第43話

--マリアーナ視点--


 一体どういうことなの!マリアチ皇室長は確かに、我が娘ナナを妃として推挙すると言ってくださったのに!!


「公爵!説明してください!いったいどういう事ですの!!」


 屋敷に戻るなり、隣に座る公爵に噛みつく私。しかし公爵もまた私と同じく、事態が全くの見込めない表情を浮かべていた。


「マリアチめ…まさか私たちを裏切るとは…」


 …正直私からすれば、皇室長も皇帝もこの際どうだっていい。私が最も憎たらしいのは、皇帝の妃になるなどとぬかしているあの女。あいつよりも下の身分になるだなんて、死んでもごめんだ。


「…お母様?」


 私たちの声がうるさかったのか、ナナが部屋を訪ねてくる。私はすぐにナナのもとに歩み寄り、彼女を抱きしめて声をかける。


「…大丈夫よナナ。あの女を妃になんて、絶対にさせないから。あなたはあいつよりも数百倍美しくて、凛々しいんですもの。妃にふさわしいのは、間違いなくあなたよ」


「…お母様…でも、これ以上は…」


 そう言い、俯いてしまうナナ。間違いない、今回の一件のせいで自信を失ってしまっているのだ。私はナナを抱きしめたまま、公爵に非難の声を上げる。


「公爵!!あなたのせいでナナがひどく傷ついてしまったわ!!いったいどう責任を取ってくれるのかしら!」


 あれだけ自信満々に私に任せておけと言っていたくせに、終わってみればこの有様だ。


「わ、私だけのせいにされても困る!あの時シンシアに反論された君は、何も言い返せなかったじゃないか!あれのせいで会議の流れが変わってしまったんだ!」


 はあ?自分が失敗しておいて、私に非があるというのかこの男は。


「お、お母様…もう…」


 小さな声で訴えるナナに私は全く気づかず、公爵と問答を続ける。


「自分が失敗しておいて、どうして私の責任になるというの!?大体あなたはじめからきちんと作戦を立てていれば…」


 …結局そのやり取りは翌朝まで続き、お互いに体力を使い切ったところで問答は終わりを迎えた。


「…私は絶対に嫌よ…あの女が妃になって、私よりも上の位になるだなんて…絶対に嫌…」


 私がそうボソッとつぶやいた時、公爵が何かをひらめく。


「…そうか…そうだ!この手があったか!!」


 公爵はそう言うと突然立ち上がり、私の方を向く。


「ふふふ。あの女を追い落とす手段は、まだあるぞ♪」


 …前と同じ、自信満々の顔だ。


「…一体どうするというの?」


 私のその疑問に、気持ちの悪い下衆な笑みを浮かべながら答える公爵。


「それを教えてほしいなら…ほら、決まってるだろう?」


 …体か。これも前と同じ。もうここまでくると逆にすがすがしい。


「…はぁ。仕方ないわね…」


 そんな私たちを悲しげな瞳で見つめるナナの姿に、私は全く気付かなかった。

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