07:あの人たちの翌日

 クリスタルをパーティから追放した翌日、三人は今までになく『清々しい朝』を迎えた。


「さて、ようやく邪魔がいなくなった。他のパーティより一人少ないが――」

「何よディエゴ。あいつなんているだけムダだし、むしろいなくなってくれてよかったわ」


 意地悪そうな笑みを浮かべるジェシカに、ディエゴも「……そうだな」と同じような笑みを作る。


「どれだけやりやすくなったか、俺も楽しみだ」


 頬杖ほおづえをつきながら、イアンも小さくうなずく。


 朝食を食べ終わると、三人はそれぞれ荷物と武器を持ち、ギルドの庭での『慣らし』をしに行く。

 煩わしいものが消え、剣の一振り一振りに力が入る。ディエゴもイアンもジェシカも。


「さて、そろそろ討伐に行くか……あぁ、気にする必要はなかった」


 いつものように、ディエゴの指示でパーティは動く。これは『厄介者』がいなくなっても変わらない。

 むしろ『厄介者』を追い出したおかげで、一日がスムーズに進んでいる。『厄介者』はディエゴたちより倍の慣らしが必要で、討伐に行こうとする三人の手を煩わせていた。


「今日からはいっぱいモンスター狩って、がっぽり換金してもらうんだから!」

「……あぁ」


 両手でガッツポーズをするジェシカに苦笑いするイアン。

 三人は冒険者ギルドの裏の、ダンジョン化した森(上級者向け)へと入っていった。






 森に入ったとたん、三人は毒キノコのモンスター・ルーマシュムの大群に囲まれてしまった。


「今日はいつもより数が多いな」

「……数は多くてもたかがルーマシュムだ」


 背中合わせに三人は剣を構え、ディエゴの「いくぞ」の合図で同時に攻撃をしかける。


 斬る時に飛ぶ、毒入りの体液には気をつけつつ、絶妙な角度をつけて何体も斬り倒していく。

 しかし、その様子を木の陰から伺っていたモンスターがいた。飛び出した。


「ぐっ……!」


 ディエゴの肩から血が流れ出る。


「ディエゴ! 大丈夫!?」

「ああ、これくらいなら」


 そう言ったものの、剣を振るうための筋肉がやられ、明らかに動きが鈍っている。

 イアンがルーマシュムを全て片づけると、木の枝に止まって目を光らせているモンスターに目をやった。


「アウバールか」


 フクロウのような飛行するモンスターで、滑空してくちばしで攻撃してくるものだ。だが、大きさはそれほどでもなく、このアウバールは三十センチほどの体長である。

 ルーマシュムの次に強いくらいのモンスターだ。


「先に進みたいが、アウバールに追いかけられては厄介だ。ひとまず倒しておこう」

「……分かった、俺がおとりに」


 イアンは剣先を前に突き出したまま、こちらをにらみつけるアウバールに近寄っていく。

 かなり近くまで剣先が迫っているのにもかかわらず、アウバールはピクリともしない。


(……いける)


 このまま逃げないとみたイアンは、腕を少し引いてアウバールに剣を突き刺した――はずだった。

 すんでのところで真上に羽ばたいていき、イアンが見失った瞬間、腕に鈍い感覚が走る。


 さっきディエゴが攻撃されたのと同じところが赤く染まっていた。


「……な、なぜだ」

「飛ぶモンスターはやはり厄介だな」

「どうして! いつもこれくらいのモンスターなら、剣で倒せるでしょ!」

「……弓使いがいないからか」

「と、とりあえず! 何も収穫がないんじゃ、上級パーティの恥よ! アウバールだけは倒さないと!」


 数分後、やっと三人がかりでアウバールをしとめた。

 明らかに、厄介者がいなくなる前より、モンスターから攻撃をらう回数が多くなっている。


 滑空してくるアウバールを突き刺すだけの、ディエゴたちには簡単な仕事だったはずなのに。






 今日はダンジョンの奥には進まず、中級のダンジョンにいるくらいのモンスターを少し狩って、討伐は終わった。

 ギリギリの体力で帰ってきた三人は、ダンジョンの出入口でちょうどとある弓使いに出会った。


「あれ、昨日弓使いを追放した、ディエゴのパーティじゃない。いつもよりかなりボロボロになってるみたいだけど、収穫は?」


 ディエゴもイアンもジェシカも、その弓使いを知っている。弓使いの名門、あのアーチャー家の長女――クリスタルの姉だ。


「今日はあまりモンスターがいなくて。ルーマシュム、アウバール、トロックスーン――」

「え? 『今日はいつもよりモンスターが多いから狩ってきてくれ』って、ギルドの管理人から言われたから来たんだけど」


 三人の顔が(ケガを負って青ざめているところに)さらに青くなる。


「そ、そうかな。中にはあまりいなかったけど」

「あまりいなかったなら、どうしてこんなにボロボロなの?」


 三人の顔がさらに引きつる。ディエゴの言い訳がかなり苦しい。


「その傷は何かに突き刺された痕。牙とか爪とかじゃない。アウバールのくちばしでしょ?」

「い、いえ、アウバールごときの傷じゃないわ、えっと……」

「やっぱり、弓使いがいないとキツいでしょ」


 ディエゴたちはひどく痛感した。アーチャー家の娘に言われたのだからなおさらだ。皮肉にも、アーチャー家の娘を追放したのだが。


「そうだ。最近はソロでやってたけど暇だから、ディエゴのところに入ってやってもいいけど」


 ディエゴより背は小さいはずだが、見上げるような感覚になるのは気のせいではない。


「まぁ、入りたいなら入れ」

「ほ、本当は弓使いなんて必要ないけどね!」

「……またアーチャー家のヤツか」


 それぞれ体の数ヶ所から血を流しながらも、強がり続ける三人に、ため息をつくアーチャー家の長女。


「明日、本当の弓使いっていうのを見せてあげるから。強がっていられるのも今日までだろうね。じゃあね」


 背負っている筒から矢を取り出すと、何も言わずにこちらを振り向いてから、ダンジョンの中へと入っていった。

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