scene.48 悪役を邪魔する者 Ⅱ



「………」


「………」


 人が折角やる気出して立ち上がったってのに、どうしてやる気を削ぐような事をするかねぇ……

 目の前に居る緑髪の女の子は完全に怯えている。

 話があるなら早く言えばいいのに、目の前で人の顔をチラチラみて怯えるだけって……


「オーリー?」


 俺のテンションが露骨に下がったのを感じたのか、隣にいるリリィが心配そうに声をかけてきた。

 そうだな……そうだわ


「いや……なんでもない。行くかリリィ」


 そうだ、どうでもいいことだ。ついつい気にしてしまうのは悪い癖だな。

 そう思い、リリィの手を取り、目の前の女の子の横を通りすぎようとした時、


「ごめん……なさい」


 女の子が口を開いた。

 ごめんなさい?何の謝罪だ?意味がわからん


「……よくわからないが、謝られるようなことをされた記憶がない。じゃあな、もう二度と会う事も無いだろう」


 二度とその顔を見せるなくらい言いたかったが、そこまで言えるメンタルは無かった。

 そうして、今度こそ通り過ぎようと動いたら


「助けて!……くれて…あり、がとうございます」



 今も尚怯えた表情を浮かべ、全身を震えさせている少女が俺を真っ直ぐに見詰めてそう言ってきた



 そうか……

 


「………そうかい。そりゃどうも。」



 まあ……無事でなによりだ…


 俺のやった事に意味があったのなら……そうだな………良かった


 尚も怯えたままの少女を見る。


 感謝を伝えられたのはいいが…では、どうしてこれほどまでに怯えているのだろうか?

 一体何に怯えているのだろうか?



「マデリン、その女はもう連れて帰っていいわ」

 

「畏まりましたお嬢様……さあ、帰りましょう」


 俺が1人疑問に感じていると、マリアの指示によって女の子は連れ出されてしまった。



「あ、あの女が、どどどうしてもオーリーにお礼が言いたいって言いますから……」


 お、珍しいな。これはマリアの嘘だ。

 マリアは嘘を付かないが、何か隠したいことがある時は誤魔化そうとする。それが超弩級にヘタクソだ


「ふっ……」


「笑わないでくださいまし!ほ、ほんとうですわ!」


 目が泳ぎすぎ、ぐるぐる回ってんじゃねぇか。嘘つくのヘタクソかよ


「ま……じゃあそれでいいさ。雑に扱ったりマリアが苛めているとかじゃないんだな?」


「当然ですわ!オーリーから任されたことですもの!」


 腕を組んでドヤ顔で言っているが、気になる事はいくつもある


「わかったよ。じゃあそれは信じるとして、だとしたら何であの子はあんなにびびってんだ?俺が目の前で……その…人を殺したのが……そんなに怖かったのか?」


 俺は人を殺したんだ……いい加減に認めよう。

マリアやリリィに何を想われた所で、俺がやる事は変わらない。

認めて、受け入れて、俺は強くならなければならない。1人で生きていくためにも。


「いいえ違いますわよ?オーリーが華麗に救出したからこそあの子はお礼を言いに来たじゃありませんの。私だったら感激のあまりオーリーに抱きついていたところですわ!」


 お前はいつも抱きついてきてるだろうが……というか、マリアは結構あっけらかんとしてるな……

俺が考えるよりもこの世界の命は軽いのか?前世の常識に引きずられすぎているだけで、殺し殺されは王都の外では日常茶飯事なのか?だとすれば、俺の気持ちも多少は楽になるかも……


「マリアの話は今はどうでもいいが、だったら何でだ?」


「逆ですわ!あの女の話こそどうでもいいではありませんの!でも……そうですわね、あの子は他所からラーガルに来たようですが、元の国で両親が目の前で殺されてしまったらしいのです。それで急ぎ気の知れた人達と一緒に国を出てこちらに逃げてきたものの、その途中でお仲間にも裏切られてしまったようでして、今のあの女は抜け殻のような生き物ですわ。何を見てもびくびくと怯え、誰と話す時もおどおどとする。オーリーが怖いというわけではないのですわ」


