アルバイト始めました 7

夕食後こっそり食料庫に行ったら、既に“六(りく)”とタヌキ姿の徳さんと満月が中に居た。



「なんでそがぁな大事な話を、ワシにせんかった!?」


「後で言おう思うとって、忘れとっただけじゃ!」


「『忘れとった』じゃと!?この“耄碌(もうろく)”ダヌキ!!」


「なんじゃと!?

昔は『あんちゃん、あんちゃん』言うて付いてまわりょって可愛いかったのに……

はーーー!!ほんの数年でイキりおってからに!」


「わりゃ!いつの話しをしょうるんなら!?

いつまでもガキじゃあ思うな!!」



あんた達、正体バレた途端にこの態度なのね……

お互い面と向かってケンカしてるならともかく、徳タヌキと満月タヌキは“六(りく)”を挟んで不毛な罵り合いをしていた。



しかも何なの?この漂う年寄りくさい会話……

お店に来るお爺ちゃん達と、同じじゃないの!



「もしかして、ずっとこうなの?」


「ああ…30分くらい前からずっとな。」


「ごめん、待たせちゃって。

ちょっとあんた達!いいかげんにケンカするの辞めて、今回の事件の説明してくれる?」



そう私が聞くと、徳タヌキと満月タヌキは同じ事を口にした。



「「ありゃあ【輪入道】と【片輪車】の仕業じゃ!!」」


「「!!」」


「徳!真似すんな!!」


「満月こそ真似すんなや!!」



2匹はまた、ケンカを始めてしまった。

これじゃ話が進まないじゃないの!

すると“六(りく)”がすかさず仲裁に入ってくれた。



「ほら、ケンカしない。後でいい物やるから。」


「「いい物?酒か!?」」



ケンカしてた割に、声揃ってるんだ。

結局仲良し?



「それは後のお楽しみ。さぁ、ちゃんと順番に話を聞かせてくれるかな?」


「「しょうがないのぅ。」」



“六(りく)”ってば手慣れてるわね。

そして、豆狸は物に釣られやすいと……



「事の起こりは最近流行りの《きみちゅーばー》とかいうのが、アレらを封印しとった祠を壊しよった事じゃ!」



と、徳タヌキ。



「えっ?この町にそんな物があったの?

知らなかったわ!」


「まぁ、ほとんど忘れ去られておったからのぅ。ワシらも忘れとったし……

気が付いたのは偶々、“六(りく)”の部屋で《ねっとさーふぃん》をしておった時じゃ!その投稿を見つけた時点で既に3日以上も経っとった。」


「封印されとった【輪入道】と【片輪車】は、とうに逃げた後じゃったんじゃ!」


「ヘ~え。ところで、【輪入道】とか【片輪車】って何?」



という私の質問に、2匹は呆れた様な声で説明してくれた。



「なんじゃ…今まで何を聞いとったんじゃ!?」


「【輪入道】というのはのぅ…炎に包まれた牛車の車輪の中央に男の顔が付いた姿をしておる妖怪じゃ。

見た者の魂を持って行くと言われとる。」


「【片輪車】いうのは、その名の通り片輪の妖怪での、車輪に般若の顔が付いちょる女の妖怪なんじゃ。

運が良かったのか、今まで死んだ者は出ておらんが、それも時間の問題じゃて…… 」


「「そがぁな事も知らんのんか?今時の若い者(もん)は…… 」」



さっきまでケンカしてたのが嘘の様に、2匹は仲良く話をしている。

やっぱり仲良しなんじゃないの。

でもちょっと言い方に腹が立つ。知らなかった物は仕方ないと思うんだけど!



「確かに徳達の言う通りだ。最初の頃より段々と被害が大きくなってるしな。」


「今日辺り、どうにかしよう思うてな。ちゃんと足も用意したんじゃ!」


「足って車でも用意したのか?

まさか、俺が運転するんじゃないよな?免許取立てなんだよ。スピード違反で捕まりたくないんだけど…… 」



“六(りく)”が嫌そうに言うと、徳タヌキは自慢気に言った。



「安心せい!ちゃんと運転手付きじゃ!!」


「へぇ~他にも協力してくれる人がいるんだ!」



なんだ…私や“六(りく)”以外にも、協力してくれる人がいるなら安心じゃない。



「いや、協力してくれるんは、【“朧車(おぼろぐるま)”】じゃ。

まさかお嬢、【朧車】も『知らん。』言わんじゃろうな?」


「うっ…名前くらいは聞いた事あるわよ。」



確か、瑞稀がしていたゲームにそんなのがいた様な……



「【朧車】というのは牛車の車の妖怪じゃ。生まれたんは【輪入道】達より前じゃけん妖力も上じゃからなんとかなるはずじゃ。」


「じゃが、ワシらだけじゃ手が足りん。」


「ああ、わかってるって!これ以上被害が増えても困るからな!」


「「頼むぞ。坊、お嬢!」」


「えっ!?私もなの??」


「「当然じゃろ!他に“手伝(てつどう)”てくれる“者(もん)”がおらんのじゃけぇ。」」


「私…明日、高校の入学式なんだけど……」



という私の話は誰も聞いてくれなかった。

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