第78話 「愚か者が!」

 アヴェリー殿下を誘拐した実行犯にようやく追い付けた。


 後は捕らえてアヴェリー殿下を救出するだけ…なのだが。


 実行犯と思しき冒険者の男と第一皇子が付けた騎士と思しき男が争っている。


「何か言い争いしてますけど…ラティスさん、どうします?」


「…少し様子を見ましょう。でもいつでも戦えるように、準備を」


「だそうです。ララさん、抑えてください」


「…承知しました」


 犯人達を発見した瞬間、ララさんが突撃しそうになっていたが、リリさんが抑えていた。

普段、主人を蔑ろにした言動とは裏腹に。

本心では慕っているのがよくわかる。


「だからよ!我慢の限界なんだよ!そんな良い女、抱かないなんてありえねぇだろ!」


「バカか、貴様らは!ダンジョンの中だぞ!何を考えてる!そもそもアヴェリー殿下には手を出すなと殿下は命令しているはずだ!」


「はっ!バカはどっちだ!お前ら、こんなヤバい仕事した俺らを、あのバカ皇子が生かしておくと思うのか?」


「何…?」


「十中八九、口封じするに決まってんだろ。所詮、俺らは平民だ。殺すのに躊躇いはねぇだろうよ」


 いや、どうだろう?

あの二人にそこまでやる度胸があるだろうか?


