第24話「楽しみましょう!」
「ふぅ……もうそろそろかな」
「そうですね。行きましょうか」
「う、うん」
俺とアリナは家を出る。
ついにクリスマスデートの幕開けだ……!
メインイベントは予約もしておいたレストランでのディナーなのだが、それ以外にもデートプランを用意してある。アリナもきっと喜んでくれる……はず……。さっきまでは落ち着いていたのにまた緊張が襲い掛かってくる。
落ち着け、俺。
アリナにも言われたじゃないか。まずは俺が楽しまなきゃ、って。
俺は自分にその言葉を何度も言い聞かせて心を落ち着かせる。
「……よし」
「落ち着きましたか?」
「うん。もう大丈夫だよ」
「それじゃあ、楽しみましょうね!」
俺はアリナの手を繋いで、最初の目的地へと向かった。
『スケートリンク』に!
何故スケートリンクなのかと言うと、アリナはよく家のテレビでフィギュアスケートを鑑賞していたりするので、きっと好きなのだろう。
それに運良く、近くに冬季限定の屋外スケートリンクがある。
これはデートプランに入れないわけには行かない。アリナがもし転びそうになったら、俺が支えてあげるつもりだ。
*****
歩き始めてからそこまで時間が掛からずに目的地であるスケートリンクに到着した。予想より多い人数がスケートリンクに遊びに来ていた。見たところカップルの人たちが多いようだった。
これ、スケートリンクに入るまで結構な時間待たないといけないんじゃないかとほんの一瞬不安になったが、よく見てみると『一組三十分まで』という張り紙がされていた。
俺はそれを見て、ほっとして胸をなでおろした。
これならそこまで待たずに済みそうだ。
そんな俺を見てアリナがふふっ、と笑った。
「翔くん、嬉しそうです」
「そ、そうかな? アリナはどう? スケートが好きだと思ったんだけど……」
「はい! とても楽しみです! それにしてもよく私がスケート好きってことわかりましたね」
「まあ、よくリビングで見てたからね」
「あ、確かにそうですね!」
「お、そろそろ、俺たちの番じゃない?」
「それでは行きましょうか」
俺たちはスケートリンクの前で係員らしき人に渡されたスケート靴に履き替え、スケートリンクに足を踏み入れた。
待って……、スケートリンクってこんなにツルツルしてるの? 転ばないようにするので精一杯なんだけど……。
隣を見てみると、アリナはまったく転びそうにもなっておらず、普通に立っていた。俺の支えなんていらなさそうだ。……というか、むしろ俺の方が転ぶんじゃないか? そうならないように、細心の注意を払わねば!
俺はアリナに格好悪いところを見せないために、余裕そうな表情で前進する。
でも、ダメでした……
一歩前進した瞬間、俺は足をつるっと滑らして転びかけた。
そう。転んだのではない。転びかけたのだ。
どういうことかと言うと、転ぶ直前にアリナが俺を支えてくれていたのだ。そのため、俺は今、とてつもなく恥ずかしい。熟れたリンゴのように顔が真っ赤になっていることだろう。
「翔くん、大丈夫ですか?」
アリナが心配そうな表情で俺の体を支えながら見ている。
あー! 恥ずかしい!
「え、えっと、大丈夫だけど、精神はダメ」
「ふふ、面白いこと言いますね翔くんは」
(本当のことなんだけどなぁ……)
俺はアリナに支えられながら慎重に立ち上がる。
いやー、情けないなぁ。本当なら立場が逆のはずだったんだけどなぁ。
そんな俺の心情に気が付いたのかアリナが笑顔を見せながら慰めてくれる。
「どんなに完璧な人でも失敗することはあるんですから、そこまで落ち込むことじゃないですよ」
「俺、格好悪いところ見せちゃったね……」
「ふふ、気にしないでいいんですよ。二人で楽しむことが一番ですから! 私は翔くんとここに来られてとても楽しいですよ?」
「アリナ……」
「だから、いっぱい楽しみましょう!」
「う、うん! そうだね」
アリナのお陰もあり、俺は気分が下がらずに済んだ。
「それじゃあ、二人で滑りましょう」
「そうだね」
俺とアリナは手を繋ぎながら、一緒にスケートリンクを滑った。
こうすれば、転びにくくもなるし、アリナと楽しめるし、一石二鳥だ。
その後も俺は転ぶことなく三十分間、スケートを楽しんだ。
スケートリンクを出た後、スケート靴を係員に返し、本日のメインイベントであるレストランへと向かうことにした。
「アリナ、次は本日のメインイベントの場所に向かいたいんだけどいいかな?」
「メインイベント?! 翔くんが何度聞いても教えてくれなかったやつですか!」
「そう、それ」
「行きましょう!」
「うん、行こう!」
正直に言うと、俺もかなり楽しみだ。
予約時には、運良く席を予約できたようなものだったからな。
アリナも楽しんでくれることは間違いないだろう。アリナに言われた通りに緊張せずに俺も楽しむ気持ちを忘れずにしよう。
そんなことを考えながら俺たちはレストランへと足を運んだ。
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