アルバイト始めました 8
時刻は草木も寝る丑三つ時…では無く午後10時過ぎ……
何時もなら、それなりに車が行き交う時間帯。
現在…【謎の暴走族】の噂の所為で、地元民の車は殆ど通らない国道と国道が交わるこの地点に、ただ1人佇む私は……
“明日から高校生”の山根理子15歳。
と言っても道を隔てた向こう側に、もう1人…幼馴染みの“六(りく)”がいるんだけど、信号機や街灯の灯りで薄ぼんやりとしか見えない。
何故、私がこんな所にいるかというと、例の【謎の暴走族】…その正体は、何故かウチでバイトしている“豆狸(まめだ)”達によると、【輪入道】とその相方の【片輪車】だそうなの。
私達はそいつらを捕まえる作戦の為に、借り出されている。
豆狸の片割れ、徳行寺(とくぎょうじ)タヌキの徳タヌキによると、“竹籤(たけひご)”の先に赤い“紙縒(こより)”を付けた物を四辻の角に刺して置く事で結界が張れるんだとか……
『“相模(さがみ)”の稲荷狐から聞いた話じゃから、間違いない!』
“豆狸(タヌキ)”の次は“稲荷狐(キツネ)”かぁ……
けっこう妖怪って身近に居るのね。
春だと言っても流石にこの時間帯は寒い……
数分前まで乗せてもらっていた、この作戦の為に態々京都から来てくれた【朧車】さんの中は暖かかったけど……
【朧車】さんは一見、普通の乗用車の姿で、車体の方が本体。声はカーラジオから聞こえてきて、けっこう渋い……
そして運転席に、かなりリアルに出来た人形を乗せていた。
しかもコレがちゃんと動くのよ!
怖くてなるべくそっちの方は、見ない様にしたわ。
何でも昔、旅行で来ていた【朧車】さんが農道の脇にあったため池にハマって、身動きが取れなくなっていたのを、豆狸達に助けてもらった恩返しで、遠い所を来てくれたんだって。
妖怪ってけっこう律儀なのね。
良い人?そうだったけど流石にアレで【輪入道】と【片輪車】を追いかける方にまわるのは、遠慮したい。
本来なら、警察がこの場所で取り締まりをするはずだったんだけど…何故か警察車両は1台も此処に辿り着けていないのよね。
『大それた事は出来ない。』と“六(りく)”は言っていたけど、けっこう凄いと思う。
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(満月視点)
「【朧車】よ…準備はええかの?」
「おぉ、大丈夫じゃ!いつでも良いぞ!」
ワシは今、ジャンケンで勝って“温(ぬく)”い【朧車】の中におる。
徳は負けたけえ、今頃囮り役で“人間のフリをして”バイクで走っとるはずじゃ。
免許証なんぞ持っとりゃせんがの…長い事生きとるけん、運転くらいは出来るんじゃ。
「おぉ!?バイクのライトの灯りじゃ!
どうやら向こうも喰い付いた様じゃのぅ。」
おや?それにしちゃあフラフラしとってスピードがあんまり出とらんが……
パルルルルッ
目の前をどっかの派手な格好した、右腕を吊った若い男が必死な形相で、バイクを運転して駆けっていった。
ゴオオオオオーーーーー!!
その後を【輪入道】と【片輪車】が追いかけて行きおった。
「ありゃあ、どう見ても徳じゃ無いのぅ~ 」
「ああそうだな……
だが、チャンスだ!このまま追いかけよう!!」
じゃが【朧車】が駆け出そうとしたら、だいぶ後ろの方から徳の声が聞こえて来た。
「お~い!ちょっと待ってくれーーー!ワシも乗せてくれ!!」
「徳!?バイクは、どしたんなら?」
徳はタヌキ姿で必死に走って来た。
どう言う事じゃ?
「ゼィ…ゼィ…さ…さっきの男に…盗られたんじゃ!」
「はぁ~???とにかく話は後じゃ!
早よう追いかけんと!!」
結局、2匹で【朧車】に乗って、【輪入道】達を追いかける事になってしもうた。
「何があったんじゃ?」
「それがのぅ…乗って来る時は、ええがにエンジンが掛かっとったのに、待っとる間に切ったら掛からん様になってしもうて……
そしたら、あの男が…… 」
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(徳の回想)
「さて…予測通りなら、そろそろ奴らが来るはずだな。」
人間の姿に化けた徳行寺タヌキのワシ…“徳行(とくゆき)”こと徳は、“満月を騙して”バイクで【輪入道】共を惹きつけるいうカッコええ役を手に入れた。
待ち伏せ場所で待っている間、一旦エンジンを止めとった。
遠くの方で【輪入道】達のエンジン音が聞こえて来たけえ、今じゃ!思うてエンジンを掛けよう思うたら、なんぼやっても掛からんかったんじゃ!
そこへあの男がやって来て……
「おぅ、兄ちゃんどしたん?
エンジン掛らんのか?見してみぃ…
よし!掛かった。」
そこまではえかったんじゃ……
男は突然、ワシのバイクに跨がったかと思うたら、
「アイツと勝負するのに、ちょうどバイクを探してたところだったんだ。ちょいかせーや。」
「えっ?!あっ!!」
「トロトロしとるんが悪い!貰ってくでー!」
「ああっ!ワシのバイク!返せ!戻せ!!」
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「と、言う訳なんじゃ…… 」
「ほうか…徳はワシを騙したんか?」
「えっ!イヤそりゃあ… 」
「おい!ケンカしてる場合か?もう追いついたぞ!」
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☆砂月ちゃんの広島弁講座♪
【ええがに】
上手い事。上手く。ちゃんと。
他県の人との会話で、計画通りに行かなくて落ち込んでる人に対して
「ええがにいかんか?」
※共通語訳
「上手くいかなかったのか?」
と言ったところ、『映画に行かんか?』と言われたと勘違いした。
というジョークがあったりする……
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