scene.25 自立の為のお勉強
シャーロットとケルシーの2人と敵対してから数日、俺とリリィは2人で買い物をしていた。
「これはなに!あっいや、なな、これはなんですか?」
「ははは、元気なお嬢ちゃんだね。これは魔力回復薬だよ」
リリィの質問に店員が笑いながら答えている。
「へー……これじゃないよね?な、ないですよね?オーランド様」
「そうだな。今日買うのはただの体力回復薬のほうだ」
俺とリリィは、王都の中をぶらぶらと買い物しているわけだが今居るのはいわゆる薬局だ。
身の回りの世話なんてものは必要ないが、リリィには買い物くらい出来るようになってもらわないとこの先何かと大変になりそうだと思った俺は、自分の社会勉強も兼ねてリリィと2人で街を歩くことにした。
こういうのは1日2日で身に付くものではないので、これからは頻繁に街に出てこの世界についてふれていこうと考えたわけだ。国が変われば常識が変わると言われるくらいだからな、世界が変われば常識が変わるなんていう生易しいものではないだろう。こういうのは肌で感じていかないと身に付かない。
「お嬢ちゃん、体力回復薬はこれだよ」
「これね!こ、これですね!」
リリィは頑張って言葉遣いを直そうとしてくれているが、まだまだ先は長そうだ。
「どうする?買っていくかい?」
「買うわ!」
「はい、まいどー」
◇ ◇ ◇
「さてリリィ、これで回復薬がどういうものでどうやって買えばいいのかはわかったな?」
「うん!」
「リリィが<腰(ルンバーリ)>にあがるのはもう少し先にはなるが、ダンジョン攻略をするようになればそういった回復アイテムは必需品になる。必要なものは極力俺が準備するつもりではあるが、リリィだって誰か他の奴とダンジョン攻略したり、1人で低層に行ったりする事もあるだろう」
そういう時に自分のアイテムを自分で用意できないと死に繋がる。
そして普段からアイテムの相場をしっていなければ簡単にぼったくられる。
だからこそリリィにも社会常識を身につけてもらおうと
「そんな時は来ないわ!こ!わ、来ないです!」
ないんかい!俺が学園に通うようになったりしたらどうするつもりなんだ?
「なんでないんだ?」
「だって、私達は2人で最強になるんだから!」
体力回復薬を鞄の中に仕舞い、きっぱりと言い切ってきた。
「いやまあ……」
そりゃまあそれはそうなんだが……
「……まあいいか。そうだな、俺とリリィはいつも2人でダンジョン攻略をするように心がけよう」
「うん!」
いい返事だ。リリィの戦闘技術はまだまだ発展途上だが、この仲間意識は正直有り難いな。
「ただ、まあそれにしたって買い物とかはどんどんしていったほうがいい。宿に泊まって飯を食うだけが金の使い方じゃないし、ぼったくられないように普段からアイテムの値段を意識したりするのも大切な事だ。俺の代わりにこういった回復薬を買いに行ってもらう事だってあるだろうし、装備の手入れとかも今のうちから覚えていかないとダメだからな」
「装備の手入れ……そうね、そうよね!」
リリィも勉強の大切さがわかってくれているようでうんうんと頷きながら何かに納得している
しかし、装備…装備か……
俺の鎧、プリドウェンは成長する鎧だ。
今は革鎧にも劣る布のような防御力しかないが、この鎧を着用して魔物を倒していけば鎧が成長するらしい。こんな鎧はゲームの中には登場しなかったが、母が嘘を言っているようにも感じなかったしそもそも嘘を言う理由もない。
プリドウェンが成長していけばドレイク父様が身につけているめちゃくちゃ強そうな鎧になるとのことだが、それがいつになるのかは全くわからないし、そもそもどのくらい強いのかもわからない。
こういう時に異世界転生おなじみの鑑定スキルさえあれば、各装備品の防御力や攻撃力が見えて便利だったかもな。覚えないかなー……鑑定スキル……
しかし……厳密に言えば武器防具の鑑定は誰でも出来る。
ほんの少しのお金があれば誰だって出来る。
ダンジョンの宝箱から出てきた魔導具や、ダンジョンに落ちている武器防具、そういったものを格安で鑑定してくれる場所がある。故に、鑑定スキルはあってもなくてもどちらもでもいいと言えばどちらでもいいのだが……
「装備の手入れもそうだけど鑑定所も行きたいわ!です!」
「だよな……そうなるよな……」
「ダンジョン攻略をすればきっと毎日お願いするに違いないです!」
毎日か……毎日鑑定することになるのかな?なるかもな……
現実世界のダンジョンがゲームのように数時間でサクサクと攻略できるような簡単なもんだとはとても思えないが、それでもダンジョン攻略を始めれば魔導具や武器防具の鑑定は増えるだろう。
ゲームでは当たり前のようにダンジョンの中にアイテムが落ちていたし、恐らくこの世界のダンジョンにも当たり前のように落ちていることだろうからな。
「鑑定な………そうだな、試しに行ってみるか。俺の鎧とかリリィの武器だって一度鑑定してもらって品質チェックしてもらうのも悪くないよな」
「行きましょうオーリー!」
「そんじゃまあ……ちょっくら……カラドリア商会にいきますか」
鑑定の魔導具を保有する唯一の商会の名は『カラドリア商会』
カラドリア商会とはただの商会ではなく各国、各町、各ダンジョンの傍にあるお店を統括している商業ギルドの通称だ。
あらゆる商品の価値はカラドリア商会によって決められ、全ての財はカラドリア商会を通して世界に流通する。カラドリア商会とは商業ギルドの通称であり、この世界の銀行でもあり、鑑定魔導具を独占して世界規模で市場価格を操作して牛耳っている組織だ。
謎の超テクノロジーと膨大な数の冒険者とダンジョン探索を牛耳る冒険者ギルド同様に、国が逆らう事が出来ない超法規的組織の1つがカラドリア商会だ。
ダンジョン攻略で生計を立てていく以上は冒険者ギルド同様に生涯に渡ってお世話になるのがカラドリア商会なのだが、出来ることなら極力近寄りたくはない。
何故なら、今現在カラドリア商会の頂点に居る人間のお孫さんは、ゲームの攻略ヒロインの1人、マリア=カラドリアだからだ。たかだが1冒険者が鑑定をしたくらいで接点ができるわけもないのだが、油断大敵という言葉もある。君子危うきに近寄らずとも言う……
僅かでも危険がある場所には近寄りたくはないのだが……
いやいや、大丈夫だ。
俺はちょっと自分の鎧を鑑定するだけだし、これからも細々と生きていくだけだ。
そんなまさかマリア=カラドリアに目をつけられるようなことになるわけがない。
あいつと出会うのは学園に入学する6年後だ。何をびびっているんだかな。
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