第87話 「あげないよ?」

「これですか」


「うん。ジュンの鑑定で何かわかる?」


 買い物を終えた私達は、グラウバーン家の屋敷に戻った。

でも、ジュン達はまだ戻って無かったのでヒューゴ団長の屋敷まで来た。


 この遺物の事が気になって仕方なかったから。


「ところで………モテモテだね、ジュン」


「遊ばれてるだけですよ………アタタ!痛い痛い!髪の毛引っ張るのはやめて!」


「あそぼーよ、魔帝!」


「カードしよう、カード!」


 ジュンの周りには五、六歳くらいの子供が五人。

ジュンの肩に乗ったり、腕にしがみついたり、髪の毛を引っ張ったり。

ジュンを玩具にして遊んでる。


「この子達、皆ヒューゴ団長のお子さんですかー?」


「頑張ったんですね、ヒューゴ団長と奥さん」


「ちょっと下品よ、ダイナちゃん。あたしの子じゃないわよ。あたしの子はフィルだけ。この子達は使用人の子供だったり近所の子だったり。みんなフィルのお友達よ」


「ちーがーうー!こいつらはフィルの子分だ!」


「フィル。お友達を子分扱いしちゃダメよ」


 ヒューゴ団長の屋敷は意外と普通。

屋敷の外見も内装も、使用人達も皆普通。


 娘のフィルは女の子なのにガキ大将みたいな事言ってるけど。


「ほらほら、あんた達。ちょっとだけジュンちゃんと遊ぶのは我慢してね。少し真面目な御話しするから」


「えー」


「じゃあ、おっちゃん遊んでよー!」


「おっちゃん……もしかして、私の事か?」


「良いじゃない。遊んであげなさいな、クリス」


「男の子だからって子供に手を出してはいけませんわよ」


「二人は本当は仲が良いんじゃないのか?全く…」


 子供達をビッテンフェルト団長に任せて。

ようやく本題に入った。


「う~ん……ダメですね。ボクの鑑定でも何もわかりません。名前すらわかりませんね。でも……何か生き物のように感じます」


「生き物?遺跡から見つかった古代の遺物なのに、生きてると言うんですの?」


「でも、おかしいわ。それはジュン君よりも高LVの『鑑定』を持つ人が調べた筈よ。その結果、只の置物と判断された筈。それなのに…」


 ティータ達が触っても、只の置物としか思えず生物のように感じたりはしなかった。

でも、ジュンは私と同じように感じたみたいだ。


「ジュンちゃんとアイシスちゃんだけ、生きてるように感じる…ね。じゃあ二人だけの何かに、この遺物が反応してるって事じゃないかしら?」


「ジュン君とアイシスの共通点って言うと…」


「二人共『帝』に至ってるって事じゃない?」


 他にもあるけどね。

LVとかステータスとか称号とか。


 でも、私とジュンに共通する何かに、この遺物は反応してる。

それは確かみたいだ。


「それが生き物だとすると、卵のように見えて来ますね」


「私も触っていいですか?アイシス様」


「あ、うん」


「ありがとうございます。…堅い。でも、石でも金属でも無い。鶏の卵に近い感じですね。それに思ったよりも軽い…この遺物は何処の遺跡から見つかった物か聞いてますか?」


「あ、えっと…ティータ?」


「店員の話では王国北西部、ティカル山の遺跡だとか」


「ティカル遺跡ですか。確かあそこは何かの倉庫のような物があって様々な古代遺物が見つかった場所ですね。特に珍しい物は無かったと記憶してますけど…」


「詳しいですね、セーラさん」


「私、趣味で古代遺跡巡りをしたり、古代遺物を集めたりしてるの。これはコレクションに無いから、譲って欲しいくらい」


「あげないよ?」


 だって、これ。何か面白そうな物っぽいし。

私の勘がそう言ってる。


「それで、結局のところどうするの?これ」


「古代遺物ならエメラルダ様に聞いてみるのは?」


「恐らく無駄ですわ。宮廷魔導士の仕事の一つに、遺跡から発見された遺物の調査がありますが、これは店で売られていたのでしょう?では、これは宮廷魔導士が只の置き物と判断したという事ですわ」


 そうだったのか。知らなかった。

でも、それならエメラルダ様もこれに触っているって事?

それじゃ『帝』に至ってるって事は関係が無い?


「だが、それがタダの置物じゃないとわかって、それをエメラルダ様に教えなかったと後でわかったら、怒るんじゃないか?あの方は…痛っ!だから髪の毛を引っ張るのはやめたまえ!」


「…クリスの言う事も一理ありますわね」


「あの人、新発見の古代遺物や魔導書なんかが大好きだものね…兎に角、確認の意味でも一度エメラルダ様に御話しを聞いてみると良いんじゃないかしらん?」


 と、いう訳で。

もうすぐ夜だけど、エメラルダ様に会いに王城へ。


 …暫くは会う事は無いだろうって思ってたんだけどなぁ。


「で、これがそうか」


「はい。何か御存知ですか?」


「いや…これは一度は私が調べているが、特に何も無かった。只の置き物と判断したのは私だからな」


「調べた遺物の事は全て記憶しているんですか?」


「うん?うん、当然だろう?」


 当然じゃないです。

私ならよっぽど印象的なモノしか覚えてないです。


「えっと…それじゃエメラルダ様が触れても、これは何の反応も示さなかったって事ですか?」


「うん、今触れても、生物のような反応は無いな」


「と、言う事は…」


「『帝』の称号を持っている事が条件という事では無い、という事ね」


 なら、他の共通点…ステータスの数値?

能力値の高さが一定以上なら反応するとか?

でも、エメラルダ様も私とジュン程じゃないと思うけど、かなり高い筈。


 それなら…称号【超越者】か?

或いは、その両方?


「…この場でこれが何かはわからないという事ですね」


「エメラルダ様、これと同じ物は他には無かったんですか?」


「無いな。発見され、此処に送られた物の中にそれと同じ物ら無かった筈だ」


「なら、これを割ってみるわけにもいきませんね」


「割ってどうするの?」


「中身を視れば何かわかるかもしれないじゃないですか」


 ん~…それは無しだな。

多分、割ったら取返しがつかない。


「どうする?君が要らないと言うなら、私が引き取っても良い。興味が出て来たしな」


「いえ。持って帰ります」


「でも、持って帰ってどうするの?危険な物って可能性もあるんでしょ?」


「大丈夫だよ。危険な感じはしないから」


「ノルンの危険感知に反応はありません。恐らく、危険な物では無いかと」


「…なら、持って帰って問題無いでしょう」


「そうか。何か新しい事がわかったら教えてくれ。絶対だぞ?」


 結局、新しい情報はほぼ無いまま、グラウハウトに戻った。

何度もエメラルダ様に念押しされながら。


「で、結局どうするの?」


「それが見た目通りに卵なら、アイシスが暖めてみれば良いんじゃない?」


「暖める…抱いて寝ろって?」


「アイシスは寝相悪いから、割ってしまわないか不安ね。ジュンさんがやった方が良いんじゃないかしら?」


「ボクですか?構いませんけど…」


「え?いや、これは私のだし、やるなら私が一人で…ハッ!?」


 暖める…ジュンと二人で。

それなら…グフ、グフフフ。

良い事、思いついた!


「何かまたアイシスがくだらない事考えてるよ」


「この顔は何を考えてる顔だと思う?ティータ」


「間違いなく、アホな事…いえ、スケベな事ね。酔っぱらってナンパしてくる中年と同じ顔してるわ」


「失敬だなー君達!」


 図星だけども!

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