第98話 「うちの団長はちょろいんです」

「お、来た来た」


「援軍の到着だね」


 森の側で陣地を作ってから二日。

グラウハウトから父上が五千の兵を。

王都から翠天騎士団が陣地に到着。

白天騎士団とドノーに駐留してる守備隊と合わせて一万近い戦力となった。


「父上」


「ジュン、大事ないか」


「はい。こちらは大きな問題は生まれてません。それより…」


「ヨシュア?貴方も来たの?」


「あの報告の場に居合わせたんだ。協力しようと思うのは当然だろう。それに黄天騎士団は実戦経験が乏しい。いい機会だと思ってな」


 ロイエンタール団長率いる黄天騎士団も援軍に来ていた。本来の任務があるので半数だけの参加ではあったが。


「まぁ、ヨシュアは良いのよ…何故貴方達まで居るのかしら?」


「貴女の為ではありませんわよ、ラティス。ジュン様が心配だったからですわ」


「私もさ。無論、民を護る為の戦いでもあるからして。私も助力を惜しまないつもりさ」


 更に、どういう訳かクリムゾン団長とビッテンフェルト団長が個人参加していた。


 紅天騎士団と蒼天騎士団は放ってて大丈夫なんですか?


「勿論、陛下のお許しは戴いていますわ」


「そういう事だから遠慮無く頼ってくれたまえ」


「は、はぁ…」


「どうでもいいが、この討伐作戦の指揮を執るのは私だ。私の指揮には従ってもらうぞ」


「わかってますわ」


「私はジュン君の側に配置してくれれば、何も文句は無いとも」


「…ビッテンフェルトとジュン殿は離れた場所に配置すると約束しよう」


「何故!?」


 是非そうしてください。

只でさえ、普段から婚約の申込みや派閥への取り込みを躱す日々なのに。


 男性からもアピールされては堪らない。


「兎に角、漸く全軍が揃ったのだ。作戦会議と行こう。と言っても、直ぐに終わるだろうけどね」


 司令室兼会議室の天幕に入る。


 参加者は父上。各団長、副団長。ドノーの代官と守備隊長。


 依頼を受けて参加してる冒険者達の代表。


 そしてボクだ。ボクの後ろにはノルン達メイド。

父上の後ろにはセバスチャンが居る。


「さて、先ずは現状報告だ。援軍が到着するまでの間に、我々は六千以上のオークとゴブリンを討ち取った」


「「「おおっ」」」


「だがオークとゴブリンの数は減らない。むしろ増えている。このままでは近い内に二回目の巣別れが行われるだろう」


「なんだと…」


 恐らく、一気に数が減ったのは巣別れした片割れを殲滅した時のみ。


 その後は偵察で出くわした奴や森から出て来た奴を始末したり、森の外からやって来た奴を始末したのみ。


「だが、それで何故増えてると解る?」


「既に一度巣別れする規模に達しているという事は、残った方もそれなりの規模。なら増える速度もかなりの規模です。それと偵察に出た冒険者達からの報告から導き出した答えです、公爵閣下」


「ふむ…」


 それともう一つ。

当初の想定とは違う事がある。


「それと、私はこのオーク・ゴブリン連合はオークが主体だと思っていた」


「思っていた、という事は違いましたの?」


「ああ。どうやら正しく連合軍らしい」


 ボク達が倒した中ではオーク・デュエリストが最上位存在だった。


 他にもオーク・グラップラーやオーク・シャーマンといった上位種もオークの方が多かった。


 だが偵察に出た冒険者達の報告ではゴブリンの上位種も多数目撃したという。


「ホブゴブリンだけじゃなくゴブリン・シャーマンやゴブリン・ライダー。ゴブリン・コマンダーも居たらしい。極めつけはゴブリン・キングが二体居たという目撃情報だな」


 ゴブリン・キングが二体居たという事は。

それよりも上位の存在が居るという事。


「今回のオーク・ゴブリン連合はオーク・キングロードとゴブリン・キングロードが率いている、という事だ」


 最初から、そうだったのかはわからない。

エストア公国から逃げて来た時から、それ以前からだったのか。


 いずれにせよ、現状においてそれは重要ではなかった。


「だが、ボスが何であろうとやる事は変わらない。一匹残らず殲滅する」


「殲滅と簡単に言うが、可能なのか?敵も数千は居るのだろう?」


「問題無いぞ、ヨシュア。翠天騎士団だけでも可能なんだ。なのにこれだけの戦力が揃ったんだ。余裕だね」


「ほう?では、お手並み拝見といこう」


「ああ。と言っても今回は複雑な作戦は必要ない。森を包囲しつつ、北と南から挟み撃ちにする」


「ふむ。北と南のどちらかが翠天騎士団が担うとして、もう片方は?」


「白天騎士団にお願いします。北を翠天騎士団。南が白天騎士団」


「という事は俺の軍と黄天騎士団、ドノーの守備隊で森を包囲。森から外に出た奴を始末すれば良いのだな?」


「その通りです、公爵閣下」


 包囲殲滅作戦か…本当に一匹残らず始末するつもりらしい。


「では、わたくしはリーンのお手伝いをして差し上げますわ」


「私もそうしよう。ジュン殿も一緒に如何かな?」


「いや、二人には森の包囲に加わってもらう。折角来たんだ、公爵閣下から部隊を預かって指揮しろ」


「なっ……し、仕方ありませんわね…」


「…確かに、これだけ広い森を包囲するとなると指揮官が複数必要なのはわかる。ではジュン殿は何処に?」


「公爵様の傍ではありませんの?」


 んー…グラウバーン領での問題だし、ボクは前線で頑張るかと思ってたけど。

確かに父上の傍に居るのが無難か。


「いや、魔帝殿には翠天騎士団に同行して貰う」


「「「は?」」」


 翠天騎士団に?問題は無いけど…何故?


