第3話:公爵令嬢は逃避行
いつかの舞踏会から、何故か知らないが自由に行動させてもらえない。
舞踏会デビューしてやっと大人と認められて、この世界の酒が飲めると楽しみにしていたのに、食事時以外ほぼアセーラと二人っきりという状況。
食事時に俺がお父様達に「一緒に食前酒を頂きませんか?」なんて誘ってみても、お父様もお兄様も何かものすごい苦しい表情をしつつ断ってくる。
何なんだ一体?
後ろで侍女のアセーラも目頭を押さえつつ俯きながら「お労しや…。」とか呟いてる。
いや、そう思うなら助けてくれよ。
おい、お母様。俺から目を反らすんじゃない。
ワザとらしい泣きまねは俺には通用せんぞ。
相変わらずお綺麗ですね。美人に涙は似合わないぞ、事情を説明しなさい。
部屋でドアに耳を欹ててゾバダテテ外の気配を探ろうとしても、アセーラがすぐに間に割って入り邪魔をしてくるものだから、本当に暇でしょうがない。
いい加減気が滅入って来るというものだ。
「アセーラ、私退屈で仕様がありませんわ。いい加減外に出して下さいまし。
ここ連日どなた様かが来られているのでしょう? サクリファス家の一員として、ご挨拶しないわけにも参りませんわ。」
「あ、お嬢様! 今日は新しい茶葉が手に入ったのですよ。このアセーラと一緒に試してみましょう。
それか、私達と一緒に遊びましょうか。
今、使用人達に紅茶と道具を準備させますね。」
おい、あからさまに話題を反らすな。
そして大量の衣装やら水着を抱えてくるな使用人達よ。もうそれ何度目だ? 同じようなデザインが揃ってるのに毎回新しいのが混ざってくる。
どう考えても貴方達買いに行ってるか、行商人の衣装選別してるよね? 俺も混ぜろや。
同じことの繰り返しのはずなのに毎回貴方達の目が怖いんですよ。
特にアセーラ、何を悶えているのかね?
いや美人が喜んでくれるならばこんなに有難い事は無いんだけどね?
…あれ? 俺暇じゃないんじゃないのこれ?
…いやいや、俺にとっては同じ問答の繰り返しで嫌になるのだよ。
「はぁ…、アセーラや使用人の皆様? そう何度も私の幼稚な姿など見ても楽しいことなど有りますか。
私の貧弱な衣装姿よりも、皆様の方がお美しいのですから…皆様が着た方が衣装も喜びましょう。
特にアセーラはスタイルも良いですから…、これなんてアセーラに似合うのではないですか?」
「何を仰いますかお嬢様! 私達とお嬢様など比べるべくも御座いません!
皆もそう思うでしょう?───…、ほら御覧なさい。
満場一致でお嬢様が着る方が良いという結論は出ているのですよ。
全く…、お嬢様は御自分のお姿に頓着が無さ過ぎます。……それでいてこんなにナチュラルに口説いて回るなんて…だから迂闊に外になんて出せないんですよ…。
コッホン! そんな事よりも! 次は此方を着てみましょう。非常にお似合いで今にも押し倒…いえ、卒倒してしまいそうですわ。」
アセーラの醸し出すオーラが不穏すぎる…。
しかも今結構危ない事口走ってなかったか?
おい、勘弁してくれよ。嬉しいぞ、いつでも来い。
そんなこんなあったが、今日は久々に庭までは出してもらえることとなった。
来客は無いらしい。
久々の直の太陽光がまぶしいね。
俺は
「ぅ、うーん…!」
と伸びをして、柔らかな日の温もりに包まれた背凭れセモタレに薔薇の花があしらうわれたガーデンチェアに腰掛け、紅茶を頂く。
色とりどりの花びらが撒かれ、目にも優しい。
非常にビールの美味しいであろう日差しと光景だ。
なまじ外へ出たことで飲酒欲求が膨れ上がってきた。
実際、酒は舞踏会で密かに一口だけ口を付けたのみで、全く飲めていない。
あの獣目の王子が邪魔さえしなければ…。
前世では毎週どこかに酒を求めて行っていた記憶があるのだが、今生では随分と酒の神に嫌われているらしい。
だが、手に入らないものほど欲しくなるのが人間だ。
この溢れ出る欲求をどうにか解消しようと、俺は遂に夜間の脱走を企てる事にした。
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あの舞踏会が終わってからと言うもの、僕の最愛の妹リースへの面会要求、見合い要求などが後を絶たない。
此れまで大事に大事に懐へ入れていた彼女を何処の馬の骨とも分からん連中になど絶対にやってなるものか。
しかも、どいつもこいつも目の奥に欲望を滾らせてタギラセテいる。
リースが目当てなのか、家との繋がりが目当てなのか分からない連中だらけだ。
一万歩譲ってリース目的だったら、会わせてやらない事も…。
いや、無いな。
まぁしかしながら、こうなってしまったのもリースが原因の一部である事は明白だ。
舞踏会での挨拶周りの時、不用意にあんなとろりとした瞳で笑みを浮かべて凝視したら、男で反応しない奴なんて居ないだろう。
人当たりが良すぎるのも考え物だ。厳しく言ってやらないと。
でも、食事の度に仲直りの食前酒の酌み交わしをかわいくおねだりしてくる。
そんな顔されて強く言えるはずがないじゃないか!
父上に助けを求めてもてんで役に立たない。
母上も目を合わそうとしない。
仕方なく心を鬼にしてそこ要求を突っぱねるのだ。
すると毎回父上に縋るスガル様におねだりしに行く。
父上、せいぜい悔やめ、天誅だ。
さらに腹立たしいことに、欲望に塗れた連中ですら嫌気が差すと言うのに、毎日のように第一王子から贈り物が届く。
白のカーネーションだったり黄色のゼラニウムと桃色のコチョウランを混ぜた花束だとか、はたまた細工師の新作のブローチ等だ。
花束なんぞは、貰い受けてすぐに、庭にばら撒いてやっている。
アクセサリーの類は、送り主不在として返品してやっている。
あの王子は舞踏会から既に危険な匂いを漂わせていた。
父上も要注意人物として名を上げていたほどだ。
戦で多くの武功を立てているが、その影で力ずくでの略奪も噂されている。
奴にだけは本当に気をつけねば…。
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