第61話 「誰が来たの?」

「せぇやあ!」


「甘いよ!やっ!」


「だあ!」


「だから甘いって!」


 白天騎士団がグラウバーン領に来た日から一週間。

武芸大会剣部門に出る事になったボクは、アイシスさんと剣の訓練中だ。


 この一週間の訓練でわかったのだが、ボクは剣術LV10を持っているにしては経験が圧倒的に足りてないという事だ。


 戦争では主に魔法て戦っていたし、剣で戦う時も支援魔法で強化していた。

武芸大会では魔法部門以外は支援魔法の類は禁止。

純粋に剣の腕のみを競う。


 故に、剣での経験の不足が致命的な弱点になりかねない。そこで、大会までは実戦に近い形式での模擬戦の繰り返しだ。


 初めはアイシスさんだけに相手をしてもらっていたが、今では白天騎士団に相手をしてもらっている。


「よっし!ここまで!休憩にしよう!」


「ハァハァ…ありがとうございました」


 剣術LVは同じで体力にも差はない筈なのに…ボクは明らかに披露して、アイシスさんはケロッとしてる。

この差も経験の差に依るものなのだろうか。


「それにしてもジュンちゃんて二刀流になってたんだ~」


「三年前は片手剣のみの、オーソドックススタイルだったよね。何か切っ掛けでもあったの?」


「いえ、何となくやってみたら、上手くいった感じです」


 見学してたダイナさんとレティ

 ボクも知らなかったんですけどね。

剣術LV7のスキル「クリエイトソード」で、自分に一番合った剣が出て来るのも知らなかったし。


 まさかボクは二刀流が一番合ってるなんて、思いもしなかった。

国宝級の剣まで貰ってるのにも驚いたけど。


「ジュンさん、次は私とやりましょう」


「あ、はい。よろしくお願いします、ティータさん」


 ティータさんのアビリティは槍術LV8。

槍術の腕ならアデルフォン王国でも上位に入るだろう。

ティータさん自身のレベルも上がっているし、七天騎士団の中でもかなりの強さを誇る筈。


 それでもボクとはステータスに大きな差がある。

うっかり殺してしまわないように、力を制限する魔導具を装備しているけれど、それでもボクの方がステータスは上。

経験で負けていても圧倒出来る。


 と、最初は思っていたのだが。


「せい!」


「うっ!ま、負けました…」


「ジュンさんは素直過ぎますね。攻撃も防御も、考えている事が手に取るようにわかります。だから簡単に読まれるし、簡単に騙される。フェイントに弱すぎます」


 そうなのだ…だからフェイントが得意なティータさんやバーラント団長には簡単に一本とられてしまう。


 特にティータさんはフェイントの名手らしく、対ティータさんの戦績は2対8。十回やって二回しか勝てない。

アイシスさんには一度も勝ててないし、バーラント団長との勝率も大差無いのだが。


「むしろたった三年で団長から一本取れるまでに成長してるのが驚きだけどね〜」


「ほんとほんと。私なんてもう完全にジュン君には負けてるし」


 ダイナさんも三年前に比べて強くなってる。

でもティータさんと違い、ダイナさんはどちらかと言えば力押しタイプ。

ステータスの差で圧倒出来た。


「それじゃ魔法の訓練に移りましょう。お願いね、ジュン君」


「あ、はい。…ち、近くないですか、バーラント団長」


「気にしないで。それと私の事はラティスと呼んで。バーラント団長なんて役職で呼ばずに」


 何だかバーラント団長…ラティスさんが最近妙に近い。

今も不必要に腕を組んで来るし。

必要無いですよね?


