第88話 「まさかなの?」

「おやすみ、ジュン」


「お休みなさいませ、ジュン様」


「…おやすみなさい」


 どーしてこうなるのか。

今、ボクのベッドにはボクを含めて三人寝てる。


 ボク、ノルン、アイシスさんだ。

二人はボクにしがみつく形で寝ている。


 そして、ボクとアイシスさんの間には例の遺物。

正直、寝辛い事この上ない。


 事の始まりは、グラウハウトに帰ってすぐアイシスさんの提案して来た事だ。


「ジュン、これ二人で暖めてみない?」


「二人で、ですか?協力するに吝かではありませんが」


「なら決まり!早速今夜からね!」


 という会話があったのだが。

まさか一緒に寝る、という意味だったとは。


 しかし、そうなるとノルンが黙っていない。

二人の言い争いの結果、三人で一緒に寝るという事に。


 そして、それだけでは無く…


「私達も寝ましょ」


「だね」


「たまには雑魚寝もいいかもね」


 アイシスさんがボクの部屋で寝ると知ったティータさん達は急遽、ボクの部屋にベッドを運びこみ。


 ティータさん達もボクの部屋で寝る事になった。

監視目的で。


 更にそこにセーラさんまで加わろうとしたが、それは断固拒否させて貰った。


「全く…お邪魔虫め…でも、まぁ…数日もこうすればジュンの限界が来るはず…そうなれば…グフフ…」


「…聞こえてますよ」


 それが狙いか。

例の称号の効果で、一緒に寝ていればいずれは暴走して襲って来るだろう、と。


 でも、その時は状況的にティータさん達も一緒なわけですが…わかってます?


「グフフ…私ももうすぐ処女卒業…パパ、ママ、アイシスはもうすぐ大人になります」


 わかってませんね。

…今までの所、まだ暴走した事は無い。


 しかし、この状況で暴走すればティータさん達まで襲ってしまうのだろう、という事はわかる。


 明日には何とかしないと…しかし、ティータさんは事情を知ってるはずなのに…何故平気なのか。


 そして翌日の夜。

遺物に大きな変化は見られず。


 引き続き、今日も一緒に寝ようと言うアイシスさんに抗議。


 その結果…


「これ、おいし〜い」


「寝る前にそんなに食べて大丈夫か?レティ」


「あたし、太らない体質だから」


「うらやましいですね」


「それで、そのスタイル…レティさんだけじゃなく、白天騎士団の方はみんなスタイル良いですよね」


「ふふん。お嬢さん達も中々だよん」


 状況が悪化しました。


 昨晩の事を聞きつけたラティスさんと、昨晩は除け者にされたと恨み節をぶつけて来るセーラさんが団結。


 アイシスさんに今日は別々に寝ましょうと抗議してる間に二人は一致団結。


 団体客用の大部屋にベッドを入れれるだけ入れ、そこで皆で寝る事に。


 つまりティータさん達に加え、ラティスさんと白天騎士団の数名。


 セーラさんを中心にする今、グラウバーン家に泊まりこんでる貴族令嬢達。


 彼女達と同じ部屋で寝る事になってしまった。

何故、こうなってしまうのか。


 もう殆どパジャマパーティーの開場だ。


「わお。団長、大胆過ぎません?」


「団長…もしかして今日、この場で勝負をかけるつもりですか?」


「私達に見られながらジュン君に抱かれるつもりなんですか?」


「ち、ちち、違うわよ!私は普段からこれで寝てるの!」


「明らかに新品の卸したてじゃないですか…」


 ラティスさんの寝間着はスケスケのネグリジェだ。

大事な部分は隠れてはいるけど、ボクの前でそんな姿…大丈夫ですか?


「くっ…お邪魔虫ばかり…初めてがこんな大勢に見られながらって…クセになったらどうしてくれる」


「心配するとこはそこですか?」


 昨晩の状況も危険だったけど、今日は更にヤバい。

もし、この状況で暴走したら…ボク、殺されるんじゃないだろうか。


 翌朝。

二日連続でよく眠れなかったので身体が重い。

この状況はいつまで続くのか。


 連日これじゃ身体が保たない。

暴走する危険もあるし、一緒に寝るのは今日で最後にしないと。


「ジュン、見てこれ」


「はい?…あ」


「遺物の色が…少し変わってますね」


「色だけじゃ無く、暖かくなってるょ」


 確かに…昨日までは遺物の色は鈍い銀色。

今は白に近い色になってる。


 更に暖かい。

昨日までは金属のような冷たさがあったのに。


「どうやら私とジュンで暖めるのは正解だったみたいだね」


「…そうみたいですね」


 もしかしたら別の要因かもしれないけれど、一緒に暖めた後で変化があったのは事実。


 こうなってしまうと…


「じゃ、今夜も一緒に寝よーね?」


 やっぱりそうなるか。

しかし、そろそろヤバい。

もう三、四日で暴走する気がする。


 それを防ぐには…昼間にノルンを抱かせて貰うしかない。

しかし、現在の城内はいつもより人が多い。

昼間はリスクが高すぎる…粘るしかないか。


 …粘れるかなぁ。


 三日目の朝。

昨日と同じようにして迎えた朝。

遺物はまた色が変化。

昨日より白っぽくなった。

暖かさも増してるようだ。


「もうさ、これは何かの卵で確定じゃない?」


「だね。あたしもそう思う」


「今じゃ私達にも、これが生きてるってわかるものね」


 ティータさん達だけじゃなく、セーラさん達の感想も同じで。このまま続ければ何かが生まれるのは確定と見て良さそうだ。


 もう一緒に寝るのを断るのは諦めた四日目の朝。

卵はまだ孵化していない。

だけど…


「何か、動いた気がする」


「人間の赤ちゃんがお母さんのお腹の中で動くようなモノ?」


 そうなんだろうか?

もし、そうならそろそろ孵化する?

というか、そろそろ本気でヤバい。

明日の朝、孵化しなかったら…ノルンにお願いしよう。


 そして迎えた五日目の朝。

ボクの焦りが通じたのかはわからないが、ついにその時々が来た。


「あ、割れるよ」


「…チィ。もう少しだったのに。私の予想では今夜が勝負所だったのに」


「何の話?」


 …アイシスさんは正確にボクの限界を読んでいたらしい。

確かに、今夜がリミットだったと思います。


 っと、そんな事よりも…


「これは…まさか…」


「うっそ……まさかなの?」


「赤い羽毛…火を帯びた鳥…まさかフェニックス?」


 謎の古代の遺物から孵化したのはまさかのフェニックスだった。


 …何か違う気がするけれど。

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