21

 チャナイからアゲハの元にアゲハ号の修理と整備が完了したとの使いがあり、アゲハとユロイスがドックへ駆けつけると真新しい塗装が施され無傷の状態に戻ったアゲハ号の前で、チャナイが両腕を組み小さく細い体をふんぞり帰らせて二人を待っていた。その後ろにはバシリスとエウジミールの姿もみえる。


「お前さんが拵えた穴と言う穴はしっかり塞いで塗装もし直した。エンジンもオーバーホール完了、潤滑油も交換済み、船橋の窓や他の舷窓の防弾ガラスもダメなところは全部張り替えたし、浮素、窒素ガス、燃料も満タン、蓄電池も満充電、油圧系統もぜんぶ油を入れ替えた。弾薬類、食料、飲料水、その他諸々もお前さんの手下が全部積み込んである様じゃ、何時でも出れるぞい」


 そう得意満面に説明するチャナイの言葉の半分はアゲハの耳に入っていなかった。

 彼女の注意は操舵室の真下、船首の左側にいつの間にか設けられた小さな扉に向いていたからだ。


「チャナイ爺さん、これ・・・・・・」

 

 その、ちょうどアゲハくらいの体格の人間なら潜り込めるほどの幅をもっている小扉を指さし訝し気に訊ねるアゲハにチャナイは。


「お、気が付いたかい?まぁみてみな」


 と愉快気に笑いつつ、操舵席に座る自分の手下に合図を送る。

 すると船首の小扉が素早く開き、中から黒光りする短い鋼鉄製の筒が現れた。

 どう見ても大砲だった。


「75ミリ戦車砲じゃ、元はウンハルラント軍の4号戦車に着いとった奴を改造して移植した。自動装てん式で装弾数は21発、照準、発射、再装填は全部操舵席で出来るようにしてある。船体のバランスも調整済み、発砲時の反動も排煙もしっかり対策済み、これなら飛行駆逐艦だろうが丙飛戦だろうが渡り合える。標準的な小銭船なら一発でバラバラじゃ!いゃ~!ワシぁ昔っから小銭船に大砲を積んでみたかったんじゃぁが、これで夢が叶ったわい!」


 と、豪快に笑うチャナイに、顔面蒼白なアゲハは。


「こんなの、頼んでないよォ!」


 対してチャナイは。


「お前のお袋さんからの依頼じゃ」

「お、お母様の?」

「娘が安心してオトシマエを付けられるようにしてやりとの、お前のお袋さんからの頼みでな、で、ワシがこいつを提案したら喜んで賛成してくれたわい、ああ、支払いなら安心せい、本体、組み込み工賃、砲弾21発と試し撃ち用の3発、その他調整費用、全部お袋さん持ちじゃ、いやぁ~エナハさんは美人ってだけじゃのうて太っ腹な方じゃぁ~。お前さんも早うあんなエエ女になれよ!」


 これもまた話半ばでアゲハは船首に歩み寄り、その前でしゃがむと分厚い鋼の筒にそっと手を置いた。

 ヒンヤリと冷たい感触を味わい、砲身内に刻まれた線条を指でなぞってその滑らかさを確かめつつ。ふと。


「お母様ったら・・・・・・」


 と漏らしたあと、振り返ってユロイスに。


「副長、仕事が増えちゃったけど大丈夫?」


 これに彼はどこか愉快気に微笑みながら。


「ご安心ください船長。私は大戦中に45ミリ砲を搭載した戦闘爆撃機も操縦していました。連合軍の駆逐艦1隻、帝国軍の戦車50両撃破の成績は伊達ではありませんよ」

「さっすが撃墜王!頼もしいじゃない!」


 そうユロイスの返事に満足したアゲハは表情を硬め命令した。


「副長、明日出航するわ。全乗員を招集して」

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