主文 原告と被告とを離婚する。

相 合唆

第1話 問題提起1

「・・・このように、被告は、訴外川合と、少なくとも月に数回密会の上、不貞行為を行っており、離婚原因が存在することは、明らかである。」か・・・・。甲は、準備書面を見ながら、無意識につぶやいた。甲は、とある中堅都市の地方裁判所に勤務する、8年目の裁判官である。民事を主として担当し、これまでいくつかの離婚案件の判決を下してきた。彼の判断で、当事者の夫婦関係が時に終了する。もっとも、彼は未だ、独身である。

 民法第七百七十条「夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。一 配偶者に不貞な行為があったとき。・・・」甲は、ぼんやり頭の中で思い出す。

 不貞行為とは、端的に言えば、婚姻外の異性とセックスを行うことである。セックスは、生物にとって、すこぶる本能的かつ普遍的な行為である。言わば、自然な行為である。

 民法第七百七十条は、離婚の原因を列挙する。そのうち、不貞行為は、他の離婚原因と比較し、異質である。


他の離婚原因は、

二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。

三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。

四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。

五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

とある。二、三、四は、当然のことながら、配偶者間だけの問題である。第三者は、出てこない。

「五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。」の典型例は、DVすなわち暴力である。又、主張として多いのは「性格の不一致」であるが、これらも、純粋に二者間の問題である。

しかるに、不貞行為は、第三者が出てくる。婚姻関係という二者間だけの問題なのに、第三者が登場してしまう。




 

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