scene.04 死亡フラグが立つ前に



「まずいな……」


 フェリシアを部屋から追い出してから丸一日が経過したが、ゲーム『グランドフィナーレの向こう側』について思い出せば思い出すほど、どうにもまずい気がしてきた。


 あれから食事も睡眠も全てを削ってグリフィア家にある本を片っ端から持ってこさせたが、


「グランドフィナーレの世界だわ……これ」


 大陸地図、ラーガル王国の地図、学園の有無、貴族の名前はご丁寧に没落したフレスヴェルグのものまで出てきた。

 前世のゲーム知識とこの世界の情報は悉くが合致したし、なにより


「子供だが……どうみてもオーランドだよな…」


 姿見に映った自分の姿は、未だに幼くはあるがどうみても『グランドフィナーレの向こう側』に出てきたクソムカツク悪役お邪魔キャラ、オーランド=グリフィアにしか見えない。


 整えられた亜麻色の長髪、生意気そうな黒色の釣り目

 背格好こそ9歳の子供だが、この子供は……間違いなくゲームでみたオーランド=グリフィアだ


「参ったな……」


 ここが本当にゲームの世界、もしくはゲームの世界観を引き継いだ何らかの世界だとして、この先の展開はどうなるのだろうか……ゲームの世界をなぞるのだとすればオーランド=グリフィアはほぼほぼ死を免れないだろう。


 主人公の名前はプレイヤーが決定するせいでこの世界の名前はわからないが、その主人公なる存在がどのヒロインを選んだとしても俺は死ぬ。違いは死に方くらいか?


 フェリシアルートに進めば、フェリシアと主人公によって数々の悪事を暴かれて王の名の下に処刑される。


 マリアルートに進めば、グリフィア家の金を散財しすぎた俺が廃嫡されてカラドリア家お抱えの元冒険者にひっそり殺されて終わる。


 ケルシールートに進めば、フェリシアルートと同じようにこれまでの悪事を暴かれた俺が処刑される。



 どうあっても殺されるわけだが、仮にその全てを回避できたとしても無駄だ。


 アイリーンルートに進めば、3ルートとは少し毛色の違う展開になる。

彼女のルートで俺はさほど邪魔をするような事はない。そして、超一流の魔術師であるアイリーンは様々な魔術を用い、膨大な知識を保有しているわけだが、そんな彼女のルートでは色々な世界の謎に迫りながら物語の裏側の設定なんかを紐解いていくことになる。


 そしてその設定の1つに、オーランド=グフィリアの出自に関するものがある。


 端的に言えば、俺の身体にグリフィア家の血は流れていない……

 クラウディアお母様の初産は非常に難産であり、死産だったのだ。


お母様は意識を失っていて知らないらしいが、側仕えの者が変わりの赤子を何処かからか持ってきた…その何処かからか持ってこられた赤子と言うのが俺、オーランドだ。



 アイリーンルートでのオーランドは運よくエンディング近くまで生き残る。

しかし、18歳になったラーガル王国の貴族が行う『神への宣誓』と呼ばれる成人の儀をする事でその命運は尽きてしまう。

 その儀式を行うことで、オーランド=グリフィアにグリフィア家の血が流れていないことが判明するわけだ。そうしてオーランドは、彼自身が知りもしなかった出自を偽りグリフィアを簒奪しようとした罪に問われてあっけなく処刑されてしまう。


 リリアナルートは攻略していないから知らんが、どうせ成人の儀をすれば死ぬだろう。



 主人公がどのヒロインと結ばれようが知ったことではないし、ゲームのオーランドと違って俺は悪事を働くつもりもなければ主人公の邪魔をするつもりもないが、この身に流れる血だけはどうしようもない。



 俺はどうあっても18歳までは生きられない



 ゲームの中では便利な悪役として使われ、プレイヤーからのヘイトを一身に集め、物語のクライマックスに差し掛かった頃にカタルシスを感じる為に消費される舞台装置。死んだ所で誰も悲しまないし、居なくなった所で世界に何の影響も与えないそんな人間……それがオーランド=グリフィアだ。

 


「はぁ……どうせ転生するなら主人公がよかった……」



 どうすればいい?



 どうするのが正解だ?



 前世の記憶とこの世界の知識、この2つを混ぜ合わせてよく考えるんだ




「あ………冒険者…として生きる……か?」



 そうしよう、というかそれしかない。



 俺の出自がバレるのは18歳の成人の儀、そこで神への宣誓を行う時だ。

 それまでにありとあらゆる準備をするしかない。


 悪事を働かなければ……主人公の邪魔さえしなければ処罰される事はないが、成人の儀を行えば俺が何もしていなくとも簒奪の罪を問われて処刑される



 であれば、やる事は1つ



「冒険者になって1人で生きていく、これしかないか」



 18歳で成人するまでの間に、ひたすら自分を磨き、脇目も振らず自分を鍛える


 そして来るべき成人の儀の前日までに俺はラーガル王国を去る


 グリフィア家とリンドヴルム家の婚約、ラーガル王家の事情など、この国の問題は山積しているが、どれもこれも俺がいてもいなくても何の影響も与えないものでしかない。



 逃げて逃げて逃げて、この大陸のラーガル王国からずっと遠い国まで逃げ延びて、冒険者として生きていく



 今はまだ弱いし、この世界で生き延びるだけのお金も知識も強さも、何一つ持っていないかもしれないけど、18歳までの残り9年間で俺は必ず1人で生きていけるだけの強さを身につける。



 この世界では必ず19歳以上になってみせる!



 目指せ20歳!


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