「リーン、どういう事か説明してくれる?何故ジュン君が翠天騎士団に同行しなければならないのかしら」


「何、簡単な事だね。白天騎士団には剣帝が居る。だが翠天騎士団には『帝』は居ない。戦力の均一化を図っただけだね」


「な、ならアイシスを翠天騎士団に派遣するから、ジュン君は…」


「いえ、団長。流石にそれは不自然です…」


「だ、だがなリーン。ジュン殿は公爵家の嫡男であり男爵だ。その彼を最前線に連れて行くというのは…」


 いや、ビッテンフェルト団長。

貴方もさっき連れて行こうとしてましたよね?


「それ以前に。彼は未成年だ。いくら貴族とはいえ、従軍を強制は出来ない。先ずは彼に意思確認をしなければ」


 流石はアデルフォン王国の法の番人。

ロイエンタール団長らしい至極真っ当な意見だ。


「それは確かに。それで、どうかな?ジュン・グラウバーン殿。貴方の力を貸しては貰えないか?」


「わかりました。微力を尽くします」


「うん。構いませんか、公爵閣下」


「…ジュンが望むなら許可しよう。だがな…」


「はい。御子息の安全は私が責任を持って」


「うむ。それとな!ジュンの活躍っぷりを報告してもらう!余すこと無く!詳細に!」


「は、はい…」


「相変わらずですのね…ガイン様」


「益々の親バ…愛情表現ですね」


 今、親バカって言いかけましたね、ビッテンフェルト団長。その通りです。


「納得したか?ラティス」


「…ジュン君が拒否しないなら仕方ないわ。でも…まさか貴女までジュン君に惚れたなんて言わないわよね?」


「ぶっ!?」


「え?」


 何故、そんな話になる?

貴女まてって…他にも居るの?


「な、何をバカな!おかしな事を言わないで欲しいね!」


「流石です、バーラント団長。うちの団長はちょろいんです。ジュン様に一言可愛いと言われただけでもうホの字です。即オチです」


「やっぱり!」


「ち、違う!副団長!憶測で勝手な事を言うな!」


「いえ、憶測では。だって団長、勝負下着に履き替えてたじゃありませんか。お気に入りの猫さんパンツから不釣り合いの黒のレースに」


「見てたのか!?てか、バラすなー!」


 …リーランド団長。黒はまだ早いと思います。

リーランド団長には猫さんパンツの方が似合うと思います。

口に出して言わないですけど。


『ジュン様がお望みなら…次の伽には猫さんパンツで…』


 望んでません。

余計な事はしないでいいからね?

というか、ノルンはいつまで影に入ってるつもり?


「ハァハァ…と、兎に角!大雑把な作戦の内容は以上だ!何か質問は!?」


「ある。奴らの巣の正確な位置はわかっているのか?」


「勿論です、公爵閣下。それは彼に説明してもらいましょう」


「…あ、ああ、俺ですか。冒険者代表のマイヤーです。よろしく」


「うむ。それで?巣の場所は?」


「此処です。森の中央からやや西寄りにあるエルフの村落跡地。此処に巣があります」


 エルフの村落跡地?そんな物があったのか。

森の側の村を占拠した事といい…奴らは再利用を習慣付けてるのか?


 それとも本能か。


「数は数千という話だったが、具体的な数はわからないのか?」


「正確、ではありませんが、少なくとも八千体は居ます」


 八千…かなりの数だな。

小さな街一つなら落せそうだ。


「これだけの森だ。元々棲んでいる魔獣が居るだろう。どんな魔獣が居る?危険な魔獣は居なかったと記憶しているが」


「そうですね…側に村が作れるくらいですから。せいぜい熊と同程度の魔獣しか居ません。恐らくかなりの数がオーク共に狩られたでしょうね」


 なら、他の魔獣は気にしなくていい、か?

元々、魔獣とは自分の縄張りからは出ないものが大多数。

ゴブリンやオークみたいに住処を変える魔獣の方が珍しい。


「ただ…一つ気になる事がありましてね」


「何だ?」


「古い御伽話の類なんですがね。そのエルフの村落に住んでたっていう、冒険者が居まして。そいつが言うには古い言い伝えに、あの森には危険な魔獣が眠ってる。けっして目覚めさせるな。って言うんですよ」


「危険な魔獣?どんな魔獣だ?森の何処に眠ってる?詳細はわからないのか?」


「さぁ…何せアデルフォン王国建国よりも古い時代の話らしいですから。詳細はサッパリらしいです。でも気になるでしょう?」


「なりませんわ。そんな大昔の事、気にしたって仕方ありませんもの。詳細がわからないなら尚更ですわ」


「それが結構馬鹿に出来ないもんなんですよ。冒険者稼業なんてやってると、あっちこっちに行くんですけてどね。古い言い伝えや御伽話が謎を解く手掛かりだったり警告だったり。それで命拾いしたって奴を何人か知ってます」


「私も彼の意見に同意するね」


 魔獣討伐の専門家、リーランド団長も同意らしい。

森に眠る魔獣か…今回は警戒に留めて、杞憂に終わってくれればいいのだけど。

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