コンビニの訪問者 10

私達の前には巨大な木がある。予定通りなら私はもうロープで釣り上げられているはずだったんだけど……



「誰かこの中に木登りが得意な人とか?」


「俺、運動神経はいい方だけどこんな高い木登れねーよ。」



と坂野君…ですよね~。この木、何mあるんだろう?

六(りく)も無理だろうし……

と思いながら、チラッとそっちを見たけど、あっさり否定された。



「俺も無理だな。」


「もっと早く言ってくれれば、鳶(トビ)の知り合いに頼めたのに……

もう日が沈んでるから無理だな。」


「徳さんって本当に顔が広いんですね。鳶職(とび)の知り合いまでいるなんて!」



いや、たぶん徳さん(キツネ)の言ってる“トビ”は“鳶職”じゃなくて、鳥の方の“鳶”だと思うよ……



「なんとかその人に、頼めないんですか?」


「鳥眼だからなぁ……

暗いと無理なんだよねー。」


「まいったなぁ……

他に使える奴居ないのかよ?早くしないと時間が無くなるぞ!」



坂野君の言う通り、あまり遅くなると三波さんが呼び出しに、応じてくれなくなる可能性がある。



「あれ?そのロープをあそこの枝に引っ掛かけて、こっちに垂らせばいいんだよな?」



今まで黙っていた田口さんが、何か思いついたらしい。



「そうだけど?何かいい方法思いついたんですか?田口さん。」


「【見越し入道】にロープを投げてもらえば良くないか?」



えっ!?ちょっと何言ってるのよ?

そんな妖怪の名前出したら!?



「その見越さんってきっと大きいんですね!」



どうやら薫ちゃんは【入道】はあだ名だと、勘違いしてくれたらしい。

良かったぁ!



【見越し入道】って確か見上げれば見上げるだけ高くなる妖怪だったわよね?

アレから私も、少しは妖怪の事を勉強したから少しぐらいは解る様になったのよ!



「準備出来たら呼ぶから、君達は向こうで田口と一緒に、呼び出しの電話してくれるかな?同時進行でやらないと間に合わないよ!」



確かに急がないと、時間的にマズいと思う。なんとか薫ちゃんと坂野君をその場から遠ざけて、【見越し入道】を呼ばないといけない。



「あ、お嬢ちゃんも向こう行っててね。流石に本来のアイツの仕事と、違う事を頼むんだから会わない方がいい。念の為だけど…… 」



徳さん(キツネ)の言う通り、会わない方がいいのかもしれない。

それに田口さんの、《声帯模写》の方にも興味がある。



「じゃあ、私向こうに行ってるね。」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「お待たせ!どう上手く行きそう?」


「これから電話掛けるところ。皆んな静かにしててねー。」



そう言って、田口さんは三波さんに電話を掛けた。



プルル プルル


「〔こんばんは、三波さん…実は折り入って君に話があるんだ。電話じゃ無くて直接話がしたい……

【寛現寺】の裏の林に7時に来てくれるかな?

待ってるから…… 〕」


「××××!」



プツン



「すげぇ!マジで倉本先輩みてぇだ!」


「彼女、来るってさ。凄く嬉しそうだったよ。」


「よく呼び出しに応じたわね。」



という薫ちゃんの疑問に、田口さんは……



「種明かしは後でね。あの様子だと時間より前に来そうだから、準備に掛かった方がいい。」


「そ、そうね!じゃ、皆んな宜しく!」


「任せとけって!行くぞ山根!!」


「了解!じゃあ薫ちゃんも説得頑張ってね!」


「任せといて!」



こうして私達はようやく作戦を決行する事が出来たんだけど……



「「「「「「せーーの!!」」」」」



皆んなで力を合わせて、ロープに繋がれた私を引き上げる。

思ってたより私がぶら下がってる位置が高くて、少しでも風が吹くと揺れて安定しない。



やっとの事で引っ張り上げられたけど、辺りが暗くて不気味なのよね。だからって灯りを付ける訳にいかないし……



直ぐ近くに皆んな居るんだけど、三波さんに見つかるとマズいので、息を殺し気配を消している。



「センパ~イ!何処ですかぁ~?貴方のマサエはココですよ~♪」



あ、三波さんだ!というか、『貴方のマサエ』とか寒っ!!

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