第35話 「一騎打ち?」
そうか…護帝の他に第三皇女、それに帝国の筆頭宮廷魔導士キース・ストラウドも居たのだな?」
「はい」
戦況は飛竜騎士団が砦内に引き篭った事で一段落。
ボクが飛竜騎士団の半数を仕留めた事で上機嫌になった殿下は本営に下がった。
今は天幕に各部隊の指揮官を集め会議中だ。
今後は予定通り包囲網を敷いて帝国の補給路を断ち、弱った所を全方位から攻撃する算段だ。
「護帝に飛竜騎士団に筆頭宮廷魔導士…ククク。帝国はよほどアイシスが怖いと見える」
「みたいねぇ。確か飛竜騎士団は総数五百程度だっけ?」
「ああ。恐らく半数は南のグラウバーン辺境伯軍が攻めてる城塞都市に居るんだろう」
「つまり此処には二百五十ほど。その内百近くを討ち取れたのは大きいわ」
「アイシスの魔法も、脅威的に見えただろうしな。これで奴らは暫くは出て来るまい。その間にこちらの体勢を万全にするぞ。よくやったな、アイシス。お前は下がって休むがいい」
「はい。失礼します」
団長達は引き続き作戦会議を続けるようだ。
白天騎士団は本営の前で陣取っている。
「あ、帰って来た」
「おかえり、アイシス」
「おかえりなさい。これ、貴女の分」
「ありがと。ただいま」
ティータさんから、食事を受け取る。
今日もいつもと変わらない、戦場食だ。
「聞いたよ。また第三皇女が居たんだって?」
「うん。かなり恨まれてたよ」
「ま、あの皇女さんからしたらアイシスは憎き敵だろうね。前回も今回も、アイシスにしてやられてるんだし」
「こっちにしたら逆恨みもいいとこだよね」
「だね。まぁでも、御蔭で高価な戦利品をゲット出来たわけだし」
「その点は感謝だねぇ。使い心地はどーなの?ティータ」
「悪くないわ。一級品の魔槍ね。支給品の槍とは大違い」
今回、倒した飛竜騎士団が装備していた魔槍は回収しておいた。
その内の一本をティータさんに提供したのだ。
白天騎士団に限らず、王国の騎士や兵士には武具が支給される。
勿論、自分で用意した武具を使う者も居るが多くは支給された武具を使う。
七天騎士団に支給される物は他の騎士団や兵士に比べて上等な物ではあるが、流石に魔槍などは支給されない。ティータさんが使っていたのも支給品だ。
「皇女さんには悪いけど、ごくろうさんだね。あたしらに魔槍をプレゼントしに来たようなもんじゃん」
「よっぽどアイシスに復讐したかったのかね」
「それだけじゃないんじゃない?これからあの砦の帝国軍は長い籠城生活を強いられるのよ?否応無に士気は低下するわ。その士気を保つ為に皇女が送られたんじゃないかしら」
「護帝がいるじゃん。それにそんな危険な地に皇女を派遣する?それだけの理由でさ」
「帝国もわかってるのよ。此処が落ちたら敗戦は濃厚。軍だけでなく民間でも敗戦の空気が伝播し、国内からも敗北を受け入れ降参しよう、って声が大きくなる。今でもあるでしょうしね」
だからなんとしても此処を守り抜きたい、その為には皇女とて犠牲にする、か。
「それにしても、何だって今頃出て来たのかねぇ、護帝は」
「あー、あたしも思った。名将ならもっと早く出て来ても良かったよね。こんな窮地に追い込まれてからじゃなく」
「ティータは何か知ってる?」
「知らないわ…推測は色々出来るけど全て根拠の無い事だし」
護帝が今まで出て来なかった理由、か。
ボクも何となく、想像が付く。出て来たくても、出て来れなかったんじゃないだろうか、と。
「じゃあさ、これからはどういう展開になると思う?」
「そうね…予定通り、帝国の補給路を断ち弱らせていく…つまりは睨み合いね」
「やっぱり?楽っちゃ楽だけど…こんなとこで何か月も暮らすのはイヤだなぁ」
「南の城塞都市をグラウバーン辺境伯様が墜とせば…もっと早いかもしれないけど。あちらも帝国軍の厚い護りがあるから…どうかしらね」
父上が、か。
父上なら上手くやってくれるだろうけど…こっちは砦で向こうは城塞都市だ。
普通に考えればこちらの方が早く墜とせると思うんだけど。
長期戦…は避けられないだろうな。
二ヵ月か三ヵ月か。ひょっとしたら半年…粘られるかもしれない。
半年も時間を稼がれたら帝国軍の援軍が来て…作戦は失敗に終わる、か。
さて、どうなるか。
と、考えてた時から二ヵ月後。
事態が動いた。少し、予想外の方向へ。
「帝国軍から使者が来た?」
「ええ。何でも総指揮官同士の一騎打ち…例の第三皇女とヴィクトル殿下の一騎打ちを望んでいるそうよ」
「一騎打ち?どういう事?」
「詳しくは聞いてないわ。でも、その事でヴィクトル殿下がアイシスを呼んでいるわ」
