第62話
「う、うう…」
「お、お母さん、大丈夫?」
シグナ君の力を借りながら、ゆっくりと体を起こすお母さん。
「お母さん、フォルツァ伯爵様がいらしてるよ!」
「…?」
お母さんはゆっくりと私たちの方に視線を移し、うつろな表情のまま挨拶を始めた。
「こ、これはフォルツァ様…シグナの母の、マナでございます…このような姿で申し訳ありません…」
「いえいえ、お気になさらないでください」
優しく穏やかな表情でそう言葉をかけるフォルツァ。シグナ君はそのまま、私の紹介に移った。
「それでこっちのお姉ちゃんが、伯爵さまのお嫁さんだよ!」
「シ、シンシアと言います!」
そういう紹介のされ方に慣れていないからか、少し語尾に力が入ってしまう私。そんな私を見て、少し不思議そうな表情を浮かべるマナさん。
「まあ、そうでしたか。しかしあの皇帝陛下がよくお認めに…」
「はは…実は父上にはまだ詳しくは話していないんです」
若干の苦笑いを浮かべながら、そう口にするフォルツァ。そうなのだ、私がこれまで何度その話をしても、そのたびにフォルツァにうまくかわされてしまうのだ。…なにか二人の間には、私の知らない秘密の取り決めでもあるのだろうか…?
「お母さん、これ食べてみて!!」
ついさっき私たちの作ったお料理を、満面の笑みでマナさんの元へと運ぶシグナ君。
「え?ええ…」
マナさんは若干戸惑いの表情を浮かべながらも、いただきますを唱えてゆっくりと食事を始めた。
「…お、おいしい…でもこれ、一体…?」
「僕とお姉ちゃんが一緒に作ったんだよ!」
「ま、まぁ…」
シグナ君の言葉に驚きの表情を浮かべながらも、食事の手を進めてくれているあたり、仕上がりは良かったようで私はあんどした。
そんな私の横から、真剣な表情をしたフォルツァがマナさんに一つの提案をするのだった。
「マナさん、私からひとつお願いがあるのですが」
「?、なんでしょう?」
突然目の前に現れた伯爵様からの突然のお願いに、どこかかたくなっている様子のマナさん。
「このままではお二人のお体が危険です。しばらくの間だけでも、我が伯爵家でお暮しになっていただきたく思うのです」
「…」
フォルツァのその提案は、彼女の予想外のものだったらしい。マナさんは驚きの表情を浮かべたまま固まってしまっている。
けれど私も同じ心配をしていたから、間を開けずにフォルツァの言葉に続ける。
「私も、是非そうされたほうがよろしいかと思います!」
私もフォルツァの所に行って救われた身。だからこそこの二人にも、あのあたたかい場所にぜひとも来てほしく思った。
「行こうよ!お母さん!」
お料理のおかげで私になついてくれたのか、シグナ君は私の腕をつかみながら私の言葉に賛同してくれた。けれどマナさんは、どこか申し訳なさそうに口を開いた。
「…でも、本当にいいんですか?私たちお礼できるようなものはなにも…」
マナさんの言葉に首を大きく横に振り、返事をするフォルツァ。
「そんなことはいいのです。私はお二人の力になりたいだけですから」
「伯爵様…」
マナさんはそう言って少し考えた後、フォルツァの提案を受ける姿勢を示した。
「決まりですね!!」
なんだかうれしくなってしまった私は、思いのままにそう言葉を発した。これからまた新しい生活が送れそう!!
…だけど、なにか大切なことを忘れているような…?
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