scene.14 謎の超技術



「それじゃあまず、これは毎回最初に言ってることだが、冒険者として生活していく事を考えているならやめておけ。家の仕事がある奴や親や親戚のツテで仕事を紹介してもらえる奴らは出て行ったほうがいい。冒険者ってのはそういう職業だ」


 教室内は静まり返ったまま、誰も声をあげなかった。

 賢明だな。


「専業で冒険者をやろうってんなら今すぐ考え直して手に職をつけろ、冒険者で食っていこうなんてやつは早死にするだけだ。簡単なクエストをこなしても金はそれほど増えねぇ、稼ぐにはどうしても魔物と戦う事になるがそれだってその辺にいるしょぼい魔物を狩っても大した稼ぎにもなりゃしねえ。冒険者で食っていこうって奴が最終的に辿り着く場所はダンジョンだ」


 そうだ。

薬草採取やドブさらいなんてしても、その日暮らしすらできないだろう。

 街の周辺にある森にいるようなしょぼくれた魔物を倒した所で貯金が増えるほどの稼ぎにはならないだろう。

 冒険者として食っていくのであれば、ダンジョンに潜るしかないんだ


「だが、ダンジョンってのは簡単な場所じゃない。ダンジョンはこの世と切り離された未知の領域だって言う学者連中もいるくらいわけのわからん構造をしている。毎回入るたびに構造が変化しやがって地図が役に立たないような場所だ。ダンジョンに挑むってのは毎回そのわけわからん場所に入るってことであり………毎回、命を懸けるって意味だ」


 ゲームでは楽しかったランダム生成マップも、いざ現実のものとなると……


「……俺も昔はそこそこの名の通った冒険者だったのだが」


 お!!

 あの台詞が聞けるのか!?


「この通り……膝に矢を受けてしまってな……」


 やったーーーー!生膝矢だ!すげー!!



 などと喜んだのは一瞬で……



 ノインツ教官の膝には顔を背けたくなるような傷跡が残っていた……何が生膝矢だ。ノインツ教官の膝に生々しく残る傷跡を見て、不謹慎な自分の思考を猛省した。



「幸い一命は取り留めたが当時パーティーを組んでた仲間はその戦いで2人死んだ。残りの1人もそれ以来ダンジョンに挑むのはやめちまったよ」


 ダメだ、いい加減意識を切り替えないといけないんだ。

 ここはゲームに良く似た世界ではあるがやはり何処が違っていて、

 そして何より今の俺が生きる現実なのだという事を。


「俺はたまたま冒険者ギルドにツテがあって、今はダンジョン講習や登録説明会の仕事をこなしながらギルドの業務を手伝って生活をしているが、それは俺の運がよかったからだ。普通はこうなった冒険者は終わりだ。それまでダンジョンに潜り宝を探し、魔物と戦って金を稼いできただけの人間なんざ何処も雇ってくれねぇ。ましてやそいつが身体を壊してるとなりゃ尚更誰も雇っちゃくれねえ、引き際を誤ったら最後、たとえ生き残ったとしてもそれまでだ」


 引き際を誤るな、か。

この言葉は肝に銘じておくが、だからといって俺が生き残るにはこの道しかないんだ。

 18歳の成人の儀のその時までに、冒険者として1人でも生きていけるだけの力を手に入れるしかないんだ。



 ◇ ◇ ◇



「さて、これで諸君は今日から冒険者だ」


 登録説明会は2時間くらい続いたと思う。

その間、ノインツ教官は只管に冒険者の厳しさを説いてくれたと同時に冒険者規約を教えてくれた。


・冒険者同士の戦闘行為はこれを禁じる

・同時にクエストを受注した際はより上位の者にクエストが優先される

・ダンジョンはダンジョン毎に設定された冒険者ランクによって入れる場所が変わる

・罪過を犯したものは冒険者資格を剥奪する

・ギルド職員への無礼も度が過ぎた場合は冒険者資格の剥奪となる

・冒険者ギルドに所属する者が他ギルドへ危害を加えた場合、冒険者ギルドはこの者を処断する権利を持つ

・他ギルドの者が冒険者ギルドに所属する者へ危害を加えた場合、冒険者ギルドはこの者を庇護する義務が生じる



 最初こそ『冒険者は危ない』『危険だ』『登録するなら考え直せ』と散々恐怖を煽ってきたノインツ教官ではあったが、登録の意思がかわらないと判断してからは細々とした説明を開始した。

 クエストの受注方法、字が読めない者がクエストを受ける場合など、下級、中級、上級ごとにクエスト受注場所が違う事など、大変わかりやすく、ギルドの建物を移動しながら解説をしてくれた。

 説明会の最後には簡単な理解度チェックを行い、合格点に達したものだけが冒険者登録ができるのだが、ちゃんとノインツ教官の話を聞いていればどれもこれも余裕でわかるような問題ばかりだった。



 そりゃまあ………こんなもんだよな。

金を払ってはい登録終わり!って、そんないい加減な組織が住民や貴族から仕事を任されるわけがない。ちょっとアニメや漫画を見すぎていたのかもしれないが、普通に考えればそうだよな。

 荒くれ者たちがぐへへへって言いながら初心者を値踏みするような、そんな場所に依頼しにくるような人間がいるわけなかった。少なくとも俺はそんなクソやべぇ組織に金を払ってまで依頼したいとは思わないしな。

 俺の想像していた冒険者像は一瞬にして砕け散ったものの、冒険者は仕事内容こそ底辺かもしれないが、冒険者ギルド自体は規律を重んじる組織であり、運営能力も優れているらしい事がわかったのは良い事だ。


 なんせ、生涯に渡って俺がお世話になる企業だからな!




「おおー!これがギルドプレート!!」


 どの作品にも出てくる、謎のオーバーテクノロジーで作られているというあの伝説のギルドプレート!!!

 どうなってるんだろうこれ、ほんとすごいなぁ……

 血をたらしたり、なんかの水晶に触ったり、登録方法は結構まちまちだけど。これは本当に凄い。

 この世界のギルドプレートの登録方法はプレートに自分の血をつけるだけで完了する方式だった。


 名前、年齢、ランク、ステータス、スキルを表示したり、それらステータスの更新、クエストの受注履歴などの情報を各町にあるギルド間で当たり前のように共有している事も素晴らしい。物語に出てくるギルドプレートの機能は本当に素晴らしい。


 そんなギルドプレートという中世の世界観の技術を逸脱した超テクノロジーを保有し、貴族や王族などからもクエストが舞い込み、ギルド長ともなれば所属している国の王との連絡すら取る事が出来る冒険者ギルドという謎の超法規的組織は、世界を実質的に支配している組織と言っても過言ではないだろう。


 だからこそ、俺はこの冒険者ギルドという謎の組織が本当に好きだ。




「ふ。坊主、そんなにそれが嬉しいか」


「もちろんです教官!!これはどうやって作られているものなんですか!?」


「ど、どうやって?!いや、それは……いや、俺もわからんな。お偉いさんに聞きゃ何かわかるかもしれんが……」


 ノインツ教官でも説明できないことがあるとは、これはゲームを超えたな!

 


 ギルドプレートはシンプルな金属製のプレートだが、そこには様々な情報が書かれている。



 

  名前:オーランド=グリフィア

  年齢:9歳

 生命力:F

 持久力:E

  魔力:A

  筋力:D

  理力:B

  技力:F

   運:G−

 

  技能:四天の加護



 これが俺のステータスか……





 運Gマイナスってなんだよ!!!

 ふざけんな最低ランクはGだって言ってたじゃん!!

 ノインツ教官の嘘つき!

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