scene.08 生存する為にすべき事



 生誕会が終わった翌日、フェリシアはリンドヴルムに戻り、俺には日常が……


「お母様、僕は冒険者登録したいと思います。つきましては、武器防具の手配をお願いできないでないでしょうか?」


 戻ってくるはずがなかった。


 18歳の成人の儀まで残された時間は少ない。使えるモノも使える者もその全てを使い、出来る事は全部やらなけれならない。

 その為にはグリフィア家という貴族の力も惜しみなく頼らせてもらうまでだ。


「どうして冒険者登録を?」


「それはラーガル王国の貴族として、病に臥せっている王の盾として、グリフィア家は誰よりも強くならなければならないからです!」


「まあ!そうね、そうよね!任せておきなさい、最高の装備を整えてあげますね!」



 今現在、グリフィア家の当主はもちろん我が父ドレイクだが、屋敷を守り資産運用をしているのは我が母クラウディアである。そして、母は1人息子である俺にめっぽう弱い。


 1人目の本当の子供が難産であり、その上死産だった母は、その後どれだけ励んでも今に至るまで2人目が出来ずにいた。父上が側室を取れば解決する問題ではあるのだが、残念ながら取る気はないようで、グリフィア家の子供は大貴族にしては珍しく俺1人となっている。

 その上その1人息子の俺にグリフィアの血は流れていないわけだから、グリフィア家は残念ながら父と母の代でお終いだ。普通は次男までは用意するものなんだが……リスク管理がなっちゃいないな。


 だから……どうせ潰れる家なのだから、せめて俺がこの世界で生き延びる為に利用させてもらうことにした。

 自分の家を利用するだけして捨てるなどという恥知らずな真似はしたくないし、父上も母上も好きか嫌いかで言えば大好きだ。例え実の親じゃなくても、捨てずに済むならずっと大切にしたいと思っている。


 それでも俺はこの先に待つ結末をしっている。

成人の儀で神への宣誓をすれば偽りの親子関係は終わる。オーランド=グリフィアは全ての人から罵られ俺の意志に関係なく血を騙った事実は消えず、グリフィア家を簒奪せんとした罪で極刑は免れない。 

 愛すべき父や母に憎悪の瞳を向けられるくらいなら、彼等がこの事実を知る前に俺はこの国から姿を消す。思い出の中でなら俺は両親の子のままで居られるだろう

 

 俺はこの世界ではもっと長生きしたい、18歳なんかで死にたくない……




 母に装備一式を準備してもらっている間、俺にやる事がないかといわれればそんな事はない。

ラーガル学園に通うようになるのは15歳だが、だからと言って何の勉強もしていないわけがない。貴族は主に家庭教師を雇って勉強をするし、家庭教師が雇えない平民は教会などで簡単な説法を聞いて勉強をするとか聞いた事がある。


 つまり、勉強だ。

 1にも2にもまず勉強だ。知識は武器になる。


 語学、数学、神学、魔導学、地学、政治、歴史、その全てを猛烈に頭に叩き込むの事が俺の今やるべき事だ。

 俺は19歳で運悪く死んでしまいはしたが、全国模試では上位100名とか200名に毎回名前が載る程度には勉強はしていたし、頭が良いかどうかは………社会に出ていないからなんとも言えないが、それでも勉強は人並みに出来る方の人間のはずだ。

 オーランドの頭が勉強に向いているかどうかは知らないが、やれるだけの事はやろう!



 そう意気込んだものの、家庭教師から習う内容は拍子抜けするほどに簡単だった。



 え?そんなんでいいの?と疑いたくなるような内容ばかりだったが、強いてあげるなら歴史は意味不明な単語だらけで暗記するのに時間がかかった。それでも、1月もしないうちに家庭教師から教えて貰う内容はマスターできた。


