結構パーティーに貢献していたはずなのに、なぜかクビになりました。なのでちょうど居合わせたクビ仲間とパーティーを組むことにします。~今更戻れと言われてももう遅い。え?本当に手違いだった?~
@YA07
第1話
「アイン。お前はクビだ」
「リゼル。お前はクビだ」
ある昼下がりのギルドで、突然俺はクビを宣告された。
あまりに突然の出来事に慌ててリーダーを見たが、リーダーはこちらに目を向けてすらいなかった。
「リーダー……俺をクビって正気なのか!?俺抜きでやっていけるわけないだろ!」
正直言って、俺はパーティーにおける主要人物と言っても過言ではないと自負していた。
俺達のパーティー『風の楔』がSランクまで上り詰められたのだって、少なからず俺の功績があってこそのことだ。
「え?」
しかし、リーダーはあろうことか俺の方を見て呆けたようなツラをしていた。
───まるで、お前は何を言っているんだ?と言わんばかりに。
俺抜きで何が問題ある?と言いたいのだろう。
どうやら、リーダーにとって俺の存在なんてあってもなくても変わらないらしい。
「ああ、そうかよ。わかったよ。まさかそこまでナメられてたなんてな」
たしかに、俺は斥候役という目立ちにくい仕事をしていた。
しかし、敵や罠を探知して侵攻ルートを選び、無駄な消耗を回避する。この点において俺を超える人材はそうはいないだろう。
しかもそれだけでなく、俺はパーティーのヒーラーも務めていたのだ。
しかし、実際のところは俺の探知能力のおかげでほとんど戦闘を行わずに進めるため、ヒーラーとしての仕事はあまりなかった。
それを差し引いても、一人二役をこなしていた俺が力不足なんてことはないはずだ。敵を倒すことだけが冒険者ではないのだから。
しかし、そんなことを言っても仕方ないのだろう。現にリーダーは俺のことをクビにするつもりなのだ。
そして、既に俺としてもそんなふざけた評価をしてくるやつとはもう同じパーティーでいるつもりはなかった。
「今まで世話になったよ。じゃあな」
「え、ちょ……」
もう顔を合わせる気も無くなっていた俺は、逃げるようにしてその場を去った。
俺ならどんなパーティーでも欲しがってくれる。そういう自信があったからだ。
欠けているとすれば、コミュニケーション能力というやつだろうか。たしかに、『風の楔』のやつらとはあまり仲良くしていた記憶がない。今度入るパーティーでは、もう少し愛想をよくしてみるべきかもしれないな……などと思いながら、俺はギルドを後にしたのだった。
「「はぁ……」」
ギルドを出てすぐに、俺は思わずため息を漏らしてしまった。
啖呵を切って出たのはいいものの、正直堪えるものがあったのだ。
今まで頑張ってSランクパーティーまで駆け上がってきた仲間と、立場を突然失ってしまったのだ。無理もない。
だが、それと同じくらい気になることがあった。
それは、俺と同時にため息を漏らした少女のことだ。
「お前は……」
気になって話しかけてみると、その少女もこちらを気にするようにこちらを向いていた。
「あ、私アインっていいます。さっき急にパーティーを抜けろって言われちゃって……」
「俺はリゼル。俺も突然クビだって言われてな……」
それから、重たい沈黙が流れ始めた。
リストラが二人。当然だ。
その沈黙に耐えかねた俺は、無理矢理声を張り上げた。
「ああ、クソ!アインっつったな、これから飲みに行かないか?」
「飲み……ですか?」
「ああ。どうせこの後の予定なんて全部パーだろ?嫌な時は酒だ」
「それは……そうですね。パーッといっちゃいましょう!」
少し渋るような素振りを見せたアインだったが、すぐに俺の提案に乗ってくれた。
一人でしみったれた酒を飲むよりは、二人で愚痴でも言い合った方が気も晴れるだろう。
俺は早速、アインを連れて適当な酒場を目指して歩き出した。行きつけの酒場もあるのだが、どうにも今日は新しい風を浴びたくなったのだ。
……そういえば、『風の楔』にもアインって名前のやつがいたな。まあ、もうどうでもいい話だが。
酒場に入ると、さすがにこんな昼下がりから繁盛はしていないようで、客席はかなり空いていた。
アインを連れて席に着く。適当にビールを頼んでから、さっそく俺はアインに愚痴をこぼした。
「いきなりクビとか、ありえないよな?」
思ったままのことを素直にこぼすと、アインも憤慨した様子で声を荒げた。
「本当ですよ!私、あんなに頑張ってたのに!」
「アインは何やってたんだ?」
「私は前衛で剣士をやってたんですけど、うちのパーティーには盾使いが居なくて───」
それから俺達はしばらく愚痴で盛り上がったが、パーティーの悪口が出てくることは一切なかった。
俺も、きっとアインも、パーティーのことが嫌いだったわけではなかったのだろう。
もちろん突然クビにするだなんて言語道断だが、それでも憎めないくらいにはパーティーに思い入れがあったのだ。
そんなことを思っていると、ふとアインが声を漏らした。
「そういえば、私のパーティーにもリゼルっていう魔法使いがいたんですよね」
「へえ……うちにもアインってのがいたな」
なんという偶然だろうか。
俺とアインはどちらからともなく笑うと、なぜだかおかしいくらいに大声で笑いあった。
騒いで少しでも気を紛らわせたかっただけなのかもしれないが、それでもそのおかげで気が楽になったのは確かなのだった。
アインともだいぶ打ち解けてきたころ、アインが突然こんな話を持ち掛けてきた。
「リゼルさん、私とパーティー組みませんか?」
「いや、それは……」
アインの人柄を考えると悪くもない話だったが、どうしても俺達の間には壁があった。
お互いに元ではあるが、俺はSランク、アインはBランクのパーティーに所属していたのだ。
「わかってます、実力差があるっていうのは。でも、そうじゃなくて……私、ショックだったんですよ」
「ショック?」
「リゼルさんもじゃないですか?私、パーティーにはかなり貢献してるつもりだったんです。でも、クビにされちゃって……ちょっと自信なくしたって言うか」
「そりゃあな」
当然、それは俺も感じていたことだ。
自己評価はあくまで自己評価。俺自身がどんなに自信あっても、結果を見れば俺は不要とされてパーティーからはクビという判断をされたのだ。
「それで、今はちょっとパーティーを組む自信がなくて……本当に前衛としてやれるのかなって。でも、ソロでやれるほどの技術も知識もありません」
「……そうだな」
全くもって、俺も同じだ。
置かれている状況が同じなのだから、同じことを思うのもまた道理であった。
「だから、リゼルさんと二人でやってみたいんです。二人なら、お互いにお互いを頼るしかありませんから。それで、ここはこうしてほしいとか言い合って、自分のダメなところを見直したいっていうか……」
それは俺にとっても魅力的な提案だった。
俺より実力の劣るアインではズレてくるところもあるかもしれない。それでも、改めて他人の──前の人間が求めていることを知るというのは大事なことだ。
それに、今からパーティーメンバーを募集している高ランクパーティーを探すことが困難なことも、俺は知っていた。
その点、アインのBランクという実力にはそれほど不満があるわけでもない。
自分の役割が特殊なことも考えるとアインとパーティーを組むというのはそれほど悪くないように思えた俺は、アインの申し出を受けることにした。
「わかった。運命の出会いってやつなのかもしれないしな」
「ふふ。なんですか?それ。恥ずかしいです」
アインと小さく笑いあった俺は、『風の楔』に居た頃よりはパーティーメンバーと仲良くできそうだな、と前向きに考えることができたのだった。
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