第64話
「ど、どうかな?」
「良い!!すごくいいと思うの!!」
このやり取りは私とフォルツァではなく、私とシグナ君のやり取りだ。昨日の朝シグナ君とマナさんが屋敷に到着して、マナさんの方は先生の付きっ切りで療養してもらうことになったのだけど、シグナ君の方は私たちのお手伝いがしたいと言ってくれた。そういうわけでシグナ君にはレブルさんが来ている服と同じ衣装がすぐに用意されて、今着てもらったというわけだ。…その姿はまさにミニレブルさんといった姿で、とても可愛らしい。これだけでも十分私たちの心の癒しになってくれていると思うの…!
「うん!用意したかいがあったね!」
フォルツァは口元に手をあてながら、うれしそうな表情を浮かべている。
「まあ、いい感じで何よりだ。これからよろしく頼むぜ」
シグナ君の横にレブルさんが立ち、その頭を乱暴になでる。レブルさんもシグナ君もどこかうれしそうな表情だ。
「それじゃシンシア、レブル、後は頼んだよ」
フォルツァが私たちにそう告げ、支度を整える。フォルツァは今日は一人での公務のようで、これからどこかへとお出かけの様子だ。フォルツァは準備を終えた後、私たちに見送られながら出発していった。
「それじゃレブルさん、私はマナさんの様子を見に行ってきますね」
「ああ、分かった」
シグナ君にまたあとでねと告げて、彼をレブルさんに託して私はマナさんのいる療養室へと向かった。もし何か必要な物があったら、早めに聞いておかないと…
彼女の部屋の扉を数回ノックし、返事を確認したのち私は部屋の中へと足を踏み入れた。
「シンシアさん、どうもありがとうね」
弱弱しい声ながらも、はっきりと感謝の言葉を伝えてくれるマナさん。
「わ、私は何も…それよりマナさん、なにか必要な物や足りないものはないですか?」
私のその言葉にゆっくりと首を横に振ってこたえるマナさん。
「もう十分ですよ、皆さんにも本当に良くしていただいて…そういえばシグナはご迷惑をおかけしていませんか?」
彼女は心配そうにそう口にした。め、迷惑どころか…
「迷惑どころか、かわいくてかわいくて仕方がないと言いますか、もはや愛おしささえ…あ」
ちょ、ちょっとばかり心の声が出てしまったかな…?そんな私の言葉に一瞬きょとんとした表情を浮かべたマナさんだったけど、その表情はすぐに笑顔へと戻った。
「くすくす。それならよかった…そういえばひとつ、シンシアさんにお聞きしたかったことが」
「?」
突然のマナさんからの質問に、何を聞かれるのか若干ドキドキする。
「前にお作りいただいたお料理、本当に美味しかったのですが、シンシアさんは一体どこであの技術を…?」
「あー…」
…話すこと自体は全く構わないのだけれど、話が長くなっちゃうかな…でも十分時間はあるし、別に良いかっ…!
私は自身の生い立ちから、ここに来るまでのいきさつ、これまでくぐりぬけてきた死線の数々をマナさんに話した。最初は信じられないような表情を浮かべていたマナさんだったけど、あまりに突飛な私の経験の連続に少しずつ慣れてきたのか、段々と落ち着いた表情を浮かべてくれていった。
けれど最後には、心底申し訳なさそうな表情を浮かべながら私に言葉を発した。
「そ、そうだったのですか…お辛い話をさせてしまって、ごめんなさい…」
「いえいえ、気にしないでください!私は大丈夫ですから!」
私自身、あのつらかった思いは乗り越えられつつある…と思う。ほかならぬ、ここにいるみんなのおかげで。
そんな私の表情を見てか、マナさんが続けて言葉をかけてくれる。
「…あなたは本当に強い女性なのね。私も見習わないと…」
「い、いえ!そんなとんでもない…!…私なんてまだまだで…」
「くすくす。そういう所も含めてね」
「??」
マナさんは頭上にはてなマークを浮かべる私に笑みを浮かべながら、私たちは会話を終えたのだった。
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