scene.21 間の悪い来客



 1人目のパーティーメンバーを見つけて波に乗っていたはずの俺は、



「私やケルシーのお誘いを何度も断って、他の子と楽しく遊んでいたのですね」



 何故か屋敷に詰め掛けてきたシャーロット王女とケルシーに詰問されていた。


 馬鹿な……何故こんなことに……



 ◇ ◇ ◇



「誤解です、王女殿下、ケルシー様」


 その日の俺は家でゴロゴロしながら勉強をしていた。

リリィの冒険者ランクがあがるまでは多少の時間がかかるわけで、その間にクエストを受けまくって更に上を目指す事も考えたがリリィが泣いて嫌がったのでリリィがドブ掃除をしまくって俺のランクに追いつくまでの2,3ヵ月の間は勉強をしようと決めたからだ。

 リリィと一緒にダンジョン攻略を開始する時までに調べなくてはならない事は山ほどある。

と言うのも、前世のゲームでの知識と、現実のこの世界の情報が必ずしも合致するとは限らないからだ。冒険者のクエスト受注システムからしてゲームとは多少異なっているのだから、細かな違いを洗い出すのは大切な事だ。いざダンジョン攻略を開始した時、何か大きな見落としをして命を落とすのは俺だけではなく仲間であるリリィだってそうなんだから、この際2,3ヶ月はダンジョンや冒険者、この世界についての様々な情報を頭に叩き込もうと考えた。


 そう思い、お母様にお願いして国中からありとあらゆる本を、ダンジョンについて書かれた本を取り寄せて貰っているのだが、如何せん時間がかかる。

 主要な移動手段が馬や馬車と言うとんでもない世界にいるせいで、アマ○ンや○ドバシ.コムのような注文して翌日配達みたいなものが存在しない。そもそも本は目玉が飛び出るくらいに高いし、いつ到着するかもわからないということで、仕方なく家でごろごろと雷や土の魔導書を読み漁って過ごしていた。


 ここ最近は気の休まる日もなく朝から晩まで身体中を汚しながらクエストをこなしリリィの為に動き回る毎日だったのだが……たまたまた、本当にたまたま、その日は本当にたまたま、久しぶりに何をするべきかを考えながらごろごろと勉強をしていた。


 久しぶりに身体を休めるのもいいかもしれない……根をつめすぎるのも良くないよな………と考え、本当に、数ヶ月ぶりにだらしなく過ごしていたところに、何の先触れを寄越す事もなく王女とケルシーの2人が現れた。

 

 なんでだよ…………




「オーランドの話では毎日冒険者ギルドのクエストで汚いドブ掃除をしているのではなかったでしたか?体が汚れ臭いもとれず、私たちに迷惑が掛るからと……あらあら……私の記憶違いだったでしょうか?」 


「オーランド様……私の事がご迷惑だったのでしょうか……」



 なんでそんな日に限っておしかけてくんだよ!!!ふざけんなよこいつら!!

 せめて先触れは寄越せよ!



「シャ、シャーロット様の仰る通り、私は日々を貧民街の掃除というクエストに費やしておりました。ケルシー様のお招きに参上出来なかった事も本当に心苦しく思っています。数日前までの私は本当に……全身を糞や泥に塗れさせる毎日でした。これは本当です」


「本当なのですか……私の事がお嫌いになったのではないのですか?」


 泣きそうな顔でみないでくれケルシー…その悲しみがいつか俺への殺意に変わるのか?!

やばいばやいやばい!王女は攻略ヒロインじゃなかったからどうでもいいが、ケルシーとの敵対は即ちオーランドの死を意味する!こんなクソみたいな事で嫌悪感を持たれてたまるか!


「まさか私がケルシー様を!?有り得ない事です、本当です。ああ……そうですね。屋敷の者に聞いてみれば全てわかることです、つい先日までの私がどれだけ臭かったのか、毎日どれだけの衣服をダメにしたのか、焼却処分がされていない服がまだ残っているかもしれません」


 ケルシーの前に跪き、悲しそうな顔を向ける彼女の手をそっと取り笑顔で語りかける。

 頼む信じてくれ、俺はケルシーを蔑ろにはしない!敵対しないでくれ!


「わかりました……私はオーランド様を信じます」


 よし、笑顔になったな。いいか?俺に敵意をもつなよ?

お前が俺に敵意を持ち主人公と恋人になれば俺は死ぬ、くれぐれも俺の事を悪く思うんじゃないぞ?


「そうね、それは信じてあげても構いません。ですが……なんなのですがあの女は?」


 一安心したのもつかの間、ケルシーの横で紅茶を飲みながら座っているシャーロットの目はこれ以上なく冷えていた……わぁお……なんで王女様にそんなに怒られないとあかんねん……


「なんなのですかと言われましても……リリィは私のパーティーメンバーでして…」


「リリィ?オーランド、あなたあの娘のことを愛称で呼ぶほど親しい仲なのですか?私がシャーロットと呼べといっても敬称を外さないようなあなたが、あのような平民にはずいぶんとお優しいようですね」


「いえいえ!そんなまさかまさか…」

 

 確かにリリィは愛称っぽいが……多分本名だろ

 この世界には家名のない奴なんてゴロゴロいる。

 ましてや、リリィは身寄りの無い孤児だからな………

 俺もリリィには愛称のオーリーで呼ばせることにしているが、それは


「冒険者とはそういうものです。シャーロット様もいずれ冒険者に登録し――」


「ロティーよ」


 呼び方なんてどうでもいいだろうめんどくせぇ……


「私はケシーです!オーランド様!」


 寒々とした視線を送ってくるシャーロットと、キラキラとした眼差しを向けてくるケルシー

 そりゃあお招きを何度も断ったのは悪かったけど、そんなに怒る事ないじゃん王女様よー……


「わかりました。ロティー、ケシー。冒険者というのは互いの名前を短く、愛称や渾名をつけて呼ぶものです。それは戦闘の最中に長い名前を呼ぶ暇がないからです」


 最悪『おい!』とか『お前!』とか呼び捨てあうくらいじゃなければ戦闘中の意思疎通が取れず死ぬ。仮にリリィが愛称だとすれば元の名前はエリザベスあたりだろうが、そんな名前を戦闘中に毎回呼ぶなんてごめん被る。


「まあ……そういう事にしておいてあげましょう」


 そういう事もなにもそれ以外の理由はない

引きつった笑顔を王女殿下に向けながら必死に言い訳を考える姿は、何故か浮気の言い訳をする男のように感じてしまった。百歩譲ってフェリシア相手ならわかるが、なんで王女様相手にこんなに必死にならないといけないんだよ……


「それで?どうしてあのような娘を拾ってきたのですか?オーランドも殿方ですし、くだらないことに口出しはしませんが、この事はフェリシアに伝えているのですか?」



 話まだ終わってなかったんかい!!



 その後、長い時間をかけて1つ1つ誤解を解いていくのにとても苦労した。


 全身を糞尿塗れにしながら掃除をしているほうがまだ楽だったと思う。

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