04 JK店長は実質的店長に過ぎない。

店内放送が夜のラジオから朝の音楽番組に変わる頃……つまり明け方四時頃。

この時間にもなると、大体の仕事は終わり、ようやく一息つけるようになる。


「よし!」

数時間かけて入念に掃除し、ピカピカになった窓ガラスを見て私は思わず声を上げた。

「じゃあ、休憩にしようかなー」

余談だけど、一人言が多くなるのはひとりぼっち夜勤のあるあるだと思う。



そのまま事務所に向かい、ローズヒップを淹れて座椅子に座り、スマホを取り出してネット小説の続きを読み始める。


……決してサボリではない。あくまでもこれは休憩だ。自室のように和んでいたとしても、休憩なのだ。

もしお客様がいらしたら、すぐ仕事モードに入れるし!……まぁそんなことは滅多にないのだけれども。


『休憩はしっかり取る』のも、上司からのお達しなのだ。



「おはようー、お疲れさまーー」

眠そうな間延びした挨拶と共に、ちょうど、その上司が来た。


カインマート鈴浦店のオーナー、兼店長の母さんが。


前に私が実質的店長ですとか名乗ったけれど、厳密に言うとそれは正確ではない。


さすがにいくら人手不足のブラック店と言えども、高校に入ってまだ数ヶ月しか経たない子どもがコンビニ店長になれるはずがない。

当店の名義上の店長は母さんである。


ただ、母さん一人でオーナーと店長の仕事を掛け持つのは無理があった為、私が店長の仕事を受け持つようになっただけの話なのだ。



オーナーと店長の仕事は似ているようで、その実かなり違う。

店の経費や人件費等を管理して店を維持するオーナーの仕事と、発注や精算業務等で店を運営していく店長の仕事。


どちらも重要で重責のある仕事だ。

その両方を一人で担うのはいくらなんでも無理がある。

だから店長という肩書きはなくても、私が業務だけでも受け持つようになった。


実際にやっていることは店長の仕事だし、私の意欲的な意味も込めて、普段から『自分はカインマート鈴浦店の実質的店長だ』と自覚するようにしている。


三ヶ月前まではオーナーである父がいたから、私はお気楽なバイトでいられたんだけどね。



「おはよう、母さん。今日はいつもより早いね」

「龍二から聞いたからねー、ねーちゃんが無理してるってー」

「そんなことないのに…母さんこそ、こんな早くから働いたら身体壊すよ?」


まだ朝五時にもなっていない。いつもより一時間以上早い出勤だ。


「大丈夫よー。亜里こそ、今日数学のテストなんでしょー?夜勤中に勉強するって言ってたけど進んだのー?」

「……あ」

やばい。窓掃除に夢中ですっかり忘れてた…


「店は私に任せて、亜里は早く帰って勉強と仮眠しなさーい?高校生は勉強が第一よー?」

「…分かった、そうするよ。ありがとう、母さん」

「はい、お疲れ様。」



そうして私は慌てて家に帰って、勉強に取りかかる…うちに机に突っ伏して寝ていた…

結局ノー勉……


仕事と勉強を両立させるのが私の目標なのに、まだまだ実現は遠そうだ。

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