第23話「不安な時はハグ」
12月25日、朝。
俺はいつもより早く目が覚めてしまった。と言っても理由は単純だ。緊張のせいだろう。
今日、俺はアリナとクリスマスデートに行く予定だ。
まだ時間は結構あるというのに緊張で落ち着かない。心臓の音がやけにうるさく感じられる。
もう一度眠りにつくことはできなさそうなので、俺はベッドから起き上がり、アリナを起こさないように静かに寝室を出た。
「んー、これから何しよう……」
寝室を出たのはいいものの、何をしたらいいのか全く思いつかない。
俺の頭の中には今日のデートプランの事しかなかった。他の事を考えようとしても、デートが成功するのかどうか不安で緊張が止まらない。
とりあえず気分を落ち着かせるためにコーヒーでも飲もう。
俺はインスタントコーヒーを用意し、飲む。
緊張のせいかコーヒーを用意しているときにコップを落としてしまいそうになった。今も、コップを持っている手が少し震えている。
俺は落とさないようにコップを両手で持ちながらコーヒーを飲む。完全にお茶を飲むときの持ち方になっている。
コーヒーを飲んでいると、寝室の方からガチャッとドアを開ける音が聞こえてきた。恐らく、アリナが起きたんだろう。
そう考えると、より一層緊張してしまう。
「ふぁ~」
「アリナ、お、おはよう」
「翔くん、おはようございます~」
アリナはそう言うと、俺に抱きついてきた。
コップを置いて俺もアリナをギュッと抱きしめる。
「…………」
アリナは抱きつきながら不思議そうな表情で俺の顔を見つめてきた。
「翔くん、緊張しているんですか?」
「え?」
「翔くんの心臓の鼓動が早いです」
「え! アリナにまで伝わってる?!」
「はい、今、抱き合ってますからね」
「ああ、そっか……って、それでもやばくない? そんなに緊張しているのか、俺は」
「今日のデートが不安ですか?」
「うん」
「あんまり失敗したらどうしようとか考えない方がいいと思います。そもそも翔くんが楽しまないと! でしょ?」
「そ、そうだね。ありがとう、アリナ」
俺はアリナのお陰もあって、少しだけ緊張が和らいだような気がする。
アリナの頭をポンポンと撫でる。そうすると、アリナは子猫のように可愛らしくすりすりとしてくる。
ああ……可愛い……。
ふぅ、だいぶ落ち着いてきた気がする。
アリナに感謝だな。お礼にもっと撫でて、抱きしめてあげよう。まあ、いつもとやっていることは変わらないかもしれないけど。
「だいぶ落ち着いてきたよ」
「もう緊張してないですか?」
「んー、まだ少し緊張してるけど大丈夫だと思う」
「そうですか、それなら良かった。今日は思いっ切り楽しみましょうね!」
「うん、ありがとう」
俺は再度、撫でて、抱きしめた。
アリナは嬉しそうにヒマワリが咲いたような明るい笑顔を見せる。そんな顔を見ていると、不安もどこかへ吹き飛んでいきそうだ。
俺たちはその後、朝食の用意をするためにキッチンに向かった。
「アリナ、何が食べたい?」
「そうですね~、翔くんは何か食べたいものありますか?」
「んー、じゃあ、スクランブルエッグとトーストでもいい?」
「ふふ、これぞ朝食ってかんじですね!」
俺はフライパンに油をひいて、火をつけて、卵とベーコンを投入する。
そして箸でかき混ぜる。ベーコンは別で焼くという人もいるだろうが、俺は時間短縮のために毎度この調理法だ。塩を入れるのも忘れないように。
別に今日は時間短縮にする必要はないんだけど、温かいうちに食べた方が美味しいだろう?
因みに、スクランブルエッグを調理している間に食パンを二枚、トースターに入れておいた。
スクランブルエッグが出来上がると同時にトーストが出来上がった。
スクランブルエッグ、ベーコン、トーストを同じ皿の上に盛り付けて、リビングのテーブルの上に並べた。
「それじゃ、食べようか」
「うん!」
「「いただきます」」
俺とアリナは同じタイミングでスクランブルエッグを口に運ぶ。
我ながら、上手くできたと思う。ちょうどいい塩加減で出来上がっている。
「ん~! おいひい~」
アリナがまだ少し熱かったのか口をはふはふさせながらも、美味しそうに食べてくれている。こんなに美味しそうに食べてくれると作った方としても嬉しくなる。
「どう? 美味しい?」
「うん! 美味しいです!」
「良かった。今回は簡単なものしか作ってないけど、次はもっと凝ったものを作るね」
「ふふ、ありがとうございます。でも、次は私も作りますよ」
「そっか。じゃあ、次は一緒に作ろうか」
「はいっ!」
俺とアリナは朝食を食べ終わると、食器をキッチンに持っていき、洗ってから再びリビングに戻って、くつろぐ。
アリナが俺の肩にもたれ掛かりながら聞いてくる。
「今日のデートはどこに連れて行ってくれるんですか?」
「教えたいところだけど、まだ内緒」
「やっぱり、まだダメでしたか、残念」
「着いてからのお楽しみってことで」
「はーい、わかりました」
俺とアリナは家を出る時間になるまで、二人でゆったりとした時間を過ごした。
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