第119話 「闇ギルドの事ですね」
「全く…本当に、貴女と来たら!一体どれだけジュン様に御迷惑を掛けるつもりですか!」
「悪かったってば…てか、大きな声出すなよ。まだ早朝だぞ」
まだ夜明け前って時間にジュンに起こされたと思ったら、また入れ替わっていた。
しかも今回はユフィールも巻き込んで。
どうやらジュンはユフィールに、ユフィールは私になってるらしい。
しかし、今回は三人共王都にいるし、すぐ合流する事に。
とはいえ、面倒な事になってしまった。
ユフィールにもある程度、事情を説明する必要があるだろうし。
ほんと、どうしてこーなるのか…
「全て貴女が仕出かした事でしょう…今後、貴女はジュン様とキスは禁止です」
「なっ!イヤだ!私はジュンとあんな事やこんな事、ア~ンな事まで絶対するぞ!ウフ~ンな事だってするぞ!」
「ダメです。貴女はイヤ~ンな事だけで充分です」
「ヒドい!ア~ンな事とかウフ~ンな事は禁止で、デキるのはイヤ~ンな事だけとか!生殺しじゃん!」
「フン!あんな事とかこんな事、ア~ンな事やウフ~ンな事まで、全てノルンが居れば必要ありませんから」
「鬼!悪魔!」
「まだ薄暗いとはいえ、朝も早くから外でなんて会話してるの、貴女達は…」
「……フケツ」
王城前に行くと、ユフィールとティータは既に待機してた。
尤も、他人から見れば私…アイシスとティータが待っていた事になるのだが。
「…ハァ。アイシス…本当に貴女と来たら。どれだけジュンさんに迷惑をかけるつもりなの」
「う…説教なら此処に来るまでに散々ノルンにされたから。ティータまで説教は止めてくれ」
昨日も団長に散々絞られたし…何故かビッテンフェルト団長やリーランド団長、クリムゾン団長まで一緒になって。
普段仲が悪い癖に、最近何故かよく一緒に行動してるんだよね…あの二人。
「…で、だ。そんな事より。…ユフィールなんだよな」
「………」コクッ
私の身体になってても基本無口か…心の中じゃ普通に喋ってるのに。
こいつじゃ私の代わりを演じて暮らすのは無理だな…早く入れ替わらないと。
「そうね…早く元に戻ってもらわないとダメね」
「何だか疲れてる?ティータ」
「そりゃあね…今日は武芸大会本選だというのに、こんなに早く叩き起こされて。オマケにユフィールさん…一人で着替えが出来ないのよ」
「へ?」
「………」
「ユフィールさんは家ではメイド達に着替えさせてもらってるらしくて…着替えの用意から髪をとかすのまで…全て私がやったのよ。御風呂も一人で入れないらしいし…早く元に戻って貰わないと、私の身がもたないわ」
…お嬢様っぽいと言えばお嬢様っぽい。
まさかトイレや食事も一人で出来ないなんて事はないだろうな。
「兎に角、早く行きましょ。今日は武芸大会の本選。それまでに元に戻らないと」
「そうです。入れ替わったままで試合に出たら、昨日までと違うと気付く人は気付くでしょうから。人によっては面倒な事になります」
だよなー…少なくともユフィールには説明の必要があるだろうし。
「じゃ、案内よろしく、ユフィール」
「………」コクッ
…自分の身体が目の前で他人に使われてるって妙な感覚だよな。
私は二回目だけど、慣れないもんだ。
「…ところで、ユフィール。お前の父親が命を狙われたって話だけど、犯人に心当たりは?」
「………」フルフル
「ロックハート公爵家はアデルフォン王国でも古く歴史のある大家。中央貴族に強い影響力を持つ、公爵家ですから。恨みを買っていなくとも、命を狙われる事もあるでしょう」
「そうね…それに今は武芸大会で王都に出入りする人も多い。勿論、その分監視の眼も多くなってはいるけれど、抜け穴も多い。暗殺計画を実行するには丁度いい時期と言えるわね」
