第6話
俺たちが来ているのは、俺たちが住んでいるレーゼンという街のほとんど隣にある『三ノ塔』と呼ばれているダンジョンだ。
レーゼンで活動している冒険者なら誰もが行ったことがあるとまで言われているダンジョンで、むしろレーゼンで活動している冒険者はこの『三ノ塔』のためにレーゼンに来ていると言っても過言ではない。というか、このレーゼンという街自体が、『三ノ塔』へのアクセスのために造られた街なのだ。
ダンジョンは大抵辺境にあるので、周囲に魔物も多い。その対策で冒険者が集まりだし、そこに商機を見た商人がやって来て、結果どんどん大きくなって街にまで発展したのがこのレーゼンというわけだ。
そんな『三ノ塔』では、当然ダンジョン攻略が盛んだ。
既に最上階まで到達されている二つのダンジョンのうちの一つであり、各階層の情報も出回っている。攻略組と呼ばれている最上階を目指している人たちはあまり寄り付かない、どちらかといえば初心者向けともいえるダンジョンだった。
初心者向けとはいっても、当然上層の魔物は強く、高値で売れる素材も落とす。階層の情報も十分なので、俺が元々所属していた『風の楔』のような高ランクパーティーも資金稼ぎなんかで利用することも多い、活気あふれるダンジョンとなっている。
俺たちは三層まで危なげなく突破すると、シーナにとっては初となる四層に足を踏み入れていた。
「シーナ、調子はどうだ?」
「全然平気です!足が軽くて、疲れません!すごいです!」
シーナは俺の支援魔法にたいそうご満悦なようで、妙にテンションが高くなっていた。
「あんまはしゃいでると余計に疲れるぞー」
「はい!」
元気に返事をしながら、ウロチョロとあちこちを走り回るシーナ。
その様子をアインと並びながら見守っていた。
「支援魔法ってそんなに珍しいか?」
「別に……ですが、シーナちゃんにとっては初めてのことなのでしょう」
「それもそうか」
シーナが低人数のパーティーのポーターしか務められないことと、三層までしか潜ったことがないのを考えるとそれも頷ける話だった。
中級以上のパーティーともなると支援魔法は必須といえるが、低級のパーティーではむしろほとんど見かけられない。基本的に戦闘能力を持たない支援魔法の使い手を守りながら戦えるほどの練度がないからだ。低人数の場合も然りである。
「俺の支援魔法なんて大したもんじゃないんだがな」
「使えるってだけですごいですから」
「そうかねえ」
俺は、攻撃・回復・支援・探知という全ての魔法を網羅している。
といってもどれも齧った程度で、大した腕ではないのだが。
基本的にはどれか一つを極めるか、二つを学ぶ程度なのだが、俺は比較的貧しい家庭で育ってきたため、どれも初級程度のものしか学べなかったのだ。
そんな器用貧乏な風に魔法の腕を上げた俺は、冒険者の中では不人気な回復・探知の魔法を使う、ヒーラー兼斥候という役割を担わされたのだ。そしてそんな生活を続ける中で、自然と回復・探知の魔法の腕が伸びていき、今がある。
何が言いたいかというと、俺レベルの魔法ならそんじょそこらのガキでも習得できるということだ。実際、そんじょそこらのガキだった俺が習得していたのだから。
「それにしても、本当に敵に会いませんね」
「そりゃあ索敵してるからな」
「索敵って言っても、少しは漏れがあるじゃないですか」
「まあ、少しはな?」
ヒューマンエラーはもちろん防げないが、そんなものそうそうお目にかかるものでもないだろう。
「……なんか、話が噛み合ってないような気がします」
「そうか?」
なんて雑談をしながら、俺たちは一度も会敵することなく五層へと辿り着いた。
これだけ階層の地図が正確に把握されている場所で、しかも低層だというのに会敵なんかしてしまったらそれこそ斥候の名折れなのだが、アインもシーナもやたらと驚いていた。
まあ、俺も伊達にSランクパーティーの端くれだったわけじゃないということだろうか。いや、個人的には端くれなんかじゃないつもりだが。
「さて……ここからは適当に戦ってくから、気合い入れろよ」
「はい」
「き、気を付けます!」
そうしてようやく、俺たちのダンジョン攻略が始まった。
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