特等船室のある第一甲板に入ると、ホランイとダチュレは仕事の真っ最中だった。

 ホランイが右舷、ダチュレが左舷側の客室を回り、ドアを蹴り開け銃を突きつけつつ押し入り手にした麻袋に金品を入れろと命じる。

 銃口の前で怯え切った乗客は、ともかく装飾品や札入れを、差し出された袋に投げ込むほかない。

 金品を巻き上げた相手に対して二人はお返しとばかりに、黒字に白くアゲハ蝶の羽を広げた髑髏の図柄が印刷されたカードを一枚投げてよこす。

 作業終了の証明だ。


「調子はどう?」


 とのアゲハの問いにホランイは。


「さすが豪華客船でやすね、実入りが違いまさぁ」


 と麻袋の中を広げて見せる。中には指輪、首飾り、髪留めなどの装飾品、銀製の煙草入れ、金時計などの工芸品にぽってりと分厚い高級服飾店製の財布等がぎっしり詰まっている。


あがはさっき品の良さげな年寄夫婦と記念写真を撮って、お礼にこいつを貰ったぞ、カードをやったらエライ喜ばれた」


 そう言ってダチュレは金製の懐中時計をぶらぶらさせた。

 横でホランイが。


「おい、金のたっぷり入った長財布ももらったろ?正直に出しな」


 渋い顔をしつつ尻ポケットに隠した分厚い長財布を取り出し、自分の麻袋に放り込んだ。


「曳光弾と燃料代、それに今日のみんなの日当位には成るわね。引き続き一等船室もお願い、アタシは今から102号室にお邪魔するから、ヨーソロー」


 二人のヨーソローを聞くと『お宝』が待つ102号室へ走る。

 ドアを押し開け部屋に突入しようとすると、牛角を生やし黒い背広を着た南方人種の大男が拳銃を構えているのが目に飛び込んだ。

 素早くドアを閉めると同時に室内から二発分の発砲音が響き、続いて男の野太い悲鳴と破裂音や風きり音が漏れて来る。

 静かに成ったのでドアを開けると、照明は破壊されて消えて真っ暗になっており、舷窓が割れ突風が吹き込み、引き千切れたカーテンが喧しくはためいていた。

 男が放った弾丸が跳弾となり、室内を荒らしに荒らしたのだ。

 懐中電灯を点灯させ床のあたりを照らしてみると、あの牛角男が床に丸まって震えている。

 

「鋼鉄の壁で覆われた飛行船の船室で、被覆鋼弾を使ったどうなるか分かった?素人のオ、ジ、サン!」


 と、バカにしつつ剥き出しの牛角男の延髄に踵を叩き込み気絶させ、今度は寝室のドアを蹴り上げる。

 そこには巨大なベッドの上で高そうな絹のガウンに身を包んだ頭が禿げ上がった小男が一人、取っ手の着いた箱を抱えちじこまっていた。

 依頼人が見せた古美術商の業界新聞に載っていた顔。カオ・タオモウに間違いない。


「用心棒は少々高くても頭の良いのを雇わなきゃダメって、いい教訓に成ったわね。さぁ、授業料としてその大事に抱えてるものを頂きましょうか」

「こ、これだけは勘弁してくれ!せっかく競り落とした逸品なんだ!」


 震える声で懇願するも元から聞く耳なんかある訳がない。素早く歩み寄りユスノフ00式を突き付けると。


「この世の中、命より大事なもんてそうは無いわよ大人しくよこしなさい!」 


 箱の取っ手を引っ掴み無理やりはぎとると、銃口を相手に向けたまま箱の留め金を開け中身を検める。

 ぶ厚く柔らかいスポンジに内張された箱の中には磁器の蓋つき壺が一個。

 透き通るような白地に、繊細な筆致で鮮やかな赤い実を付けたコケモモの姿が一面に描かれている。

 間違いない、今から千年前に南方大陸で栄えた『カンジュ文明』が生み出した最高傑作『コケモモの壺』だ。

 この男が競り落とした金額はアキツ帝国の通貨で25万 えん(5億円)。依頼主はこの金額の2パーセントを報酬として支払うと約束した。

 5千圓(1千万円)・・・・・・。思わず緩んだ頬のまま箱を閉じ脇に抱え込むとカオに向かって。


「それじゃぁ、もらっていくわね、サヨナラー」

 

 アゲハらを恐れ誰も出てこない廊下を、小躍りしたい気分で走り、集合場所の侵入口にした気密扉に向かう。

 そこではすでにユロイスとレイ、ホランイとダチュレが到着していた。


「お宝は?」


 そう問うユロイスにアゲハは箱を軽くたたいて。


「この通り!」


 そして全員を見渡し。


「それじゃ貰うもん貰ったんで船に帰ろうか!」

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