「でもさ、ここは王都だぞ?黄天騎士団だけじゃない、全七天騎士団の本部があるんだぞ?それなのに公爵の暗殺なんて…どこのバカがやるんだよ?」
「黒幕が王国貴族なら七天騎士団の力はよく知っているでしょうけど、平民や他国の人間だったら甘く見てるかもしれないわね。それに黒幕が王国貴族だったとしたら繋がりがバレないようにするでしょうし」
「繋がりばバレないようにって…それを暴くのが黄天騎士団だろ?」
「そうだけど、黄天騎士団だって全ての犯罪を暴く事が出来ているわけじゃないわ。そういう犯罪の請負を生業にしてる集団…組織もある事だし」
「闇ギルドの事ですね」
闇ギルド…金さえ払えば暗殺、泥棒、誘拐。あらゆる犯罪行為を代行する犯罪者達で構成された組織。
只の犯罪者と違うのは、闇ギルドの連中は仕事でのみ犯罪を犯す。
決して私利私欲で犯罪を犯す事は無い…と、以前捕縛された闇ギルドの構成員は言っていたらしい。
そして依頼者の名前は明かさない。仲間の情報も吐かない。
実際、捕縛された構成員は全員、何一つ情報を吐かず死んだらしい。
「闇ギルドか…私はまだ関わった事ないな」
「闇ギルドの捕縛は基本、黄天騎士団の管轄だものね。でも、三年前のファーブルネス帝国の奇襲を手引きしたのは闇ギルドの仕業じゃないか、何て考えてる人も居るらしいわね」
「何?そうなのか?」
「あくまで推測よ。でも、そうだとしても闇ギルドに依頼を出した人物が居る筈。そいつを捕まえれば色々わかる筈よ。もし闇ギルドが実行犯なら、だけど」
「色々って?」
「アイシスは闇ギルドにどうやって依頼をするか、知ってる?」
「いいや?」
「でしょうね。誰も知らないのよ、闇ギルドと連絡を取る方法を。当然、本拠地も構成メンバーも人数も」
「それで何で闇ギルドに依頼出来るんだよ?」
「それがわからないから不思議なのよ。尻尾を掴まれないよう、情報の隠蔽を徹底しているって事なんでしょうけど」
「一部では闇ギルドなんて存在しない、噂話が膨らんだだけの妄想の産物…なんて考えている人も居ますね」
「闇ギルドという呼び名も組織名が判らないから便宜的にそう呼んでいるだけで、正式名もわからない、謎の組織なのよ」
ふうん…正体不明の犯罪者集団組織、闇ギルドか。
そんな厄介な連中にロックハート公爵は狙わているのか。
「可能性の話よ。でも、もしそうだとしたなら闇ギルドは次の手を打って来るでしょうね」
「次の手?」
「だってジュンさんの御蔭でロックハート公爵様は助かったのでしょう?なら暗殺者は次の手を考える筈よ」
「ジュン様がユフィール様になっていなければロックハート公爵様は死んでいたかもしれない、ですか。怪我の功名というわけですね」
「お?ふふん!そうだろう?私の御手柄だな!」
「いえ、ジュン様の御手柄です。決して貴女の御手柄ではありません」
「そうね。ジュンさんの手柄ね。間違いなく」
「………」コクコク
「うっ…」
す、少しくらい褒めてくれたっていいだろうに…皆厳しいな。
「そんな事より、無事に入れ替わりが解除出来たらバーラント団長に言ってロックハート公爵様の護衛を出すように進言してもらわないと」
「そだな」
「呪いによる暗殺が失敗したとなれば、次はもっと直接的な手を取って来るかも…え?」
「!」
私達が向かってる方向から轟音が。
煙も上がってるし…これは…戦闘?
「ロックハート公爵邸で何かあったみたいね…急ぐわよ!」
「おう!」
ジュンは大丈夫だと思うけど…ロックハート公爵家や使用人達は心配だな。
ユフィールは気に入らないけど…仕方ない、助けてやるとしますか!
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