第77話 「何か声がするね」

「お。宝箱はっけーん」


「ノルン」


「はい…罠があります。少しお待ちください」


 現在、ダンジョンの地下十五階。

今の所、安全地帯は無く。アヴェリー殿下を発見出来ないでいる。


 地下十階までは探査魔法で内部構造が把握出来たので、迷う事無く進めたのだが十一階からは不可能になった。


 恐らく、ズルだと判断されて対策されたのだろう。

と、ティータさんやノルンが言っていた。

ダンジョンには管理者が存在して、ダンジョン内を見張っているらしい。


 尤も、世界中の誰も管理者に出会った事は無いらしいけど。


「解除出来ました。開けます」


「今度は何が入ってるかな」


「毎回ドキドキするよね」


「貴女達。本来の目的を忘れちゃダメよ?」


 探査魔法で道がわからない以上、普通に調べるしかないのだが、その過程で宝箱を発見する事があった。


 今回で三つ目。

一つ目は金貨が入った小袋。

二つ目は派手な装飾が施された腕輪。


 腕輪はマジックアイテムで、ボクのアビリティ『鑑定』によると火属性と雷属性の耐性を上げてくれるようだ。


 そして三つ目は…


「金属のインゴット…ですね」


「ジュン、鑑定してみてよ」


「はい……ミスリルのインゴットみたいです」


「へぇ!結構当たりなんじゃない?」


 これだけの大きさのインゴットだと…剣一本分くらいにはなりそうだ。


「いやぁー宝箱三つで随分稼げたんじゃない?」


「ほんと!冒険者が人気なのわかるわぁ!」


「貴女達…気を付けなさい。此処は欲望のダンジョンなんだから」


「え?知ってるけど…気を付けろってなに?」


「欲望のダンジョンはね。人間の欲や嫉妬などの負の感情を育てて、そして死んだ時に吸収するって言われてるの。ダンジョンから出たら元に戻るらしいけど…あまりに肥大化した感情はダンジョンから出て元に戻りきらないらしいわ。そうでなくてもダンジョン攻略にそういう感情は仲間割れの原因になりかねないし。気を付けなさい」


「「はーい…」」


 そうだったのか…怖い所なんだな、欲望のダンジョンは。


「あ…じゃあもしかして、実行犯の冒険者の素行が悪いのって、欲望のダンジョンの影響ですか?」


「可能性はあります。ですが元々欲深な人間はあまり影響されないそうですよ」


 ふむ…元がどんな人間なのか知らないから判断のしようが無い、か。


「それにしても本当によくご存知ですね、ティータさん」


「偶々です。最近、ダンジョンの事を調べてたので」


「ティータはね、ジュンが冒険者になるって聞いて調べたんだよ。ジュンの為にね」


「え?そうなんですか?」


「ち、違います。話を聞いて、ただ興味を持っただけです」


 興味…ティータさんも冒険者になりたいのかな?

副業で冒険者をやってる騎士は意外と居るし。


「でもさ。気を付けろって言われても、何をどう気を付ければいいの?」


「簡単よ。自覚して戒めればいいの」


「自覚?」


「自分が欲深くなってる、嫉妬深くなってる、普段の自分と違って来てる、そう自覚して自分を戒めるの」


「…それって、難しくない?」


 確かに。自分で自分の内面的な変化に気付くのは難しいかもしれない。

今の所、ボクは大丈夫だと思うけど。


「そうね。だから今みたいに、時々注意して行くわ」


「いえ、ティータさんだけに頼るのではなく、皆で注意して行きましょうか」


「そうね。皆で注意しましょ。特にアイシス!貴女は人一倍注意しなさい!」


「な、何で私だけ?」


「前科があるからじゃない?」


「わかりきってるよねー」


「ぐっ…」


 いや、そんな目で見られても。

その件に関して、ボクはフォロー出来ません。


「あっ、と…皆、魔獣だよ」


「ちょっと数が多いですね…十は来ます」


 会話をしながら進んでいると、ノルンとレティさんの二人が魔獣の接近を報せてくれる。


 現れたのは…グレートスケルトンナイト。

普通のスケルトンよりも巨躯で力も強く耐久性も高い。


 でも、所詮はアンデッドだ。


「簡単に浄化しちゃったね」


「流石魔帝殿。グレートスケルトンナイトともなれば聖職者でも浄化には苦労するのですが。下位の浄化魔法一発で十体纏めてとは。いやはや、凄まじいですな」


「恐縮です」


 今のそんなに強くないと思うけどな。

本職の聖職者なら簡単に出来ると思うけど。


「あっと…分かれ道だ」


「アイシス、出番だよ」


「この階はほぼ調べたと思うから、階段がある方に進んで頂戴」


「はいはい…んー真ん中」


 分かれ道に出た時はアイシスさんの出番だ。

『第六感強化』のアビリティを持つアイシスさんの勘を頼りに道を選んでいる。


 今の所、正解の道を選んでいるようだ。


「あ、階段だ」


「凄いじゃん、アイシス。ここまで正解率100パーじゃん」


「ふふん。もっと褒めていいよ」


「元々妙な勘の良さはあったけど、アビリティの御蔭で磨きが掛かったわね」


「ふふん…それ、褒めてる?」


 ティータさんはあんまり褒めてないと思います。

それよりも、だ。もうそろそろ、犯人達に追い付いてもいい頃だと思うんだけど。


「一向に追い付かないですね。殆ど迷わず、偶にズルしてショートカットしてるから、かなり速い攻略速度だと思うんですけど」


「そうですな…我々がダンジョンに入ったのは犯人達が入っておよそ四時間後。連中がここに慣れてるとはいえ、これ程速く進めないでしょうし…ボチボチ追い付いても良さそうですが」


 此処に来るまで、数組の冒険者パーティーとすれ違った。

ボク達が探してる犯人達…パーティー名は『栄光の座』というらしい。


 彼らは冒険者達の間では悪い意味で有名なのですれ違った冒険者達は皆知っていた。


 そこで彼らを見かけなかったか、聞いてみた。

すると、大きな荷物を背負っている見慣れない人物数名と一緒に居るのを見たという。


 それを聞いたのが地下五階での事。

目撃した階層と時間を考慮すれば、ボチボチ追い付いていい頃なんだけど…


「安全地帯に隠れたら、外からじゃ気配も掴めない、とかだったらお手上げじゃない?」


「若しくは魔法で隠れてるとか。今更だけどさ」


「んー…多分大丈夫だよ。私の勘ではこの先に居るよ」


「この先に…ねぇ、おじさん。このダンジョンって地下何階まであるか、知ってる?」


「このダンジョンは上級ダンジョンとして例外的に小さいダンジョンで、地下三十階が最深部です」


 地下三十階…最悪の場合、そこまて行かないとダメかもしれないって予想だったけど。

アイシスさんの勘ではこの先…地下十六階に居るらしい。


「ここまで来れる冒険者パーティーはそうは居ない筈です。ですから、人の気配がしたなら、犯人達である可能性は高い筈です」


「だといいけど…あ?何か声がするね」


「ノルンにも聞こえました。何か言い争いをしているようです」


 声が聞こえた方に進むと。

何やら争う声がボクにも聞こえた。


「だぁから!さっさと皇女を寄越せや!」


「断る!アヴェリー様には傷一つ着けさせん!」


 ようやく、追い付けたようだ。

後はアヴェリー殿下を救出するだけだ。


 アヴェリー殿下…今、御助けします。

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