「そう……だったのか……」


「ええ!ええ!助けてくださった相手を怖がるわけがないじゃありませんの!ましてやオーリーですわよ!」


「俺だからって何だよ……いや、でも、そうか。そうだったのか」


 そうか……そうか……


「オーリーはさっきの女を助けたの?」


 マリアの話を反芻しながら落としこんでいると、隣で手を繫いだリリィが顔を覗かせてきた。


「まあ、助けたっていうか……」


「ええそうよ!リリィ!オーリーは武装した大の男3人を相手に圧倒しましたわ!今まさに目の前で組み伏せられているあの女を助ける為に!オーリーが颯爽と現れて一瞬で蹴散らしましたのよ!」


「す!凄いね!怪我はしなかったの?」


 なんで見てきたかのように喋ってんのかと思ったが、さっきの女の子から聞いたのか。

 実際は気付かれる前に物影から倒しただけで、颯爽と現れてなんかいないが……


「……助かったんならよかったよ。でも……かなり辛い目にあったようだしな……マリアのほうでこれからもあの子の面倒みてあげられるか?まあ俺が専属で雇って面倒みてやってもいいんだが……」


「みます!みますわ!アイリの事はカラドリアが責任をもって面倒をみますわ!だから、オーリーの専属には私がなりますわ!」


「いや、そうはならんだろ。どういう思考してんだ。」

 

 そうか、アイリって言うのか。

 偶然とはいえ助けたのは俺だしな……俺に出来る範囲で手助けしてやろう……

 

「専属側仕えは私よ!」


「おーーほほほほ!専属は1人じゃなくてもいいのですよ?そうね、リリィにはまだわからないかもしれませんけれど、いずれお勤めを果たす時は私が代ってさしあげてもよろしいですわ!リリィは専属とはいいましても、パーティーメンバーですものね!おーーほほほほ!」


「わ!私だってそのくらいできる!」


「おほほ!私の方が将来有望ですわ」


 人がアイリについて、あの時のことについて、ようやく一区切りが出来て落ち着いたというのに


「何をごちゃごちゃ言ってんだ。」


 こいつらはさっきから隣で何をギャーギャー言ってんだ


「それじゃあ俺とリリィはダンジョンにいくから、マリアはマデリンが戻ってくるまで屋敷の中でのんびりしててくれ」


「そんな!久しぶりに会えたといいますのに、もう少しだけよろしいじゃありませんの!」


「くっつくな!離れろ!」


 右手はリリィと手を繫いでいるので、いつものように左側にべったりとくっついてきた。

可愛い女の子にくっつかれる事自体は嬉しいが、マリアの場合は何を考えているのかさっぱりわからないし、絶対に裏があるからな。

 それに、季節柄そろそろ暑いんだよ。鎧やらその下にきてる装備やらも暑い。


「では、私もパーティーメンバーに加えてくださらないですか?」


「あーはいはい、マリアが俺とリリィの冒険者ランクに追いついたらな。だから離れろっての」


 追いつけるわけが無い。

俺とリリィはこれからダンジョン攻略を開始する。ゲームの通りだとすれば冒険者ランクが上昇するのはダンジョンのクエストが最高効率だ。もしかするとドブ掃除とかのほうが査定が高いのかもしれないが、それでもあれは出来て1日に2,3箇所。そもそもマリアにあれが出来るわけがない。


「いいんですの!?言質はとりましたわ!」


 馬鹿め、本当に追いつけると思っているのか?

もちろん中級とかにあがれば冒険者ランクも中々あがらなくなるが、そこに至るまで何年掛かると思っている。


「はいはい、じゃあ契約なー、だから俺とリリィの邪魔をしないでくれ。」



 屋敷の玄関を出たすぐの場所

マリアにべたべたとくっつかれ、リリィにはダンジョンに行こうと手を引かれ、早くマデリン帰ってこないかなーとのんびり考えていると、正面の門が開いた。



 思ったよりも早く帰ってきたと思って目をやると……そこに居たのは、




「あらあらオーランド………随分と楽しそうですね」


「オーランド様!お久しぶりです!!」


 

 満面の笑みを浮かべたシャーロット王女と、王女に首根っこを捕まれているケルシーだった。

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