第34話 「剣帝を仕留めるぞ!」
「全軍!突撃だ!」
「「「「「ワァァァァァァ!!!」」」」」
本当に突撃させちゃったよ、あの暴走王子!
どうする…また大岩がとんで来たら今度こそ死者が出る。
ああ、もう!
「ティータ!少し此処から離れる!」
「え?ジュ、アイシス!?ちょっと!?」
問答してる時間は無い。
案の定、大岩が飛んで来た。
飛行魔法じゃ間に合わないから…転移魔法で!
「アースグレイブ!」
転移魔法で一気に距離を詰め、大地から岩の槍を撃ち出す魔法アースグレイブで大岩を迎撃。破砕する。
そして砕けた大岩の破片が王国軍に降り注ぐ事の無いように…
「ウインドバースト!」
破片もきっちり吹き飛ばす事に成功。
よし、取り敢えず大岩の迎撃は出来た。
これで大岩を飛ばしても無駄だと思ってくれたら楽なんだけど。
「よぉし!デカしたぞアイシス!全軍!この隙に距離を詰めよ!」
「殿下!いい加減に落ち着きなさい!持久戦を挑むんじゃなかったの?」
「それに如何に少ない犠牲で勝つかが重要なのでしょう?殿下は御自分の言葉を御忘れですか?」
「ぬ…だが一度ぶつかって帝国の出方を見るとも言った筈だ」
「もう十分よ、帝国軍は完全に閉じこもったまま。門が開く様子は無いわ」
「帝国軍は籠城するつもりです。ならばこちらは予定通り包囲網を敷くだけです。距離を取れば大岩は飛んで来ないでしょう」
「む、むぅ…」
殿下と団長達が何か相談してるけど…中止するなら早く…ん?
「飛竜騎士団だ!」
「また飛竜騎士団が来たぞ!」
また来たか。
さっきと同じくらいの数で。
だけど今度は石を運んでないし、下に居る王国軍が狙いでもなさそうだ。
つまりは…ボクが狙いか。
「また会ったな!剣帝!帝国の怨敵め!」
「これはこれは。またお会いしましたね、アヴェリー・アーデルハイト・ファーブルネス殿下。御機嫌は如何がです?」
「良いように見えるか!貴様さえいなければ…帝国はここまで追い詰められる事は無かったのだ!」
「そっちから戦争を仕掛けておいて、勝手な事を。何故被害者面をしている?」
「黙れ!これ以上貴様の好きにはさせん!飛竜騎士団よ!奴を囲め!」
何のつもりだ?前回の戦いでボクが転移魔法を使えるのは知ってるだろうに。
囲んだところで…ん!?
「これは…」
「気が付いたようだな!お前の転移魔法は封じた!帝国の筆頭宮廷魔道士キース・ストラウドによってな!」
よく見れば…飛竜騎士に二人乗りの奴がいる。
その後ろ側に乗ってるローブ姿の老人が筆頭宮廷魔道士か。
「転移魔法は空間属性。転移魔法を使える者は空間に干渉出来る為、他者の転移魔法を封じる事が可能…だったかな」
「知っていたか!ならばわかるだろう!貴様に逃げ場はもうない!此処で貴様には死んで貰う!」
「転移魔法を封じただけで私に勝てるとでも?」
「無論、それだけでは無い!飛竜騎士団!剣帝を仕留めるぞ!」
これは…魔法?いや、魔槍か!?
飛竜騎士団全員が魔槍持ちか。四方八方から火球やら水球やらが飛んで来る!
「どうだ!貴様一人を殺す為に全員に魔槍を持たせたのだ!ここまでして殺される事を誇りに思い、死んでいけ!」
ふうん…撃ち出す魔法の威力は中程度。
確かにこれだけの魔槍を全員に持たせ、筆頭宮廷魔道士まで連れて来たのは剣帝を最大限に警戒してる証。
光栄に思うべきかもしれないが…まだまだ足りないな。
「やったか!……な、なにぃ!」
「ば、馬鹿な…無傷だと!?」
今更この程度の魔法を受けたって何とも無い。
なにせボクの魔法防御の数値は9999。
まともにくらってもノーダメージだ。
「ば、化物め!死ねえ!」
「ウオォ!」
「ま、待て!迂闊に近付くな!」
アヴェリーの制止を聞かずに突っ込んで来る飛竜騎士。力量は七天騎士団の騎士に匹敵するんだろうが…今のボクには止まって見える。
スキルも魔法も使う事無く倒し…いや、殺せた。
「ば、化物め…細剣でワイバーンはおろか騎士を鎧ごと斬るだと…」
「剣帝に相応しい技の冴えだろう?」
「くっ…」
「殿下!お下がりください!」
「何を言うストラウド!ここで引き下がってなんとする!」
「我々では剣帝には勝てませぬ!無駄に命を散らすだけです!殿下はまだ…なっ!!?」
「今日は逃さない」
前回と違い、今日はボク達が攻めてるんだ。
折角皇女と筆頭宮廷魔道士なんて大物が出て来たんだ。
倒させて貰う!
「アレは光の最上位魔法!殿下!私の後ろへ!早く!」
「み、皆、下がれ!」
「
頭上に掲げた光球から放たれる複数の光線。
それが射線上にいる飛竜騎士団を薙ぎ払う。
「あ、ああ…私の部下達が…帝国が誇る飛竜騎士団が…」
「で、殿下…お早く…」
今ので半数近くは仕留める事が出来たか。
アヴェリーは筆頭宮廷魔道士が張った結界にギリギリ護られたか。
…まぁ、本音を言うと見逃したんだけど。
やはり女性は出来るだけ殺したくはない。殺したくはないが…
「ゆ、赦さん…剣帝!貴様は決して!ヒッ!?」
「ば、馬鹿な!殿下!?」
「捕まえる事は出来…うっ!?」
この盾は…護帝か。
砦の城壁にいる、見るからに上級な鎧を着た将軍。
白髪に長い髭、彫りの深い顔…少し顔色の悪い男が『護帝』セドリック・サザーランド。
あんなに離れた場所からでも護れるとはね。
「き、貴様!何故転移魔法が使える!?ストラウド!妨害は続けているのか!」
「む、無論です、殿下…な、何故…」
「それは簡単だ。アンタの空間干渉能力より、私の能力の方が上だった。それだけだよ」
「なっ…」
「馬鹿な…貴様は剣帝だろう!転移魔法が使える上、その能力でストラウドの上を行くというのか!」
「自分で見た物くらい信じたらどうだ?」
「うっ、うぅ…」
「で、殿下…一先ず下がりましょう」
「だ、駄目だ!こいつは危険過ぎる!ここでなんとしても…うっ!?」
おっと。王国軍の大弓部隊の射撃か。
いつの間にか射程距離に入ってたらしい。
「殿下!下がりましょう!」
「く、くそう!次こそ必ず仕留める!覚えておけよ剣帝!」
また盾が出たか…皇女が逃げ切るまで盾で護るつもりか。
追撃は…不可能じゃないけど、止めておくか。
それにしても護帝に筆頭宮廷魔道士。更に飛竜騎士団と皇女まで。
これだけの戦力を集めるとは、よほどこの砦を重要視してるらしい。
その分、南に居る父上達が楽になってると良いのだけど…
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