「お前らだって、他人事じゃない筈だぜ?」


「だ、だがそれなら、何故この仕事を受けた?そこまでわかっていながら…」


「そんなもん、計画を聞かされた時点でアウトだろ。だから引き受けて、ダンジョンに入って足取りを消す。んで、真夜中にダンジョンから出て行方をくらますって寸法よ」


「…アヴェリー殿下はどうする?」


「此処に置いてく。魔獣が勝手に始末してくれるからな」


 意外に考えてるんだな。

もっとまともな方向に考えてたら、身の破滅を招かずに済んだのに。


「……」


「だが、その前に俺らで楽しもうってだけさ。なぁ、素直になれよ。お前らだって本当は皇女様を抱きたいだろう?」


「…逃走には協力して貰うぞ」


「勿論だ。じゃ、先ずは俺らからいただくぜ。お前らは見張りだ」


「ああ…」


 …ダメだな、こいつら。

騎士はまだまともかと思ったのだけど。

あっさり堕ちた。


 もしかしたらダンジョンの影響で欲深くなっているせいかもしれない…いや、してるんだろうな。

そうでなきゃ、安全地帯でもないのにダンジョン内でそんな行為に及ぼうなんて考えないだろう。


「やりますか」


「そうね。出来る限り、生捕りに。難しいなら殺しても構わないけど、騎士は生かしておくように。それでいいですね?ストラウド殿」


「いえ、殺しても構いません。彼らはもう騎士ではない。投降するなら受け入れてやりますが」


「…ストラウド殿もダンジョンの影響を受けているのかもしれませんね。じゃ、行くわよ!」


「「「おおっ!」」」


 ラティスさんの…いや、ラティス団長の号で突撃する。

見張りを立ててはいても、来るのは魔獣だろうと予想していたのだろう。

動揺し、まともに武器を構える事が出来ないでいる。


「な、何者、ぐはっ!?」


「一人!」


 素早く先陣を切ったアイシスさんが一番近くに居た騎士を無力化する。

剣で四肢を斬り、戦闘不能にした。

実に見事な手際だ。


「クソ!追手か!早すぎんだろ!がはっ!」


「二人目!次!」


 二番手にラティス団長が冒険者の一人を斬り伏せる。

胴体を斬ったけど、生きてはいるようだ。


「クソが!おい、マーク!結界を、ぐっ!」


「光よ、壁となりて、ぎゃあ!」


「そうは行かないよ!」


「三人目と四人目!」


 盾を持ち、魔導士の守りに入っていた冒険者をダイナさんが突き飛ばし、斬った。


 そして守りが無くなった魔導士をレティさんが弓で手足を射る。


 残りは四人。


「き、貴様!その槍は魔槍か!がぁっ!」


「そうよ。元々は帝国の物だったのだけ、ど!」


 ティータさんは、戦利品として王国の物となった、飛竜騎士団が使っていた魔槍の一本を下賜されていた。

電属性が付与された魔槍で、雷撃を放ったり、斬撃と同時に雷撃を浴びせたり出来る。


 ボクとアイシスさんが持つ魔剣には遠く及ばない代物だが、それなりに強力な魔槍だ。


 その魔槍でティータさんが騎士を一人、倒した。

残りは三人。

騎士が一人、冒険者が二人。


「つ、つええ…不意を突かれたとはいえ、A級冒険者をこうもあっさり…おい、ブランドン!逃げるぞ!…ブランドン?」


「ブランドンというのはこの方ですか?もう意識はありませんが」


「ひ、ひぃ!?」


 いつの間にかノルンがブランドンと呼ばれた男の背後に回り、意識を奪った。

今のはアビリティ『忍術』のスキル『影移動』だろう。


 残りは二人。


「貴方は…ストラウド様!?」


「やはりお前だったか、ロマーリオ。イワン殿下の配下の中で、貴様は真っ当な騎士だと思っていたのに…残念だ」


「ち、違うのです!誤解です!私はこのような計画は反対だったのです!殿下を止めもしたのです!」


「実行に移した段階でそんなものは無意味だ。それに、お前達の会話は聞いていた。大人しく投降しろ。そして裁きを受けるのだ」


「ぐっ…ぐくっ…うがあぁぁぁ!」


「愚か者が!」


「なっ、なんだ、これは!?」


 アレは…ロックジェイルか。

土属性の魔法で対象者を岩で覆い固める魔法。

岩を破壊するか、足が固まる前にその場から脱するかしなければ逃れられない。


 土属性の魔法が得意なストラウド殿のそれは発動も岩の硬さも相当な物。

流石は帝国の筆頭宮廷魔道士と言ったとこか。


「大人しく投降しておれば罪を重くせずに済んだものを…」


「うぅ…くっ…」


 最後に残った騎士は捕縛された。

後は冒険者の男、ただ一人。


「よ、寄るんじゃねぇ!近寄ったら皇女をぶっ殺すぞ!」


「往生際が悪い…」


 最後の一人は眠ったままのアヴェリー殿下を人質に逃げるつもりのようだ。


 逃げ場なんて、ありはしないのに。


「クソ!クソクソクソ!クソがぁぁぁ!何がダンジョンに隠れてれば数日は安全、だ!半日も経たずに見つかってるじゃねぇか!バカ皇子が!」


「そのバカ皇子の口車に乗ったお前達もバカだろう。口封じに殺される可能性も考えてたんだろう?」


「はっ!さっきの会話を聞いてたか?あのバカ皇子がそんな気の利いた事すっかよ!アイツは自分の部下は自分を裏切るなんて、これっぽっちも考えてないからな!」


 つまりは騎士達を一時、騙すだけの方便か。

そうまでして女を抱きたいか。


「クソ!あー、ムカつくぜ!大体お前ら、誰の差し金だ!帝国はあのバカ皇子のモノになったんじゃねぇのか!」


「第一皇子と第一皇女は失脚が確定している。良かったな。お前達は皆仲良く身の破滅だ」


「何が仲良くだ!クソ!俺は捕まらねぇぞ!絶対に逃げ切ってやる!おら!立てクソ女が!」


「女性の扱いがなってないな。モテないだろう、お前」


「なっ…いつの間に、ゲハァ!?」


 目視出来る範囲なら印無しで転移可能。

一瞬で背後に回るくらい簡単だ。


 背後に回り、脇腹を蹴り、数メートル転がしてやった。

転がった先には…


「さ、ララさん。ストレスが溜まっているでしょ?こいつらを死なない程度に好きにしていいですよ。リリさんも、良かったら」


「…感謝致します、ジュン様」


「遠慮なくやらせて頂きます!」


「ヒッ!な、なんだ、テメェら!ち、近寄るんじゃ、ぎぃやぁぁぁぁぁ!!」


 さて…アヴェリー殿下は…うん、眠ってるだけだな。

怪我一つない。


 救出作戦、無事完了だ。

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