 そして、そんな勉強の中で俺が特に気に入ったものが魔導学だ


 ◇ ◇ ◇


「火よ」


 俺が呟くと同時に指先から小さな火が出てきた。

グリフィア家の広い庭の一角で、魔術を教わる時間が一番好きだ。

前世、日本では魔術、魔法なんてものは俺が知っている限りでは存在しなかったものだからな。

これでもゲームが好きな方だと思っているし、やはり魔法が使えるというのはそれだけでテンションがあがるものだ。


「素晴らしい!!素晴らしいです!!オーランド様はまさに魔術の申し子でございます!!!神に愛されているとしか思えません!」


 そういって俺をヨイショするのは眼鏡をかけた燕尾服姿の家庭教師、グレゴリーだ。


「あまり褒めなくていい。これは初歩の初歩なんだろう?」


「いえいえいえ!初歩の魔術だからと言う問題ではございません!オーランド様は火、水、雷、土の4属性に適正があるのですよ?ただでさえ数の少ない魔術師の中でも本来は扱えるのは1属性、2属性が扱えれば冒険者で大成されることでしょう。3属性ともなれば宮廷魔術師として国中に名を轟かせるほどで、4属性は……私は寡聞にして聞いたことがございません……私も2属性を扱うので精一杯で御座いますれば……」


「……俄かには信じられないな。現にこうして俺が使っているじゃないか。」


 それは盛りすぎだろ。平民の主人公だって4属性使えるぞ。


「ですから私も驚いているのですよ!!4属性ですよ!4属性!」


「あーわかったわかった。4属性が扱える事は正直どうでもいい、問題は各属性の魔術をどの程度のレベルまで扱えるようになるかって話なんだろ?」


「ゴホン……失礼致しました。それは確かに仰る通りで御座います。私が教授出来る魔術は火、水の2属性だけですが可能な限りをお教え致します」


「わかった、火と水だけでもいい。他の勉強は後は独学でどうとでもなるからな、グレゴリーにはこれから魔導学についてだけで教えてもらうことにしよう」


「オーランド様がそう仰るのであれば私はそれに従うまでにございます」



 それから更に1月が経った頃、俺はグレゴリーから教えてもらえる火と水の魔術の全てを会得した。



 彼はしきりに凄い凄いと言っていたが、いくらなんでも褒めすぎだろう。

俺が出来たという事は他の人だって多分こんなもんなんだろうし、実際グレゴリーだって2属性の魔術を上手に使うじゃん。ちょっと覚えがいいのかもしれないが、俺は自分が特別だ何て自惚れるつもりはない。オーランド=グリフィアに油断は禁物だ。


 そうして一通りの勉強と、教えてもらえるだけの火と水の魔術を習得した所で、ようやく頼んでいた装備が完成した。


 その間にも王女殿下から度々呼び出されては話し相手になったり、フェリシアから矢継ぎ早に送られてくる手紙の返事を書いたり、ゲームに登場するキャラ連中はまるで俺が強くなるのを阻止しているかのように全力で妨害してきた。

 百歩譲ってシャーロットは攻略ヒロインではないので構わないのだが、フェリシアとは極力関わりたくない。関わりたくはないのだが、適当にあしらって機嫌を損ねる事が確実に失策だというのもわかる。非常に面倒ではあるが、全ては俺が長生きする為に必要な事だ。

 


 オーランド=グリフィアが生存する為にやるべき事は単純だ

 

 ひとつは、1人で生きていく為に強くなる事

これは文字通り腕っ節の強さであり、高ランクの冒険者となって高い報酬が出るクエスト楽々攻略できるようになる為にも必須だ。ダンジョン攻略するにあたって仲間も欲しいな


 ひとつは、この世界の何処かにいるであろうヒロイン連中にはぜっっっったいに関わらない事

これも言葉通りの意味だ。婚約者であるフェリシアは仕方ないとして、他のヒロインとは学園に行くようになっても顔すら合わせないようにするべきだろう。存在さえ知られなければ、悪事さえ働かなければ、それだけで王の前での断罪イベントは回避できる。ま、これに関しては今警戒することもない。


 ひとつは、主人公には出来るだけ優しくする事

ゲームの主人公というのは一部を除いて大抵が理不尽な強さをもっているので、敵対は避ける。

可能であればヒロイン連中との恋路のサポートをして恋を盛り上げよう。そうやって靴を舐めてでも媚びへつらって主人公に尽くしていれば、何か困った時に助けてくれるかもしれないからな!

 


 悪役だからと言って大人しく殺されてたまるか……俺は全力で足掻かせて貰うぞ!

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