第70話

――ゲルチア公爵視点――


「だから問題ないと何度も言っているだろ!!私の言う事が信じられないのか!!もういい出て行け!!」


 今日もまた一人、私の賄賂を受け取っておきながら私に意見してくる貴族が現れた。まったくどいつもこいつも…あれだけ私の言う事を聞くと言っていたのに、シンシアへの告発文書が跳ね返された途端手のひらを返しよって…

 これもすべて、フォルツァとシンシアのせいだ…連中私の邪魔ばかりしよって…私が次期皇帝の椅子に座ることがそんなに悔しいのか?…なんと卑しい連中か…

 そのような考えを巡らせていたその時、使用人が私のもとにある人物の訪れを知らせに来た。


「公爵様、ジョート様がお見えです」


 ジョート…ああ、あのくそ真面目な死んだ伯爵の臣下の男か…あいつも私側の人間のくせに、私に意見しに来たんだろう。全く身の程をわきまえてほしいものだ。


「はぁ?…まあいい通せ」


 いらだちを隠すこともせず、ここに通すよう使用人に告げる。それからほどなくして、使用人の案内を受けながらジョートが部屋に姿を現した。


「また貴様か…先に言っておくが二人の面倒を見ろなんて頼みは聞かんぞ。お前にはちゃんと報酬をくれてやっただろう?今更文句はあるまい」


 私の味方をして伯爵を裏切っておきながら、いつまでも善人面をしよって…ほんとうにうっとうしい男だ…

 そんな私の表情を読み取ったのか、ジョートはめずらしく従順な態度を見せる。


「は、はい…心得ております」


「ほう…じゃあ何だ?私も忙しいんだが」


 こんな奴の相手をしている時間など私にはないのだが…

 もう追い返してしまおうかと考えていたその時、ジョートはとんでもないことを口にする。


「実は…公爵様が負債飛ばしを行っているという証拠を、フォルツァとシンシアがつかんだ様なのです…」


「なっ!!!」


 その言葉に私は感情的になり、口調を荒げる。


「ば、ばかな!!!それに関わる資料は秘密書庫に厳重に保管している!!存在も明かしていない上に、あそこに入れるのは私だけだ!!そんなはずはない!!!」


 そう、あそこは何重にも対策をしている場所だ。皇帝だって簡単には立ち入ることはできないだろう。そんな場所に奴らがそうやすやすと侵入などできるはずがない…!!!

 しかしジョートは冷静に私に言葉を発する。


「し、しかし、本当のようなのです…私は奴らの屋敷を訪ねて確認しました…」


「!!!」


 私は即座に使用人一人を呼び出し、緊急の仕事を耳打ちして伝える。その内容を聞き届けた使用人はすぐに行動に移り、この場を後にしていった。

 …落ち着こうと思っても全く落ち着けない。心臓の鼓動が早くなり、呼吸も荒くなる…何度も何度も同じ場所を行ったり来たりし、頭の中で考えをひねり上げる。


「ううう…まずいまずい…あれが表に出てしまえば、私は本当に終わってしまう…」


 …もうこうなってしまっては手段を選んでいる時間はない。向こうが動き出すその前に、どんな手を使ってでも奴らを先につぶさなければならない…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る