第118話 「敵襲のようですね
ユフィールさんと婚約…別にユフィールさんを嫌っているわけじゃないが、王位継承問題がある以上は話を進める訳には行かない。
丁重にお断りさせてもらおう。
「あの、ボクは…」
「そう言えば、御礼がまだでしたね」
「え?」
ボクが断ろうとしているのを察したのか。
モナ様はボクの言葉を遮って話題を変えてきた。
「主人を助けて頂いた事、感謝申し上げます。入れ替わりを他言しと欲しくないとの事ですので、正式な御礼は出来ませんが、私の方で何かさせていただきます」
「あ、はい…お気になさらず」
「…うふふ」
「…何ですか?」
「やはり、ジュン様はアヤメ様似なのですね」
「え?母上と面識があったのですか?」
「ええ。私の方が年上ですが、アヤメ様はとてもしっかりとされていて…美しく、強く、優しい。そんなアヤメ様にジュン様はよく似ています」
「…今はユフィールさんの姿ですが」
「容姿は武芸大会でも見ていますし、私は以前、アヤメ様に連れられたジュン様にお会いしています。その時から思っていましたよ」
「…そうですか」
「そうそう、その仕草。アヤメ様も照れている時は頭をポリポリとかいてました。さっきから見せる貴方の細かい仕草…アヤメ様を思い出させてくれます」
仕草って…母上が亡くなったのはもう八年以上前。
グラウハウトで暮らす母上と王都で暮らすモナ様は接点も少なかったろうに。
よく覚えているものだ。
「私はアヤメ様とは本当に親しくさせともらっていて…よく手合わせもしてもらったのです」
「は?母上と手合わせ?」
「はい。私はこれでも体術…格闘技を嗜んでいます。ユフィールの師は私なんですよ?」
通りで…鋭い攻撃だと思った。
「ですから…アヤメ様が亡くなられた時は本当に悲しかったのです。だからアヤメ様の忘れ形見である貴方…ジュン様は私にとっても気になる存在でした。貴方が魔帝ではなく、ユフィールが好意を抱かなかったとしても」
ああ…つまりボクとユフィールさんの婚約に最も熱心なのはモナ様か。
ロックハート家で一番知られてはいけない人に知られてしまったわけか。
「あの、申し訳ないのですがボクは――」
ドン!
突然、屋敷内に爆発音が響く。
そして聞こえて来る悲鳴と戦闘音。
「これは…」
「敵襲のようですね。モナ様、ボクから離れないで下さい」
…服装はパジャマのままだが…仕方ない。
兎に角、状況を確認しなければ。
「母上!ユフィール!無事か!」
「ライアン!これは何事です!」
「何者かが屋敷に魔獣を放った!今は騎士達が応戦しているが、数が多い!二人は父上を連れて避難して欲しい!」
魔獣を放った?
召喚魔法か?それとも捕えた魔獣を解き放っただけか?
いずれにせよ…ボクもやるしかなさそうだ。
「いいえ、お兄様。私も戦います」
「…お兄様?い、いや、バカを言うな。ユフィールは丸腰、防具すら着てないじゃないか。危険だから母上と避難してくれ」
「大丈夫です。あ、お兄様。後ろを。危ないですよ」
「な、何!?」
廊下の曲がり角から姿を見せたのは…ミノタウロス?
『ブモォォオ!』
「くっ!此処は私が!」
「いえ、私がやります」
「え?あ、ダメだユフィール!」
剣…を使うのはやめておこう。スキルで出す必要があるし。
魔法も…屋内だし止めておくか。
となれば…素手か。
ユフィールさんには『体術LV8』があるわけだし。
圧倒的なステータスもある。
ミノタウロス如きなら…!
『ブホォ?』
「素手でも瞬殺出来るな」
手刀でミノタウロスの首を飛ばす。
ミノタウロスは何が起こったのかわからないと言った顔で絶命した。
…首を落としたのは失敗だったかな。
周りが血溜まりになってしまった。
「お、おお!流石だユフィール!」
「お兄様、私はこのまま魔獣を倒して行きます。お兄様はお母様を連れてお父様の部屋へ」
「あ、ああ…いや、しかし…」
「ライアン。今はユフィールの言う通りに。ユフィールなら大丈夫」
「母上…わかった。怪我はするんじゃないぞ!」
「はい。それでは!」
さて…取り敢えず探査魔法を使って…と。
屋敷内に入った魔獣の多くはまだ一階だな。
後は庭にも数体。
取り敢えず階下の奴から始末するか。
隠れてる使用人が危険だ。
「きゃあああ!」
『グゲゲ!…ゲ!』
間一髪…のとこでゴブリンに襲われるメイド達を救出。
グラウバーン家のメイドと違い、ロックハート家のメイドは戦えないらしい。
まぁうちのメイドも全員が戦えるわけじゃないんだが。
「あ…ユフィール様!」
「ありがとうございます!」
「無事だね?下の階は危ないから上の階に避難して。お父様の部屋まで行けば護衛の騎士が居るはずだから」
「は、はい!」
それにしてもこのゴブリン…普通の武器を装備してる。
ゴブリンが装備してる武器の多くは粗末なものばかりで、偶に良い装備してても、冒険者から奪った中古品なんだが。
こいつのは新品に見える。
剣も防具も、綺麗な物だ。
[ジュン!聞こえる!?]
「アイシスさん?」
[屋敷前に着いたけど、門番が居ない。何かあった?]
[悲鳴と戦闘音も聞こえる…皆は無事なの?]
どうやら二人共ロックハート公爵邸に着いたらしい。
丁度良い、手伝って貰おう。
[何者かに魔獣を放たれました。既に屋内にも侵入されてます。御二人は先ず、外に居る魔獣を始末してくれますか。ボクは屋内の魔獣を倒して行きます]
[わかった!]
[ティータとノルンも居るから手伝わせるよ!]
あの二人も来てたか。
なら外に居る魔獣は思いの外、手早く片付きそうだ。
さて次は…お?
「ユフィールお嬢様!」
「加勢致します!」
「ああ…いや危ない!止まれ!」
後ろから応援に来た騎士二人の目の前に飛び出したのは巨大な拳。
人間の子供くらいありそうなその拳は外から壁を突き破り打ち込まれた。
「な…な…」
「一体何が…」
「…ジャイアントオーガか」
『グルァァァァ!』
六メートルはある人型の巨大な魔獣。
どうやらこいつが今回の襲撃の本命らしい。
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