08

***


教室がザワザワしている。

始業のチャイムが鳴っても今日はザワザワだ。学生のノリなのか女子校のノリなのか、たまにそういう日がある。


物理の時間、梶先生が教室に入ってきた。

それだけで私は心が踊る。

起立をして挨拶をして着席をして、そして誰かが声をあげた。


「先生~彼女いるんですか?」


「聞きたーい」


ザワザワな教室が更にザワザワになった。

私は自然と鼓動が早くなってしまう。


散々先生に”好きだ””デートしてください”等と言っていたけれど、よく考えたら先生に彼女がいるかどうか確認していなかった。自分のことばかりで、梶先生のプライベートのことなどまったく気にしていなかったのだ。


私は先生の反応が気になって、事の流れをじっと耐えて待つ。


「さあ、どうでしょう?」


いつもの笑顔でさらっと答える先生。


「え~何それ~。じゃあ今まで何人彼女いたの?」


なかなかに積極性のある同級生は更につっこんで聞く。気になる私はハラハラとするばかりだ。

すると先生は、


「月並みですよ。さ、授業を始めますね」


と、何事もなかったかのように教科書を開いた。私たちは先生の態度に不完全燃焼ながらもおっとりとしたペースに乗せられて、いつも通り授業が始まった。


先生、月並みって?

月並みの基準がわからないよ。


何だか妙にドキドキしてしまって、この日私は授業どころではなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る