「で、では今日も基礎訓練の後、それぞれ得意な属性魔法の訓練に移りましょう」


 自分が得意な属性魔法は何なのか。

それを見極めるのに便利なアイテムがある。

魔法紙という、一見タダの白い紙にしか見えない物。


 これはトレントという植物型の魔獣を素材に特殊な溶液を染み込ませた物で、これに魔力を込めた手で握ると紙の色が変化する。


 赤色に変わった人は火属性の魔法が得意。

青色は水属性。黄色は雷属性という風に。

一色に染まらず、二色、三色と色が出たなら、その数だけ適正があるという事。


 魔法使いの殆どが一つの属性魔法しか使えないのが普通で、複数の属性魔法に適正がある人は少ない。

宮廷魔道士でも多くて三つだ。


 白天騎士団の殆どの人が、一つしか適正が無かった。

二つあった人がほんの数名。三つ以上あった人は皆無。

【全魔法】を持つアイシスさんは例外だが。


「我が力を使いて炎となれ!ファイアショット!」


「母なる大地よ、我に僅かな力を!アースショット!」


「風よ!我が手に集いて形を成せ!ウインドショット!」


 今、皆が唱えてるのはそれぞれの属性魔法の基礎魔法。

マジックショットに属性を持たせただけの下位魔法だ。

これをひたすら放つのが、属性魔法の基礎訓練の一つ。


「え、ええと…は、母なる大地、天の怒り、ふ、二つの力を持って…あー!わからーん!」


「はい、やり直しです。最初から」


 アイシスさんはノルンの指導で魔法の訓練をしていたらしい。ボクが戦場で高等魔法を使っていたのは皆見ているので、今更下位の魔法での基礎訓練だけするのはおかしい。


 魔法部門で大会に出ると、陛下にも宣言してしまったので、使える魔法が下位の魔法だけじゃ心許ない。

そこで使える魔法のレパートリーを増やそうと、魔法の習得を頑張って貰ってるんだけど…中々上手く行かない。


「う〜!なーんで呪文を覚えないと駄目なわけ?ジュンが手本を見せて、私はそれを真似する、でいいじゃん!」


「それでも構わないと言えば構わないんですけど…」


 全魔法LV10を持つボクとアイシスさんは魔法の詠唱を破棄出来る。心で思っただけで魔法の発動は可能だ。ボクが使った魔法を見て、真似る事は可能だろう。


 ただし、完全に習得するまでは呪文の詠唱をきちんとして、何回も繰り返し即座に呪文が頭に浮かぶようにするのが魔法習得の基礎だ。

それをせずに一度真似して使えたとしても、身に付けたとは言えない。

実戦で、状況に合わせた魔法を瞬時に選び、使えるようでなくては意味が無い。


「というわけで、反復練習あるのみです。頑張りましょう」


「うぅ…勉強してる気分…」


 高等な魔法になるほど、呪文は長くなりますからね。

暗記が苦手な人は苦労するんだが、アイシスさんは精神力が高く、集中力もある。その気になれば直ぐに暗記出来るだろう。


 それと、白天騎士団は他にもやってる事があって。


「只今戻りました、団長」


「おかえりなさい、ルクレツィア。どうだった?」


「はい。問題無く、全員クリア出来ました」


 グラウハウトの近くで見つかったというダンジョン。

折角なので、白天騎士団は小隊単位でダンジョンに挑戦。

各部隊が交代でダンジョンに赴いていた。


「ルクレツィアは何を貰ったの?」


「私は【弱毒耐性】です。少しだけ毒に強くなっただけですね」


 ルクレツィアさんが貰ったアビリティはイマイチだったらしい。表情がそう言っていた。


 因みにアイシスさんは入れ替わってる間にクリアしてるのだが、それはボクがクリアした、という事になるので再挑戦。【第六感強化】のアビリティを獲得していた。

【第六感強化】とは簡単に言えば勘が良くなるアビリティだ。

本人は【記憶力強化】が欲しかったみたいだけど、悪いアビリティでは無いと思う。


「ジュン様、お客様がお見えです」


「客?」


 訓練を続けていると、ノルンが呼びに来た。

今日は来客の予定は無かった筈だけど。


「誰が来たの?」


「それが…筆頭宮廷魔道士のエメラルダ様です」


「え?」


 エメラルダ様?父上の話じゃ帝国で荒地化の原因調査中の筈。一体、何をしに?

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