「前進!第三戦速!揚力とエンジンの出力で高度を維持する!」


 アゲハの指示にユロイスとバシリスはヨーソロー!で答え、小刻みに震えながらも船体は若干水平を取り戻す。

 そして。


「500!気嚢内滞空値。安定してます」


 半ば今まで中腰に成っていたアゲハは大きなため息と共に椅子に尻を下し、チャタリは緊張で浮き上がっていた耳を再び垂らし、バシリスはベレー帽を脱いで額の汗をぬぐった。



 

「該船、急速降下!被弾した模様です!」


 艦橋の右舷を担当する見張員の報告に、副長は。


「良くぞチョコマカと逃げ回りましたが、年貢の納め時の様ですな。追跡いたしますか?」


 口ひげを扱きつつしばらく考えていたカラバミ少佐は。


「いつの間にか低気圧の真上を飛んでおった様じゃな。下の視界はどうか?!」

「全く効きません!」


 との見張員の返事。

 フンと鼻で笑って。


「この下は赤道洋のど真ん中じゃ、おそらく今頃は雲の下の視界は最悪じゃろうて、落ちておったらそれでヨシ、生きておったらまた叩き落としてやるまでよ」


 との言葉を聞いて副長は。


「では、艦隊に戻りますか?そろそろ戻らないとまた提督からおしかりを受けますよ」

「チッ!星の数だけで威張り腐る青二才めが、偉そうにこの儂に説教を垂れくさりよる。グチャグチャうるさいから帰るとするか!方位フターナナーマル、龍顎に進路を取れ!」


 副官が復唱し航空士に指示を出すのを聞きつつ、カラバミ少佐はふと独り言をこぼした。


「それにしても、イヤに正確なタレコミじゃったなぁ?」

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