第3話 準備なんてやめて抜け出そうぜなんて言ってさらってくれる王子様はいない

~パーティゲームの準備部屋~


「あれ、ルセリナ先輩。ゲーム参加しないんですか?」

「うん。ま、色々あってね」

「そうだったんですね」


 本当は参加したかったけどね。今でも参加したい気持ちはいっぱいだけどね。

 

「そうそうだから準備手伝……あれ?」


 おかしい。

 アリスちゃんならテキパキと進めてもう終わっててもおかしくないはずの下準備が、今日に限って終わっていない。というよりほぼ手つかずの状態だ。


「先輩が来てくれてとても助かります」

「う、うん」


 サボっていたようには見えないな。それよりなんか……


「アリスちゃん、疲れてる?」

「えっ」

「あ、いや、そんな風に見えただけ。違うならいいんだ」


 いつも身だしなみがちゃんとしてるアリスちゃんにしては、どこかくたびれているように見えたんだけど。


「すみません、ちょっと落とし物をしちゃって。探すのに手間取っちゃったんです」


 あーなるほどそういうことか。


「見つかった?」

「いえ……あ、それよりも準備を急がなくちゃ。ルセリナ先輩、私、別の部屋の備品運んできますね」

「んー了解。いってらっしゃい」


 何を落としたか知らないけど、あとで一緒に探してあげよう。


「しかしまあ」


 ぐるりと部屋を見回すと、ゲームに使う景品があちこちに積み上げらている。

 今回の景品はやっぱり豪華だなー。これなんて土地の権利書だよ。こっちは高級洋菓子の詰め合わせか。ご令息との二人っきりでのディナー券……これはいらんなー。こんなにあるなら一つくらいいただいても問題無いような。なんなら令息愛用ティーカップとかいって、うちで使ってるティーカップと差し替えてもいいな。


ガチャリ


「早かったね。忘れ物かいアリスちゃ……あ」

「メイド、お前一人か?」


 出た! ご令息、レイズ様ご本人。まだパーティのサプライズ登場には早いですって。


「おい、俺はお前一人かって聞いてるんだけど」

「あ、ええ、はい一人ですよ」


 うわ、なんか機嫌悪っ。


「ふん。どうせお前のことだし、パーティの景品でもくすねようとしたんだろ」

「そ、そんなやってませんよ!」


 まだね。


「大体もうすぐゲームが始まるんだろ。こんな調子で間に合うのかよ」

「だ、大丈夫ですよぉ」


 なんか今日はやけに絡んでくるな。面倒臭い。お前はなんだ、小姑か。

 ……と思いきや、ん? どうした、キョロキョロして。お前まで探しものか。


「この感じじゃアイツも何も出来なかったみたいだしな」

「アイツ?」

「いや、いい。お前には関係ない」


 なんだおい、気になるな。そういう思わせぶりな態度は何かフラグが立ってる時にするものなんだよ。推理してやろうか。この部屋にいた他の人物と言えばつまり――


「あ、そうだ。おいメイド」

「はい?」


 レイズ様の手からひょいと何かが投げられた。キラリと光る、宝石の類?


「落としたらお前、クビな」

「っとととぉ! はいキャッチ。キャッチしましたよぉ」


 なんつー恐ろしいことを言うんだコイツ。そんな一瞬で他人の人生設計を狂わせるなよ!? しかもなんだその涼しい顔は。私の決死のキャッチ&ダイブに拍手ぐらいしろ。


「今日のゲームの景品の目玉はそれな」

「はいはい、分かりまし……え、そうなの?」

「は、そうなの?」

「いえいえ、訂正訂正。そうなのですか?」


 面倒臭い奴だ、本当に。


「ああ」


 口元を釣り上げてニヤリと笑う。その姿はまんま悪役だ。綺麗な顔だけにすごく映える。


「とても珍しい品らしい。20歳の記念に俺から直々のサプライズプレゼントってやつだ」


 ほう。この人にもそんな洒落たことする技量があったんだなぁ。

 じゃあ一個景品が増えたことだし、その分私が一個貰っても差し支えないだろう。レイズ様からのプレゼントにお客様も喜ぶし、その余りで私も喜ぶ。これぞwinwinの関係。


「さすが素晴らしいアイデアです、レイズ様」

「……」

「おや、どうかしましたか?」

「メイド」

「なんでしょう」

「まさかとは思うが盗むなよ?」

「盗みませんよ!?」


 ほんと失礼な奴だな。盗むなんてそんなことは……うん、しない。しないぞ!

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