scene.05 出会ってから一度たりとも



「おはようございますオーランド様、その、大丈夫ですか?」


「おはようございますフェリシア様。大丈夫とは、何がですか?」


 場所はラーガル王城へと向かう馬車の中


 着飾った俺とフェリシアが向かい合うようにして座っている。


「先日のお茶会で体調を壊されたものですから……それに、あれから食事も殆どされていないとお聞きしますし、顔色もあまり優れない様子……本当に、お身体の方は大丈夫なのですか?」


「ええ、何の問題もありませんよ。王城への到着までまだ時間もあります、休息はその間に十分取れます」


 この世界がゲームの世界の中であり、オーランド=グリフィアが死の運命を背負っているという事実を確認したあの日から、俺は寝る間も惜しんでこの世界の勉強をしている。

 体調はあまり良くないが、シャーロット様の生誕会をサボるようなことも出来ない。

そういった小さな不義理や悪評がつもりつもって将来俺の首を刎ね飛ばすわけだからな。こういった宴や貴族たちが集まる舞踏会などは18歳になってこの国を飛び出すまでの間は顔を出して評判をあげておく必要がある。

 亡命前に悪評や悪事で処刑されてしまったら意味がないなからな。


「あまり無理をなさらないでくださいね?シャーロット様への挨拶は大切ですが、それもオーランド様のお身体があってこそです。」


 馬車で向かい合うようにして座り、心配そうな顔をして俺を見詰めるフェリシアを見ると、本当に俺の事を案じているのではないかと思ってしまうが……


「お心遣い感謝します。ですが、シャーロット様はグリフィア家とリンドヴルム家が将来お支えするかもしれぬ方です。多少の体調不良はおしてでも参るべきでしょう」


 彼女が心配しているの俺の礼儀作法とか体調不良によって無礼を働かないかとか、そういう所だろう


「それは……そうですね。オーランド様は本当に変わられましたね」


 キラキラと可愛い笑顔を見せてくるがもう俺は騙されない

 




 フェリシア=リンドヴルムはいつも笑顔のおっとりヒロインだ


 悪評轟く悪役キャラであるオーランド=グリフィアの婚約者であり、いつも彼の隣に立ってはニコニコとしている。彼の行動を諌めるでもなく止めるでもなく怒るでもなく、常に笑顔を向けて優しい言葉をオーランドにかけている。

 だから最初はプレイヤーも戸惑う『あんな男の何処がいいんだ?』と『どうして何も言わないんだ?』と。


 しかし、実際はオーランド=グリフィアが何か悪事を働くたびに主人公のような平民に手をあげるたびに内心では激怒している。婚約者だから、弱体化している王家を支える為だから、グリフィア家とリンドヴルム家は互いに手を取り合っているのだという事を内外にアピールする為にも、常にオーランドの斜め後ろに立ってすべてを受け入れているような笑顔を向けている。

 実際はオーランドのことが嫌いで嫌いでたまらないし近くにも寄りたくないと考え、自分の気持ちを押し殺して生きている女の子、それがフェリシア=リンドヴルムだ。


 主人公と少しずつ仲良くなっていき、話をしていくうちに彼女は少しずつ自分の事を考えるようになる。主人公に出会う事で芽生えてしまった感情は激流のように彼女の中を流れる。

 辛い、どうして私はあんな男となんて、普通の家に生まれたかった、フェリシアはオーランドへの憎しみを延々と主人公に吐露し、それを聞いた主人公がフェリシアを後押しする。

『家のことなど関係ない』『自分がやりたい事をしたほうがいい』『フェリシアは強い、きっと何でも出来る』『大切なのは自分がどう思うかだ』みたいな事をいってフェリシアを激励する。


 そして最後のあの台詞だ



『私は出会ってから一度たりとも貴方の事を好いた事はありません。視界に入れることすら苦痛の日々でした』



 王の前で数々の悪事を暴露されたオーランドにフェリシアが吐いた台詞はよく覚えている。


 その後は本当の自分を気づかせてくれた主人公と急接近していき2人は幸せにりましたとさ。


 めでたしめでたしだな。オーランド以外は。





「ありがとうございます、フェリシア様」


 出会ってから一度たりとも好いた事はない、か……


 目の前の笑顔も言葉も、グリフィア家とリンドヴルム家の関係を想ってのものであり、俺に対してのものではない。相手の気持ちがわかっていると美少女からの笑顔も全然嬉しくないもんだな。



 ◇ ◇ ◇



「足元に気をつけてください」


「ありがとうございます」


 馬車から降りるフェリシアにそっと手を差し出す

 可愛らしいふんわりとしたドレスに身を包み微笑む姿はまだまだ子供らしい


「それでは、僕はすぐにお父様の下へ向かいますが、フェリシア様はいかがなさいますか?」


「私も問題ありません。すぐに参りましょう」


「そうですか。では………」



 使用人に案内されつつフェリシアをエスコートしてしばらく進むと、城の中にある豪華な部屋に通された。

 そこには


「オーランド、フェリシア、両名ただいま参上いたしました」


「おお、2人共きてくれたか!待っていたぞ!はっはっは!」


 元気に笑う俺の父親、ドレイク=グリフィアと


「父上、笑っていないで、その……」


「ああ、すまなかった。お前がフェリシア様をエスコートして歩いてくるとは思ってもみなかったからな、つい。ゴホン、えー、2人共、こちらにいる方がシャーロット=ラーガル王女殿下だ。」


 父上に守られるようにして椅子に座っている美しい金髪と輝ける金の瞳の女の子、

 シャーロット=ラーガル王女が居た。


「殿下お初にお目にかかります。グリフィア家が嫡子、ドレイクを父にクラウディアを母に持ちますオーランド=グリフィアと申します」


「お初にお目にかかります殿下、リンドヴルム家が次女、ニコラウスを父にビアトリスを母にもちますフェリシア=リンドヴルムと申します」


 膝をつき、頭を下げ、最敬礼の構えをもって挨拶をする


「シャーロット=ラーガルです。お2人とも顔をあげてください、私達は1歳しか年が違わぬのです、もっと仲良くしてくださいませ」


 王女殿下はそういうが、頭をあげるわけにはいかない事くらい知っている。


「殿下の言葉だ、2人共、面をあげよ」


 王女の護衛を任されている父の言葉をもって、ようやく顔をあげる事ができるわけだ。



「グリフィア、リンドヴルの両家が手を取りあり王家を支えんとするその忠義、病床の父に代わり私が礼を申し上げます……オーランド、フェリシア、あなた方とは長い付き合いになりそうですね」


「有り難きお言葉です!」

「あ、ありがとうございます!」


 顔をあげ、王女の言葉を受けたフェリシアが一瞬言葉を詰まらせた。貴様緊張しているのだろうか?


 俺としては何を言われた所でどうせラーガル王国を出ると決めているからなんとも思わんけどな。


 

 そんな事を考えていると、シャーロットが悪戯な瞳でにっこりと笑いかけてきた


 危ない危ない。クソどうでもいいなんて考えが顔に出ていたらヤバイな、気を引き締めよう。

 

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