第92話 「間に合え!」

「なになに?何があったの?」


「突然緊急召集って…只事じゃないね」


 ジュンとバーラント団長と副団長が黄天騎士団のロイエンタール団長と話をしてる間、私達は訓練をしたり街を巡回したり、休暇中だったり。

皆、それぞれの予定通りに動いていた。


 しかし、突然の緊急召集。

一体、何があった?


「皆、揃ってるわね」


「団長…何事ですか?」


「説明するわ。その為に集まって貰ったのだから」


 バーラント団長の説明によると、オーク討伐に向かったグラウバーン家の騎士団二個中隊が一人を残して全滅。ドノーという街が危険らしい。


「オーク相手に騎士団二個中隊が全滅?」


「グラウバーン家の騎士団って…そこそこ強い筈だよね?」


「余程の大物が居たか、想定を遥かに超える規模だったか、或いは両方か…かしらね」


「両方が正解よ、ティータ」


 生き残った騎士によると…オークキングの存在が確認されたらしい。

更に、当初の想定ではオーク二百体規模だったがオーク五千体規模にまで跳ね上がり。


 しかもゴブリンの群れもオークと行動を共にしているという。

ゴブリンの規模は不明。


 このまま放置すればドノーは飲み込まれ、周辺の村々は全滅だろう。


「かなり大規模の討伐作戦になるわ。これ以上の放置は街一つが犠牲になるだけじゃ済まなくなる。一刻も早い討伐が要求されるわ」


「だから私達の出番って事か…」


「団長!そんな大規模な討伐なら翆天騎士団に来てもらえないんですか?」


 翠天騎士団…緑の武具に身を包む、七天騎士団の一つ。

国内の危険度が高い魔獣の討伐を主任務にする騎士団。

魔獣討伐のエキスパート集団だ。


「勿論、要請するわ。今頃、ジュン君がヨシュアと王城に向かってる筈。でも、翠天騎士団が現地に到着するには時間が掛かる。私達は先にドノーに向かい、周辺の村々の避難。ドノーの守護に当たるわよ。皆、急ぎ準備して」


「「「「「はい!」」」」」


 オークとゴブリンの討伐か。

神の子教会の連中が聞いたら煩いだろうな。


「ところで、オークとゴブリンが何で一緒にいるんだ?」


「珍しい事じゃないわ。オークとゴブリンは生活圏が同じ。争う事もあるけれど、協力しあう事もあるのよ」


「でもさーおかしくない?」


「何がかしら?」


「アデルフォン王国じゃあさ、オークやゴブリンみたいな繁殖力の高い魔獣が増えないように、森や山は定期的に捜索してるし、発見、即、討伐を徹底してる。五千以上なんて大規模な群れに育つまで放置されるなんて…考えられないんだけど」


 レティの言う通り、アデルフォン王国では各街の騎士団や兵士によって定期的な巡回が行われている。


 冒険者に依頼を出す事もあるし、千を超える規模になる事なんて殆ど無い。ましてや五千以上なんて。


「それについては新しい情報があるわ」


「あ、団長」


「新しい情報って?」


「今さっき、公爵様の部下から伝達があったの。何でも先月、同じく大規模なオークとゴブリンの討伐作戦があったそうよ。ドノーの南でね」


「ドノーの南って…」


「エストア公国?」


 あそこかぁ。

誘拐未遂事件以来、縁の無い国だな。


「あの国は最近、神の子教会に擦り寄ってるらしいから。ゴブリンやオークの討伐は最小限にしてるらしわね」


「そうなの。で、ドノーの南の群れは、ちょっと前に旅の冒険者か何かが大量に始末して、一時的に減ったらしいの。それを幸いと放置してた為に限界を超えた。やむなく討伐に乗り出したけど、全滅させるには至らず、大部分は北に逃げたそうよ」


「つまり、その大規模討伐の生き残りが沢山いて、ドノーの近くに根付いた、と」


「なんて傍迷惑な…」


 全くだ。

しかし、旅の冒険者か何かが減らした?

ん〜…何か引っ掛かるけど、思い出せないな。

まぁ、いいか。

 

「それで団長?何か用があったのでは?」


「あ、そうそう。ジュン君が王都から戻ったら転移魔法で少しずつドノーまで連れて行ってくれるわ。ティータ達も、その先遣隊に参加。ドノーに到着次第、周辺の村々に周って避難させて」


「了解しました」


 転移魔法か…私も使えたらな。

いや、私も魔帝なんだから訓練すれば使えるようになるはずだ。


 次に覚える魔法は転移魔法で決まりだな。


「それじゃ、皆さん行きますよ!」


 王都から戻ったジュンは早速転移魔法で往復を繰り返し。

白天騎士団二百名と馬二百頭を転移完了させた。


「皆さん、お気をつけて。領民の避難、よろしくお願いします」


「まーかせて!皆!出発するよ!」


「張り切るのはいいけど。先遣隊の指揮は私に任されてるから。勝手に仕切らないように」


「うっ…」


 先遣隊の指揮はルクレツィア副団長。

普段はあまり絡まないから、ちょっとやり辛い。


「ティータとフランの小隊はこの村に向かって」


「此処は…一番森に近い村ですね?」


 周辺の地図を広げながら副団長が指差した村はドノーから20Kmは離れた村。問題の森に一番近い村だ。


「ドノーの兵隊か騎士が先に派遣されてると思うけど、一番危険な場所よ。貴方達なら大丈夫だと思うけど、十分に注意して」


「「「「「はい」」」」」


 ま、私が居るからにはオークやゴブリンが五千居ようが一万居ようが関係なく殲滅出来るけどね。


「見えて来たね」


「あの村がそうね」


 出発して約四十分。

私達の目指す村が見えて来た。


「襲われた様子は無いわね」


「良かったね…いや、待って!悲鳴が聞こえる!」


 アビリティで強化されたレティの耳には悲鳴が聞こえたらしい。


 悲鳴…つまり村が襲われてる?


「急ぐわよ!」


「間に合え!」


 馬を全速力で走らせ、村に入る。

村の中は既に混乱状態。

ドノーから派遣された騎士達がオークとゴブリンを相手に奮戦していた。


「加勢するわよ!」


「「「「おう!」」」」


 ゴブリンとオークに襲われた村、か。

あの大司祭に見せてやりたいよ、全く!

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