一気にという勇気は出ない。


 できれば最初の10本出てて欲しいけど、やっぱダメか。


「お兄さん、気合入ってるね」


 レジのオジサンも感心しており、50本目に突入した頃、話しかけてきた。


「ええ、これに人生賭けているんで」


 こんな俺にオジサンは呆れることもなく、あんたはだと応援してくれる。


「よし、分かったよお兄さん。あんたが1等を引くまで誰にも邪魔をさせないよ」


 多分このオジサンも俺と同類だ。未来と夢の為にトコトンやれる男なんだ。

 何か不思議なシンパシーが通じ合い、俺もさらに気合が入った。


「うおー、70本目じゃい」


 ことごとく外れていく光景に俺の心がすり減っていく。

 し、しかし俺を応援してくれている人もいる。そして何よりもマロンちゃんが俺を待っているんだ。負けてたまるか。


「お兄さん、ごめんね。バイトの面接の時間だから、ちょっと席を外すよ。おーい、レジ頼むよー」


 サムズアップをしたおじさんは奥へと消えていった。

 あぁ任せておけよ。アンタがいなくても必ず夢は叶えてみせる。


 だって、俺はこのクジの為にゲームの課金もせず、毎日のおやつも3個から2個に減らしたりと、努力を重ねて資金を準備したんだ。

 さあ、俺に恐れるものは何もない。


 しかし出ない、最後の10本になってしまった。


「すみません、残りの10本を全てくださ……い」


 しまった! 俺としたことが、財布の中に9本分のお金しかない。


「と、とりあえず9本ください」


 クジを受け取り、すぐさまキャッシュコーナーへと走った。


 そんな事はないとは思うけども、最後の1本が当たりいうコトもある、心配だ。


『読み取りエラー』


 急いでいるのにー頼むよ。ホラもう1度優しくやるからさ。


『読み取りエラー』


 だ~か~ら~、お願い! よし、通った。


 とりあえず1万円だけおろして、急がないと。


「やった、また当たったよ。すごーい」


 目の前にはマロンちゃんを手にしたさっきのバカップルがハシャイでいた。


 理解が追いつかない。


 この手に握った9枚には入っていないってことか?


 てか、応援するって言ったじゃん。なんで他の人にやらせているわけ? 交代したバイト君も見ていたよね、ねー!


「あ~~~~~あぁ~~~~~~!」


 俺は外れクジを床に叩きつけ、その場を後にした。


「なんだ、あのあぶねーヤツ。でも、これでお揃いだね」


「ねー!」


 くやしい、クヤシイ、悔しいー!


 あんな軽薄なヤツにマロンちゃんを奪われるとなんたる不覚! 


 散々貢いできた彼女を目の前でに取られたような気分だ(いまだ経験はないけど)


 俺は新たな決意を胸に秘め次のコンビニに向かった。


 すかさずキャッシュコーナーへ行き資金の準備をするとレジ直行する。


「まだ1等出ていないですよね?」


「はい、誰もしていないので新品ですよ」


「ではここに7万円あります。これでクジは結構なのでマロンちゃんだけを貰います」


「へ? クジをめくっていただかないと」


「こっちはもう200枚めくってるんだ。見てみろ指先を、真っ黒だろ! クジはもう沢山なんだよ。マロンちゃんさえ居てくれたら丸く収まるんだ」


「ヒィッ、わ、分かりました」


 俺の迫力に圧倒された店員さんは恐る恐るマロンちゃんも出してきた。


「やっと会えたね。マロンちゃん」


 震える手で彼女をそっと抱きしめる。


 彼女の姿は右手を大きく振り上げ、左手を胸元にグッと引き寄せている。

 はしゃぎながら、こちらに走ってきていて、真夏の恋を予感させる弾ける笑顔だ。

 こんな素晴らしい造形の誰が考えたんだろう。


 そのまま帰宅をして予めマロンちゃんのために空けておいた場所にケースごとおく。


「はぁ~やっぱ、この角度から見るのが1番だわ~。かわゆいし……それに……カネがかかっているし」


 総額約21万円、それは1ヶ月の俺の所得。生活費にしたら約2ヶ月分か……こ、後悔はないさ。


 これを見て白飯食えるし、21万円分食えるし、ダイエットしたかったし、泣いてなんかいないし……グスン。


 そんな悔しい気持ちを立て直すのに数日かかったけど、ようやく俺は日常生活へと戻れた。


 しかし悲劇はまだ続いていた。


 後日たまたま見たオークションサイトで3000円で出品されている2体のマロンちゃんを発見する事になる。


 あのバカップルめ。どこまで俺を苦しめるつもりだーーーーーー!




 こうして俺の5月の聖戦は幕を閉じたのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

我が聖戦はコンビニにあり 桃色金太郎 @momoirokintaro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