悪役転生者の生存戦略
高葉瑞穂
scene.01 そういう死に方もある
「ああ!オーランドッ!!」
誰だコイツ……てか、なんだっけ…オーランドってなに……あれ?オーランドって俺だっけ…あれ?
「オーランド!私がわかりますか!指は何本立っているかわかりますか?!」
ベッドの上にいるのはわかる。
目の前にいるのは……そうだ、クラウディア母様だ……ん?
指は2本みえると答えた。
「よかった…本当によかった……言葉も通じて、目も見えているのですね……」
なんだか頭の中がごちゃごちゃしているが、お母様が泣いているのは見たくないな。
それがこの世界に転生した俺が最初に考えたことだったと思う。
◇ ◇ ◇
俺は今年19歳になる大学生だった。
その日は酷い台風のせいで大学からの帰りに交通機関が麻痺してしまい、仕方なく遠い駅から歩いて自宅に戻る事にした。
パンツまでびしょびしょになるような横殴りの雨風に当たりながらも、自宅までもう少しというところで増水した川が目に飛び込んできた。
当然そんな危ない所に近寄りたくなんてなかったのだが、家に帰るまでにはどうしてもその川にかかっている橋を通らなければならないため仕方なく渡っていた時、これまで以上の突風が吹いてきた。
突然の突風に傘は吹き飛び、一瞬手を離すのが遅れた俺も傘に引きずられるようにして少し身体を傾けてしまった。もちろんそれだけなら何の問題もなかったのだが、その後、突風で何処かからか転がってきたボールに偶然足をとられて思い切り尻から転倒し、転倒した先にこれまた何処からから飛んできたスケボーが転がってきてきて、俺はその上に乗っかって転がされるようにして橋の手すりに激突し、危うく川に落ちるのを阻止できたかと思いきや、やはり、何処かからか飛んできた看板が立ち上がった頭に直撃して手すりを乗り越えて増水して荒れ狂う川に落下してしまった。
そうして偶然に偶然が重なった末、1人の大学生は成す術もなく溺死してしまった。
と言う夢、あるいは前世とも呼べる記憶を思い出したのが俺、今年で9歳になるオーランド=グリフィアだ。
◇ ◇ ◇
「貴方が庭の池で溺れたと聞いたときは心臓が止まるかと思いましたよ……あれから3日、貴方は眠り続けていたのです…本当によかった……」
俺は4日前、庭にあるでかい池に飛び込んで中にいる魚を捕まえようとした。
父も母も俺のやる事には何も文句を言わないし、そんな俺を使用人達も『またあいつ何かやってんなー』くらいに見ていたのだろう。
しかし、しばらくすると池の中で暴れまわっていたはずの俺が静かになり、魚を捕まえたのかと思ってみてみると、池の真ん中でプカプカと浮いていたのだと言う。それほど深い池でもないのでまさか溺れるとは思ってもみなかったのか、屋敷中が大混乱に陥ったらしい。ごめんて。
「ご心配をおかけいたしましたお母様」
クラウディア母様はベッドに横になっている俺に抱きつきながら泣いている。
「いいのですよ。あなたをこのような目に合わせた監督不行き届きな者達にはきっちりと謝罪をさせた上で処罰することにしました。だからもう何も心配しなくていいのよ」
「そうですか……」
ん?処罰?
「お母様、処罰とは?」
「オーランドが溺れている所を見つけて急いで引き上げたようですが、それで罪が許されるわけではありませんからね。あなただって辛かったでしょう?でももう大丈夫よ、オーランドにはもっと相応しい側仕えを用意してあげますからね」
「え?いえいえ、溺れていた私を池から引き上げてくれたのですよね?」
「ええ、全く度し難いわ。何故溺れるまで黙ってみていたのかしら」
そりゃあ『俺が遊ぶのを邪魔すんな』『邪魔したら殺す』って言ったからだろうな。
彼等は命令どおりに俺の邪魔をしなかっただけであって、勝手に溺れたのは俺だろう。しかも、溺れてしまったとはいえしっかりと引き上げて適切な処置をしてくれたからこそこうやって今俺が生きているんじゃないのか?
「あー……それはなんといいますか、処罰はなしにしてあげてくれませんか?」
どう考えても悪いの俺じゃん!助けて貰ってしかも処罰されるとか心が痛いわ!
「まあ……どうしたのオーランド?いつもなら自分から喜んで罰を与えているあなたが、まだ具合が悪いの?」
自分から喜んで使用人を罰するとかどんなガキだよ……いや、俺か…あ、それ俺だわ。
確かにそういう記憶もある……あるにはあるが……前世の日本の記憶が強すぎてとてもじゃないがそういう事はできそうにない。むしろ嫌悪感の方が勝る。いてぇ…今までのオーランドのことを思い出していると胃がいてぇ…
「お母様、罰するだけではいけません。私は今日をもって変わりたく思います」
この場合は、池で浮かんでいる俺を拾ってくれてありがとうだ。
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