第130話 「『龍殺し』のノーグ」

 ノーグの獲物は大剣。

それなりに良い剣に見えるけど、意外に普通の剣だ。


「遂に出て来たか『龍殺し』のノーグ…」


「剣部門の大本命。今年の優勝はノーグで間違いないだろう」


「でもよ、あの剣でドラゴンを殺ったのか?なんか普通の剣じゃねぇ?」


 周りの奴らが噂してる。

龍殺し?それがアイツの異名か。


 てか、ドラゴンくらい私もやってるけど?

それが何?別に大したことないじゃん。


「ありゃアイツの本来の武器じゃねえよ。アイツの本来の武器はドラゴンスレイヤー…異名と同じ名前の、対ドラゴン用の剣がアイツ本来の武器だ」


「あんなバカデカい剣、殺しが禁止の武芸大会で使うには不向きだからな。加減が効くように、予備の剣を使ってるんだろ」


 ドラゴンスレイヤー…ああ、高級武具店に置いてある、やたらとデカい剣か。


 鍛冶師によって形状に違いはあるけれど、共通してるのは刀身が長く、太く、幅広い。

並の人間じゃ振り回す事も難しい剣だ。


 私にはドラゴンを斬るのに、あんな剣が必要な理由がわからないが。


 だって簡単に斬れるじゃん?


「だから…前にも言ったけれど、普通は細剣でドラゴンを斬ったり出来ないのよ」


「そんな事より、始まったよ」


 始まったか。

剣帝の私に勝てるなんて豪語するだけの実力はあるんだろうな?


「はっ!はあっ!」


「おうおう!元気良いな!」


 ノーグの対戦相手は二刀流。

顔と年齢以外はジュンと似てる青年が相手だ。


 青年は両手で攻撃を繰り返し、攻め続けている。


「でも、全部躱してるね」


「それも紙一重で。ワザとそうしてるわね」


 余裕を見せつけたいのか、時々私に視線を送ってニヤニヤ笑ってる。


 ま、確かに眼は良いみたいだな。普通よりは。


「はぁっ、はぁっ…」


「疲れたか?なら終わりにしてやるよ!」


 二刀流の青年が攻撃を止めた瞬間。

ノーグは攻撃、青年の魔法道具五つ全てを点灯させた。


 ま、それなりの腕ではあるみたいだな。


「ふうん…やるじゃん、あいつ」


「そうかぁ?あの程度の腕なら七天騎士団にいくらでもいるじゃん。私には遠く及ばないし、うちの団長の方がよっぽど強いよ。勿論、ジュンにも勝てない」


 あいつの剣の腕はせいぜい『剣術LV7』相当。

剣術のLVが剣の腕の全て、なんて言うつもりは無いけど、基本的にはLVが上の方が強い。


 あいつが剣で私に勝つなんて、不可能だ。


「だから、何かあるんでしょ。『剣術』以外のアビリティとか」


「アビリティねぇ…そういや、あいつってA級冒険者だったっけ」


「だったら、ダンジョンも幾つかクリアしてるんでしょうね。試練のダンジョンも」


「あぁ…それで何か強力なアビリティをゲットしたとか?」


 ありそうな話だ。

というか、それしか無いか。


 問題は、どんなアビリティをゲットしたのかって事だけど。


「何か思い付く?」


「さぁ…アビリティって毎年新しいのが確認されてるんでしょ?」


「そうらしいわね。未確認のアビリティを含めたら無尽蔵にあるって話だし…確認済のアビリティも、多過ぎて絞れないわね、現時点では」


 情報通なティータでもわからないか。

アビリティを使った様子も無かったし、仕方ないか。


「ま、それでもジュンが勝つのは間違い無いけどね」


「……」コクコク


「そうじゃないと困るぅ。ジュンちゃんの優勝に大金叩いたんだから。ね、ティータ」


「そ、そうね…頑張ってください、ジュンさん」


「…はい」


 そう言えばそうだった。

ジュンには優勝してもらわないと。


「ま、決勝は明日だし。今日の準決勝までは問題無く勝てるでしょ」


「だな」


「そうね」


「……」コクコク


「あまりプレッシャーかけないでくださいよ…」


 若干不安気なジュンだけど、その後も順調に勝ち進み。

明日の決勝はジュンとノーグの対戦となった。


 ノーグの自信の源はわからないままだ。

あれだけ大口を叩く自信家にしては用心深いらしい。


 結局、今日は手の内を晒さないままだった。


「さぁー終わった終わった」


「今日は流石に疲れたわ…早く寝なきゃ」


「何だ?このくらいで疲れたって?情けないぞ、ティータ」


「誰のせいよ…朝早くに魔獣と戦ったの忘れてないかしら?」


「うっ……あ、アレは別に私のせいじゃないだろ?」


 アレはあくまで暗殺者の仕業だ。

魔獣との戦いは私のせいじゃないぞ?


「そうなのだけど…あら?」


「おぉー!我が自慢の娘よ!」


「まさかお前が魔法も得意だったとは。本当に驚いたよ」


 げっ…パパとママだ。

わざわざ闘技場の出口で待ち伏せしてたのか。


「何してんの、パパ、ママ…」


「何って、自慢の娘を労いに来たんだよ」


「それにお前、新しい屋敷を外から見ただけで、まだ自分の部屋も見てないだろ?今夜はお前の好物を出してやるから、帰って来い。話もあるから」


「話?」


「新しい屋敷の完成祝いにパーティーを開くんだ」


「お世話になったグラウバーン公爵様は当然御招待するけれど、お前の繋がりで誰を招待すれば良いのか、それを相談したいんだ」


「ええ…そんなん白天騎士団の全員呼んでおけば…」


「そんなわけに行くか。良いから、今日は帰って来い」


「ふわぁい…ティータ、そういうわけだから」


「ええ、団長には言っておくわ。…今夜はゆっくり眠れそうで、私も助かるわ」


「良かったね、ティータ」


「…聞こえてるぞ」


 全く失礼な…あれ?

そう言えばサラがいないな。


「ねぇ、ママ。サラはどうしたの?」


「サラ?此処には来てないぞ」


「誘ったんだけどね。キンタローの世話もあるからって屋敷に残ったよ」


 …あれ?じゃあ屋台前に居たのは?

ただのそっくりさんか?


 何だよ…じゃあおごり損かよぉ。


 …でも、他人の空似にしては、似すぎだったけどな。


 何処の誰なんだろ、あの子…

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