とあるゲーム少女のこれから
長らく友達だった奴がいた。
腹の立つ奴だった。身勝手な奴だった。人のことを勝手に助けていい気になってる奴だった。
そして、人付き合いの悪い私が、三年もの間続いた初めての友達だった。
友達、だった。
少なくとも、私はそう想っていた。
あいつは、きりこは、どうだったんだろう。
あの日、冬の夕暮れの中で、笑いながら、泣きながら。
教室の窓から落ちていくあいつを、私は何もできずに見送ってる。
そんな夢を時々見る。
想い出すな、想い出すなと何度、自分に言い聞かせても、想い出は再生される。繰り返される。
なんで、どうして、何を間違えて、何が違ったの。
どれだけ問うても、応え返してくれる人はいない。
きりこは、春から学校に来てはいなかった。
わからない。
わからないから、私は自分にできることをした。
ゲームを作る。
今も、昔も。
結局、私がしたいことなんてそれくらいしかなくて。
だからこそ、手を動かした。
プログラムを組む。
キャラを配置する。
シナリオを組む。
音楽を入れ込む。
絵やグラフィックを当てはめていく。
手伝ってくれたメンバーは、最初は私の心配をしていたけど、私が打ち込んでいるのを見ると、何も言わずに協力してくれた。
ただ、話していて上手くいかない時、時折、あいつの影がちらついた。
こういう時、きりこが上手くまとめてくれてたじゃん。
この人呼んだの、きりこでしょ、なんとかしてよ。
昔なら、そう言って押し付けてた。
そして、そんな言葉が頭の中で反響するたび、奥歯をかみしめながら妥協点を探していった。
ゲーム作りはチーム戦だ。
独りでできることには限りがある。私独りじゃ、音楽も、グラフィックも、シナリオも、拙い物しか出来上がらない。
アイデアを形にするには人が必要で、技術が必要で、言葉が必要だった。
言葉にしなきゃ、伝わらない。
人に信用されなきゃ、回せない。
逃げてしまえば、向き合えない。
奥歯をかみしめた。パソコンの前で独りで泣いた。爪を自分の手のひらに立てて、それでも前を向き続けた。
ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう。
折れるか、折れてたまるか、折れてなんてやるものか。
この過ちを、こんなとこで終わらせてなんてやるものか。
昔の私は特別だった。
人を見下して、何もかも分かった気で喋ってた。
実際、多分、賢かったんだ。人との関わりの意味を、知らない程度の賢さではあったけど。
他人にできないことができた。
誰にでもできることしかできないやつを見下してた。
だから、人を遠ざけた。
だから、遠ざけられているという状況を、自分から望んで受け入れた。
孤高なふりした、孤独だった。
一匹狼は群れを抜け出した強者じゃなくて、群れからはぐれた弱い生き物なのだと、気付かないまま生きてきた。
そしたら、物好きな奴が一人。
そんな私に目を付けた。
どうせ、構いたいだけだ。
そうやって、人をかまっている自分に優越感を抱いてるんじゃないって、想ってた。
きりこは、そう言うところがあるやつだった。事実、結構そう言うところがあって、偽善の癖に善人ぶってるって嗤ってた。
それでも。
その偽善に救われたのが誰だったか、もう一度、よく考えてみろ。
優越感を糧に偽善を振りまいていた奴を嗤って、優越感を抱いていたのが誰かを、もう一度よく考えてみろ。
他人の過ちを嘲笑う暇があったら、自分の過ちを振りかえれ。
その偽善に甘えて、他人との交流を任せてきたのは誰だ。
その偽善にかまけて、その友人の心に気付かなかったのは誰だ。
その偽善を、認めてやれなかったのは誰だ。
震える手でプログラムを打ち込んだ。泣きじゃくる喉でシナリオを書き連ねた。
私の心は、汚い。醜くて、愚かで、どうしようもない。
増長と、驕りと、傲慢で積みあがったような、どうしようもない物だ。
でも。
でも。
それでも。
終わらせなんて、やれない。ここで全てが無駄に還るのだけは、許せない。
積み上げろ。積み上げろ。
自分の愚かさも、やるせなさも、悲嘆も、後悔も、何もかも。
先に積み上げろ、焼き上げろ、打ち続けろ。
崩してしまえば、ただの泥だ。
諦めてしまえば、ただ石くれだ。
のみで削れ、泥をこねろ、槌を振るえ。
醜い感情も、愚かしい過ちも、どうしようもない後悔も。
形にすれば、きっと何かの意味がある。
形にしなければ、本当に何もかも終わってしまう。
作り上げろ。
造り上げろ。
創り上げろ。
せめて、この心が、この過ちが、この後悔が。
何か、意味があったのだと、いつかきりこに届くように。
※
数年後、とあるネット記事で橘 けいかの特集が組まれ、それをきりこが見つけるのは、また別のお話。
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