異形/世界/顕現者に関しての調査記録。

環月紅人

解説:異形/世界/顕現者(1532文字)

 異形とは、魂を喰らう者。

 仮称・ソウルイーターである。


「ケシャケシャ」

 奴らは醜悪な姿をしている。白い身体だ。体躯は130センチほど、小学校低学年くらいの児童とほぼ同じ背丈をしている。そんな小柄な異形は頭部が大きく、足が短い。猫背に折れ曲がる二足歩行の異形には、だらんと引き摺る長い腕。

 まるでナマケモノのような長く鋭利な鉤爪はしかし、木にぶら下がるためなどではなく命を刈り取るデスサイズとして。

 頭部はまことに悍ましい。

 眼がなく。鼻がなく。耳がなく。毛がなく。

 けれど人を嘲るような鳴き声を上げる口があり、その内には鈍くギラついた牙が揃う。

 人間のような成長する肉体ではなく、ある種の完全生命体として作られているその身体は、体毛のひとつもなく不気味だった。

 それがこの世界における異形だった。


 ――ソウルへイムという世界がある。

 天国。地獄。あるいはあの世として、様々に名を変えて信じ続けられた場所。全ての世界の魂が流れ着く先。

 だからそこに、特定の風景はない。特定の生物もいない。形がない、概念世界のはずだった。

 幾千幾万もの魂が至る。善性悪性の区別を受けたのち、再び世界へ送り出される。その繰り返しのはずだったのだが、綻びが生まれたのはいつだろう。

 異形が生まれ、善性魂を捕食し始めたのだ。保護しなければならない、守り抜いて、戦わなくてはならない。

 だから顕現者は召喚される。記憶を消去され、ただ戦闘員。駒として、世界の管理者に選別される。生者でありながら異世界へ行く。

 条件としては天賦の才だろう。戦闘系の物であればあるほどいい。

 それと強固な魂だ。自我の強い者であれば、この世界においても生きやすいし、異形にだって戦える。

 記憶を奪う。余計な諍いを減らすため。名を無くした彼らに、便宜上として数字の名を与える。

 管理者は四名いた。各々が十三人までの顕現者を管理する。全五十二名の、魂の守護者だ。


 彼らにはこの世界がどのように見えているのだろうか。風景なく、形なく。浮いた魂と異形だけが存在するはずの異世界のなか。


 ――さる地では。

 荒れ果てた都会の景色だった。極端に破壊された終末図だ。

 果てしのない荒野もあった。剥き出しの山岳もあれば、凍てついた雪原もある。美しい花々の湖。赤砂の砂漠。森林。海上。

 それは決して、この世界が広大な訳ではない。

 仮に例えるとすれば、それは風景を切り取ったジグソーパズルを、ごちゃ混ぜにした後に無理やり当て嵌めたような混沌具合だった。

 断絶したように。雪原と森林が隣接する。スパッと空気が切り替わる狭間がある。通常であればかけ離れた所にある景色が、同居している。

 その理由はただ一つだ。幾千幾万と流れ着く魂が持ち寄る、各世界の記録や情報が参照されて、ソウルへイムに仮初の形を与えていた。

 だから。

 荒れ果てた都会は〝どこかにある〟。

 際限なき荒野も〝どこかにある〟。

 狂い季節の湖が〝どこかにある〟。

 赤砂の砂漠が〝どこかにある〟。

 数多ある世界の風景の一部を切り取った寄せ集めのテクスチャ。

 それが今のソウルへイムを形作っている。


「ディヴァイス、トンファー」

 少年がいた。彼も例に漏れず、記憶を失い顕現者として、No.Ⅵという名を与えられた人間だ。手に持つ天賦の才はトンファー。がっかりしている訳じゃないが、もう少しメジャーな剣などの才能が良かったとは彼の呟き。

 とは言え。

「ここに来なけりゃ活かせなかった才能、ってわけだ」

 現世にいればまず間違いなく見つけられなかったであろう己の才能を両手に握る。見つけられたとしていても、現世じゃ死んでいた才能だっただろうと。

「任務、いっちょやりますか」

 顕現者としての使命を果たす。異形を倒し、次世代を守る。

 No.Ⅵ=ロクは、この異世界で、生きている。

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異形/世界/顕現者に関しての調査記録。 環月紅人 @SoLuna0617

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