第10話 ざまぁな展開がやってきた!

「はあ……まさかこんな事になるとはな」


 目頭を抑え深いため息をつくハスター様。

 ごたごたしたパーティをお客様に謝罪する形で無理矢理終了させた私達は、屋敷の大広間に集合していた。


「レイズ。今回の件、お前がアリスから盗んだということで間違いないな」

「……はい、間違いありません」


 さすがに今回ばかりは罪を認めるらしい。反論する気力もなく静かにうなだれている。


「それとシュタイン、さっきの話は本当だな」

「ええ、間違いありません」

「ルセリナ、どうして今までうちに尽くして来てくれたお前がこんな事を……」


 おっと今度は私に風向きが。やっぱりシュタイン先輩には見逃してもらえなかったらしい。


「大変申し訳ありません」

「盗まれたものとはいえ、パーティの景品を偽物とすり替えるなんて」

「は? コイツそんなことを。お前、メイドよくも……」

「レイズは黙っていなさい」

「……」


 レイズ様はともかくハスター様からの視線が痛い。今すぐこのまま逃げ出したい。


「ところでアナタ」


 そう言ったのはハスター様の妻ローザ様である。ハスター様は過去に妻を一人亡くしている。その後にやって来たのがこのローザ様。年もまだ40を迎えてなかったように思う。それを考慮しなくても恐ろしいくらい外見が若くて、お肌なんてぷりぷりのぴっちぴちだ。


「どうした、ローザ」

「アナタはどうして『二千年の紅い涙』に持ち主を判断する能力が備わっていると知っていたんです?」


 最もな質問だ。

 シュタイン先輩の『審美眼』で本物の区別や所有者までは分かるだろうが、それの持つ能力までは把握出来ないだろうし。


「これはな、私が献上したものなんだよ」

「アナタが?」

「お父様が!?」


 ハスター様が!? 世界に一つしかない超激レアアイテムを献上……献上!?


「……うっそだぁ」 


 つい癖でシュタイン先輩の顔を確認したら全く動じていなかった。

 ああ、これ先輩知ってたやつか。


「献上ってことは……」

「私がその昔、父が急死し駆け引きも何も出来ない新米貴族だった頃、国王ベルガ様にとてもお世話になってな」


 しみじみ。まさにそんな言葉が相応しい語り口調でハスター様は真実を口にした。前にも思ったがなんだこれは、ドラマか何かか。アリスちゃんは可能性を秘めたハイパーヒロイン兼主人公だったりするのか?


「せめてものお礼にと、当時我が家の家宝だった『二千年の紅い涙』を献上したのだ。それを持っているという事はアリス、君はもしかして」

「……はい。私の母は王とその昔関係を持っていたことがありました」


 来ちゃった。本当に王道展開来ちゃった。

 ああこれ知ってる。どうせ身分違いのひとときの恋ってやつでしょ。


「母は何も持たない一般の娘。当然そんなものを周囲が認めることもなく、二人が結ばれることはありませんでした」


 ほらー! ほらやっぱり! はいはい、それでそれで。


「二人のせめてもの思い出にと、この『二千年の紅い涙』は母の手に渡ったのです」


 やっぱり。てか王様も人から貰ったものを軽々しく第三者に手渡すんじゃないよ。私がハスター様だったら複雑な顔するね。


「そうだったのか……」


 感動している!? 目を潤ませいる!? 美談になっている!?


「こうして巡り合ったのも何かの縁かもしれんな」

「はい……!」


 は、はっぴーえんどがやってきた。私の目の前でなんだか知らないうちにはっぴーえんどが。


 母親を亡くした不幸な少女が勤め先で不遇な目に合う。

 なんやかやあって不幸のどん底まで落ちるけど、ちょっとの勇気ときっかけで事態が好転。

 そしてやってくるハッピーなエンド。


 ……ん、てことは。


「レイズ、ルセリナ、二人に今回の件での処分を言い渡す」


 やって来ました、おしおきタイム!

 古今東西、勧善懲悪、結局このパターンが一番収まりいいってね。そりゃあ魔女も最後は鉄靴で踊るし、継母や姉達は王子様と結婚は出来ない。そんな風に出来ているんだよ、世の中ってやつは。

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