主砲から放たれた砲弾が絶え間なく飛来し辺りで次々と炸裂する。今度はこれに25ミリ機関砲から噴き出す曳光弾交じりの徹甲弾が加わり、船体を容赦なく掠めてゆく。

 いつ終わるとも知れぬ三次元の回避運動のお陰でアゲハ号乗員の三半規管はめっちゃくちゃに叩きのめされるが、ここで止めたら間違いなく命中弾を喰らい船は四散する。

 今まだこの船が飛び続けているのは、ユロイスの神業的な操船技術とエウジーミルのパイプオルガンの名演を思わせる気嚢操作、そしてバシリスのエンジンと語らうような運転技術にのお陰に他ならない。

 しかし。


「右舷第一気嚢、急減圧!砲弾の破片で気嚢に穴が開いたかもしれません」

「エンジンもう限界じゃ船長!」


 操船に全身全霊を傾けるユロイス以外、全員が報告者のエウジーミル、バシリス、続いて船長のアゲハを見つめる。

 目の前に次々と現れる砲弾の炸裂する閃光を交わしながら、背後のアゲハにユロイスは。


「船長!ご決断を!」


 アゲハは、きつく目を閉じ歯を食いしばり、唇を引き絞って一瞬うつむくと、ハッと顔を上げ。


「アアッ!クソォ!全気嚢緊急ベント!ヨーソロー!」


 すかざすエウジーミル。


「全気嚢緊急ベント!ヨーソロー!」


 気嚢制御盤にある緊急ベント用のコックを開く。

 中央檣楼を左右から挟むように配された半円形の船体内部にある両方合わせて4つの気嚢から、大気中目掛け船の浮力源、浮素ガスが無制限に放出される。

 途端に船は重力につかまり、急速に落下を始めた。

 強烈な振動に震える船体。

 加速で椅子に押し付けられる乗員。

 伝声管から銃座にいる他のクルーの呻きや悲鳴や罵声が聞こえる。

 エウジーミルは重力に耐えつつ高度を読み上げる。


「3400、3300、3200,3000,2500」


 窓の外から砲弾がさく裂する閃光や爆炎、曳光弾の輝きが消え、代わりに濃厚な闇が辺りを覆い、大きな雨粒が窓を叩く。

 計器類を照らす小さな灯や、電探機の画面の明かりだけが周囲を照らす。

 その間もユロイスは船体を安定させるため舵を握り続ける。


「2000、1900、1800、1700」


 高度の読み上げの声がつくづく中、アゲハはチャタリに。


「電探に敵影は?!」

「感ナシです!」

 

 エウジーミルが「1500」の数字を口にすると。


「ベント停止!気嚢内濃度滞空値!ヨーソロー!」

「ベント停止!気嚢内濃度滞空値!ヨーソロー!」


 コックが閉じられ弁は閉じられる。同時に冷やされ圧縮されていた浮素ガスを気嚢に戻し浮力を復活させる。

 が、しかし。


「1200、1100、1000、900!」


 エウジーミルはまだ降下し続けていることを伝える。

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