「何でアイシスが?一騎打ちを挑まれたのは殿下でしょ?」
「だから聞いてないんだってば…兎に角、アイシスは本営の天幕に行きなさい」
ティータさんに言われたまま殿下達が待つ天幕へ。
そこでは団長達も集まって会議が行われていたようだ。
何の結論も出なかったみたいだけど。
「来たか、アイシス。話は聞いているか?」
「帝国から使者が来て、第三皇女が殿下との一騎打ちを望んでいるとか」
「うむ。そして私が勝てば砦に居る帝国軍は無条件降伏、砦は明け渡す。私が負ければ王国軍は撤退。三ヵ月の休戦条約を結んでもらう。どちらが勝とうと私の命は保証する…だそうだ」
「それは…」
随分とこちらに有利な条件に思えるな。こちらが受けいれるように好条件を用意したのだろうけど…そこまでして一騎打ちをしたい理由って…
「……」
「お前が考えるように、こちらにとって随分と都合のいい条件だ。勝てば万々歳、負けてもさほどの損失は無い」
「でも、だからこそ帝国側からこんな条件を出す理由が解らないわ。何か裏があるんじゃないかと、どうしても考えてしまうの」
「…それで、私が呼ばれた理由は?」
「第三皇女アヴェリー・アーデルハイト・ファーブルネスの印象を聞きたい。皇女と直接言葉を交わしたのはお前だけだ。皇女とはどんな人物だった?」
「印象…ですか」
二度しか会ってないし、お互い敵として出会ったわけだから…あまりよくわかってないが…
「…彼女なりの騎士道を持ち、部下からも慕われている。また彼女も部下思いの性格に思えました。だから今回の事が彼女の主導によるものなら嘘や罠の類では無いと思います。ただ…」
「ただ?何だ」
「彼女が代表として一騎打ちに出るのは違和感があります。殿下を指名するのはわかりますが、確実に勝ちたいなら帝国からは護帝が出るべきでしょう」
「それはあたし達も疑問に思ってたのよね~。何で護帝じゃないんだろうってね」
「剣帝と戦う事になるのを恐れたのではないか?」
「そりゃお互いの代表者同士で、ならこっちはアイシスちゃんに出てもらうでしょうけどぉ。お互いの総指揮官同士で一騎打ちって申し入れなのよ?あたしはてっきり帝国の総指揮官は護帝だと思ってたんだけど。アイシスちゃんは何か心当たりはない?」
「…根拠の薄い、殆ど勘による話で良ければ」
「構わん。聞かせてみよ」
「…護帝は既に、死んでいるのではないかと」
「なっ」
場が一気にざわめきたつ。
その場にいる誰もが全くの予想外だという感じだ。
「アイシス、その根拠は?」
「薄くても根拠はあるんでしょ?」
「最初の戦いの時、私は護帝と思しき人物を遠目ながら見る事が出来ました。その時の印象が帝国の守護神と呼ばれる人物にしては痩せているな、だったんです」
「…つまり護帝はこの二ヵ月の間に病死したのではないか、そう言うわけだな?」
「…はい」
もし、以前から病身だったのなら。
これまで護帝が出て来なかった理由も察しがつく。
「…護帝は以前から病に臥せっていた為に出て来れなかった。国の危機に無理をして出て来たが、それが祟って病死した。焦りを覚えた帝国…第三皇女はイチかバチかの賭けに出た。こんなところか」
「確かに、それならば帝国の不可解な行動に説明が付きます。ですが…」
「何だ?バーラント」
「あの砦には筆頭宮廷魔導士のキース・ストラウドも居るのでしょう?彼が出て来ても良い筈では?」
「ふむ。それについてはどう思う?アイシスよ」
「彼の魔法では私に勝てない。それは前回の戦いで身に染みてるでしょうから」
「なるほど。だから勝ち目がありそうな私との一騎打ちか。ふん!随分と舐めてくれたものだ」
察するに…殿下を挑発する文章もあったんだろうな。
「しかし、そうか。護帝がいないとなればアイシスの魔法を防ぐ事は難しい。総攻撃を受ければ一溜りも無い。ならばこちらが焦れて攻撃を開始する前になんとかしたい、という事か」
「そんなとこでしょうね。それで殿下?どうするのん?」
「受ける必要はありません。此処は総攻撃を開始して…」
「何をバカな。一騎打ちは受ける。第三皇女自らの挑戦を逃げたとなれば国の笑い者になるわ」
「いや、殿下!しかしですね」
「二度言わせるなよ、ビッテンフェルト。タッカー、帝国へ返答の使者を出せ。一騎打ちを受けて立つとな」
「殿下…」
あー…やっぱり受けるのか。
殿下の性格からして、こうなるんじゃないかって思った。
一騎打ち…か。
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