第56話 「想像が付くであろう?」

「アヴェリー・アーデルハイト・ファーブルネス?」


「うむ。アイシス、おまえが捕虜にしたファーブルネス帝国の第三皇女だ」


「私が?」


 何の事だっけ…ええと…確かジュンの日記に…ああ、はいはい。

ヴィクトル殿下と一騎打ちに負けた時に捕まえたんだったっけ。


「…思い出したか?」


「あ、はい」


「ふ…自分の大手柄を忘れるとは、何ともお前らしいな」


「あ、あはは…」


 しょうがないじゃん…自分で体験した話じゃなく、日記で読んだり話に聞いただけなんだから。


「それで陛下。何故、我がグラウバーン家で皇女殿下を預かる事に?」


「想像が付くであろう?」


「…王位継承争いに巻き込まれないようにする為ですか?」


「そうだ。王城にこのまま置いておくと、よからぬ事を考える奴が出そうでな。故に誰を支持すると立場を明確にしてない中立の立場に居る者に預けたい。その中でも一番強い力を持つ者にな。男爵や子爵程度では無理やり連れて行こうとする者が出てもおかしくないし、マクスウェル公爵などに預けても同じだ。預けた者の失脚を狙って誘拐する者も出るやもしれん」


 その点、公爵家になったグラウバーン家は中立だし身分的には手出し出来る者はそうはいない。

誘拐なんてしようとしても武闘派のグラウバーン家なら、それも難しい。

という話かな?


「ですが、皇女殿下の身の安全を考えるならば、王城の方が良いのでは?七天騎士団も居ますし」


「駄目だ。王城に置いておけばエディ達が何かに利用しかねん。戦争が終わって、捕虜となっていた第三皇女はそのまま人質という形で預かる事になったが、何をしてもいいという訳ではない。下手な事をされては困るのだ」


「…ですが、あまり露骨にグラウバーン家を頼っていると見られると…」


「それはそれで不満が出るであろうな。故に名目上は監視兼、皇女の護衛役として白天騎士団をグラウバーン家に預ける」


「え」


 それはつまり…合法的にジュンと一緒に居られる!?

ジュンが帰ったらまた暫くは会えないと思ってたけど、なんという僥倖!


「アイシスも暫くは王都を離れた方が面倒が少なかろう。戦争が終わったばかりでまた王都を離れるのは辛いであろうが…」


「ありがとう御座います、陛下!一生懸命、一心不乱、誠心誠意!任務に励みたいと思います!」


「お、おお…そ、そうか」


「………」


 ああ、素晴らしきかな国王陛下!

こんなにも家臣の事を考えてくれてるなんて!


「…白天騎士団も、王都に帰って来たばかりですまないとは思うが、グラウバーン家とは仲が良いようであるし、上手くやってくれると…」


「大丈夫です!皆、大喜びで行きます!」


「そ、そうか…」


「………」


 何かジュンの視線が痛い気がするけど!きっと気のせい!


「…皇女殿下の移送に関してはジュン、お前に一任する」


「私に、ですか?」


「お前は転移魔法が使えるのであろう?少人数なら一緒に転移可能と聞いておる。長い道程を護衛と旅させるより、余程安全で楽であろうからな」


「わかりました」


「白天騎士団はもう暫しの休暇の後、グラウバーン領に行ってもらう事になる。後に正式な命令を下す。ラティスにはそう伝えておいてくれ」


「はい」


 私としては休暇無で即、グラウバーン領に行ってもいいんだけど。


「ああ、それとな。アイシス、お前から申請のあった奴隷兵の生き残りを一人、引取りたいという話。許可を出しておいた。特例として奴隷から解放の許可も出した。グラウバーン領に連れて行くなり、ニルヴァーナ家で働かせるなり、好きにするが良い」


「あ、はい。ありがとうございます」


「…そっちは喜ばぬのか」


 だって、グラウバーン領に行ける事に比べたら。

それに、その奴隷の子とは会った事も無いし。


「話は以上…ああ、いや。まだあったな」


 まだあるの?そろそろパーティーに戻りたいのに。


「まだ少し先の話だが、お前達は今年の武芸大会には出るのか?」


「武芸大会、ですか」


 三年に一度の武芸大会。

使用する武器事に部門が分かれていて、剣部門、槍部門、弓部門、格闘部門などがある。

勿論、魔法部門も。


「ボクは折角なので出ようかと」


「え、そーなんだ」


「はい。折角鍛えて強くなったわけですし」


 戦争が始まる前のジュンならそういう力比べには興味なさそうだったけど。

戦争を経験して、少し変わったのかな。


「そっか。ジュンが出るなら私も出ようかなー」


「いや済まないが、お前達は遠慮して欲しいのだ」


「え…何故ですか?」


「今年の大会は大々的ににやる事になってな。前回は戦争が始まった為に出来なかった故に。それに戦争に出れず、国の防衛を任された者には活躍の場が無かった。そんな者達の為に目立つ場を与えようという意味もある。だが、お前達が出れば優勝は確実であろう?エメラルダは武芸大会には興味が無いと言って出ぬしな。お前達は既に十分な功績があるのだし」


 そりゃまぁ…確かに。

でも、それじゃ、ちょっとつまらない。

何かいい落し処は…


「あ!じゃあ、こうしましょう。私は魔法部門で出るから、ジュンは剣部門で出なよ!」


「え?」


「ん?剣帝が魔法部門で、魔帝が剣部門で出ると言うのか?」


「はい!」


 私は使える魔法がまだまだ少ないし、ジュンは戦争じゃ主に魔法で戦ってたそうだから剣での実戦経験はまだ少ない。二刀流の経験は皆無だと思うし。


 二人共に剣帝であり魔帝だけど、私は魔法、ジュンは剣。

二人とも初心者に近い。何とも矛盾した話だと思うけど。


「ふ…それは面白いな。よかろう、アイシスは魔法部門で。ジュンは剣部門で出るがよい」


「はい!」


「…まぁ、いいか。わかりました」


 ふっふっふっ…いいぞ、いいぞぉ。

楽しくなってきたー!

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